税金

結婚・子育て資金の一括贈与は廃止へ ― 所管の官庁が自ら求めた

毎年8月末、各府省庁は翌年度の税制改正の要望を財務省に提出します。令和9年度の要望(令和8年8月31日付)は、いま財務省のサイトで全文が読めます。

財務省の単純集計は、新設・拡充・延長を求める「要望項目」と、既存の特別措置をやめる・縮める「廃止・縮減項目」を、別々の欄で数えています。提出された要望項目は208件。廃止・縮減項目は、その内数ではなく別に8件です。共同要望の重複を除くと、要望項目124件に対して、廃止・縮減はわずか4件でした。

その4件のうち1件が、子育て世帯のお金に直接かかる税金でした。 「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の廃止」です。要望したのは、この制度を所管するこども家庭庁自身でした(金融庁との共同要望で、主管はこども家庭庁)。残る3件は、登記の登録免許税の軽減の見直しと、東日本大震災の被災者が建造又は取得した漁船に係る登録免許税・印紙税の措置の廃止で、いずれも事業者向けの措置です。

この記事は、いま急いで一括贈与をすべきか、といった判断を述べません。扱うのは、原文に何が書かれていて、制度が無くなったときに税金の計算がどう変わるかです。

結論

要望は決定ではありません。 実際にどうなるかは、例年12月下旬に閣議決定される税制改正の大綱で決まります。ただし、「延長してほしい」という要望と、「所管している自分の制度を廃止してほしい」という要望は、性格が違います。 後者は、政策効果を自己点検した結果として出されたものです。

それでも、この制度が無くなることで多くの家庭が失うものは、名前から受ける印象より小さいはずです。 妊娠・出産・子育ての費用を親や祖父母が必要な都度出す分には、この制度とは関係なく、もともと贈与税がかかりません。一括贈与の制度が上乗せしていたのは、「まとめて先に渡して、使う前の状態で置いておける」という一点です。

そして、その一点には代償が付いています。 使い切れなかった分には、契約が終わったときに贈与税がかかります。しかもその税率は、同じ祖父母からもらったのに、直系尊属からの贈与に使う税率ではありません。渡した人が先に亡くなれば、残っているお金は相続財産に戻ります。戻った分は、贈与を受けていない他の相続人の相続税まで押し上げます。

同じ時期に、もう一つの贈与の非課税も期限を迎えます。 住宅取得等資金のほうです。こちらは所管の官庁が存続を求めていますが、要望書に「延長」という言葉も、期間も、金額も書かれていません。

計算の前提

項目条件
制度直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税(租税特別措置法第70条の2の3)
非課税拠出額1,000万円(制度の上限。うち結婚に際して支払う金銭は300万円が限度)
受贈者契約を締結する日において18歳以上50歳未満。贈与を受けた年の前年分の合計所得金額が1,000万円以下
贈与税の税率契約終了時の残額は、令和5年4月1日以後に取得した分に対応する部分について一般税率(国税庁のあらまし)。③の表と設例1は、拠出した1,000万円の全額が令和5年4月1日以後の取得に対応するものとした(令和5年3月31日以前の取得分に対応する部分には、直系尊属からの贈与に使う特例税率が適用される)
相続税の計算法定相続分課税方式(国税庁 No.4152)。2割加算は算出税額×0.2(No.4157)
2割加算の前提設例2の管理残額500万円は、全額が令和3年4月1日以後に取得した信託受益権等に対応するものとした(令和3年3月31日以前の取得分に対応する部分には2割加算がないため)
端数法定相続分に応ずる取得金額は千円未満切捨て。各人の算出税額と2割加算は円未満切捨て
架空の例示遺産1億円、管理残額500万円、相続人が子2人という設定は、説明のために置いた架空の数字です
計算は Python のスクリプト(scripts/calc-zeisei-kaisei-yobo-2027-zoyo.py)で行い、出力をそのまま転記しています。

① 「廃止」を求めたのは、所管の官庁だった

こども家庭庁が提出した見直し事項(廃止・縮減)の原文です。

令和9年3月31 日の適用期限の到来をもって、本特別措置を廃止するとともに、同日までに拠出された金銭等については、引き続き本特別措置を適用できることとする。

新規の受付を締め切り、すでに拠出した分は続けるという形です。廃止の理由も、同じ書類に書かれています。

本特別措置の創設以降、高齢者が保有する資産について、若年世代への移転を促すことで一定の役割を果たしてきたものの、近年は利用件数が低迷しており、今後の利用増加も見込み難い状況であることから、令和8年度末までとされている結婚・子育て資金管理契約に基づく信託等可能期間の終了をもって、本特別措置を廃止することとし、(略)

「利用件数が低迷」の中身は、同じ書類の自己点検に数字で載っています。

年利用件数
令和5年217件
令和6年253件
令和7年219件

認知率の目標も届いていません。こども家庭庁は短期アウトカムとして「『結婚・子育て支援信託』に対する認知率」の目標値を令和8年調査で**30.0%と置いていましたが、実績は令和4年調査19.4%、令和6年調査23.2%、令和8年調査22.9%**でした。目標に7.1ポイント足りず、しかも令和6年から下がっています。 こども家庭庁自身が「本措置の政策効果は限定的であると考えられる」と書いています。

比較のために、同じ直系尊属からの贈与でも件数の桁が違うものを並べます。 国土交通省が要望書に載せた住宅取得等資金の非課税措置の適用実績(出典は国税庁「統計年報」)です。

年度適用件数適用額
令和4年度49,991件3,405億円
令和5年度62,859件4,508億円
令和6年度45,411件3,180億円

令和6年度の住宅取得等資金45,411件は、令和7年の結婚・子育て資金219件の207.4倍です。 同じ「直系尊属からの贈与の非課税」でも、使われ方がまったく違います。

② そもそも、何が非課税になっていたのか

制度の中身を国税庁の原文で確認します。

平成27年4月1日から令和9年3月31日までの間に、受贈者(結婚・子育て資金管理契約を締結する日において18歳以上50歳未満の人に限ります。)が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等とのその結婚・子育て資金管理契約に基づき、贈与者(受贈者の直系尊属である父母や祖父母など。)から信託受益権を取得した場合(略)には、その信託受益権または金銭等の価額のうち1,000万円までの金額に相当する部分の価額については、(略)贈与税が非課税となります。

対象になる「結婚・子育て資金」は、あらましが2つに分けて列挙しています。

区分中身限度
⑴ 結婚に際して支払う金銭①挙式費用、衣装代等の婚礼(結婚披露)費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの) ②家賃、敷金等の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)300万円
⑵ 妊娠、出産及び育児に要する金銭③不妊治療・妊婦健診に要する費用 ④分べん費等・産後ケアに要する費用 ⑤子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)など⑴と合わせて1,000万円

ここが要点 ― ⑵は、制度が無くても非課税になり得る

扶養義務者からの生活費の贈与は、この制度とは別に、もともと非課税です。 国税庁のタックスアンサーNo.4405です。

夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの

ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他子育てに関する費用などを含みます。

さらに国税庁は、妊娠・出産・子育ての費用について専用のQ&Aを置いています。

親子などの扶養義務者から生活費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものの贈与を受けた場合には、贈与税がかかりません。

ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、妊娠・出産・子育てに関する費用(略)を含みます。

Q&Aが挙げている費用の列挙を、上の表の⑵と並べてみてください。 不妊治療、妊婦健診、分べん費、産後ケア、子の治療・予防接種・乳幼児健診、子の入園料・保育料 ―― ほぼそのまま重なっています。

では、何が違うのか。 同じQ&Aの後段です。

なお、生活費として必要な都度直接その費用に充てるために贈与を受けた場合は贈与税がかかりませんが、数年間分の生活費を一括して贈与を受けて、その財産が生活費に充てられずに預貯金等となっている場合(直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税(租税特別措置法第70条の2の3)の適用を受ける場合を除きます。)は、その生活費に充てられなかった部分については贈与税がかかります。

括弧書きが、この制度の正体です。 「都度なら非課税、まとめて渡して預金のままなら課税」という原則があり、その例外として置かれているのが一括贈与の制度です。

必要な都度もらう一括贈与の制度を使う
子育ての費用に充てた分非課税非課税
結婚費用(挙式・衣装・新居)生活費・教育費として読めるとは限らない300万円まで非課税
使う前に預金のまま置いておく課税非課税
使い切れなかった残りそもそも渡していない契約終了時に課税(③へ)
渡した人が先に亡くなったときすでに使い切っている残額が相続財産に戻る(④へ)

制度が与えていたのは、この表の3行目だけです。 そして4行目と5行目が、その代償です。

③ 使い切れなかった分に、いくらかかるか

契約は3つの事由のどれかで終わります。 あらましの原文です。

⑴ 受贈者が50歳に達したこと ⑵ 口座の残高が0(ゼロ)になり、かつ、その口座に係る契約を終了させる合意があったこと ⑶ 受贈者が死亡したこと

⑴・⑵で終わったとき、残額はどうなるか。

⑴・⑵の事由に該当したことにより、結婚・子育て資金口座に係る契約が終了した場合に、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除(相続等により取得したものとみなされた管理残額がある場合には、その管理残額も控除します。)した残額があるときは、その残額が終了の日の属する年の受贈者の贈与税の課税価格に算入されます(⑶の場合には、贈与税の課税価格に算入されるものはありません。)。

残額は「口座に残っているお金」のことではない

残額は、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を引いて計算します。 この支出額は、口座から引き出した額ではありません。あらましの定義です。

「結婚・子育て資金支出額」とは、金融機関等の営業所等において、結婚・子育て資金の支払の事実を証する書類(領収書等)により結婚・子育て資金の支払の事実が確認され、かつ、記録された金額の合計額をいいます。

そして、その領収書等には提出期限があります。

⑴ 結婚・子育て資金を支払った後にその実際に支払った金額を口座から払い出す方法を選択した場合   領収書等に記載された支払年月日から1年を経過する日 ⑵ ⑴以外の方法を選択した場合   領収書等に記載された支払年月日の属する年の翌年3月15日

期限までに出さなかった領収書は、支出額として記録されません。 実際に結婚や子育てに使ったお金でも、記録されなければ残額のほうに残り、下の表のとおり課税されます。

そして、その税率に注がついています。

※ 暦年課税で申告を行う場合、令和5年4月1日以後に取得した信託受益権又は金銭等に対応する部分は、一般税率が適用されます。

ここが見落とされやすいところです。 贈与税の速算表には一般税率と特例税率の2つがあり、特例税率は直系尊属から18歳以上の人への贈与に使うもので、一般税率より低く設定されています(国税庁 No.4408)。祖父母からもらったお金なのに、残額の部分だけは、他人からもらったときと同じ一般税率で計算されるということです。

1,000万円を拠出して、使えた額ごとに残額の贈与税を計算しました。

使えた額残額贈与税(一般税率)特例税率なら差
1,000万円0円0円0円0円
900万円100万円0円0円0円
700万円300万円190,000円190,000円0円
600万円400万円335,000円335,000円0円
500万円500万円530,000円485,000円45,000円
400万円600万円820,000円680,000円140,000円
0円1,000万円2,310,000円1,770,000円540,000円

差がつき始めるのは、残額が410万円を超えたところからです。 基礎控除110万円を引いた後の課税価格が300万円を超えると、一般税率では20%・控除25万円の段に入るのに対し、特例税率ではまだ15%・控除10万円の段にとどまるためです。

設例1として、1,000万円のうち400万円しか使えなかった場合(残額600万円)を書き出します。

残額                600万円 = 6,000,000円
基礎控除後の課税価格  6,000,000円 − 1,100,000円 = 4,900,000円
贈与税(一般税率)    4,900,000円 × 30% − 650,000円 = 820,000円
(特例税率なら)      4,900,000円 × 20% − 300,000円 = 680,000円

差は140,000円です。 使い切れる見込みのない額を先に受け取ると、この差がそのまま出ます。

④ 渡した人が先に亡くなると、残りは相続財産に戻る

契約期間中に贈与者が亡くなった場合は、贈与税ではなく相続税の話になります。 あらましです。

契約期間中に贈与者が死亡した場合には、その死亡日における非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額(結婚に際して支払う金銭については、300万円を限度とします。)を控除した残額のうち、一定の計算をした金額(以下「管理残額」といいます。)を、その贈与者から相続等により取得したものとみなされます。

受贈者が贈与者の子以外(孫など)の一定の者である場合には、管理残額のうち令和3年4月1日以後に取得した信託受益権又は金銭等に対応する部分は、相続税額の2割加算の適用があります。

このとき、受贈者の側に手続が発生します。 Q&A(令和7年7月)です。

受贈者は、贈与者が死亡した事実を知ったときに、速やかに、贈与者が死亡した旨を取扱金融機関の営業所等に届け出なければなりません。なお、贈与者が死亡した日以前に支払われた結婚・子育て資金に係る領収書等で取扱金融機関の営業所等に未提出であるものについても提出してください。

したがいまして、受贈者は、取扱金融機関の営業所等に管理残額を確認し、贈与者の死亡に係る相続税の申告の要否を確認してください

相続税の申告期限は、死亡を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。孫のように相続人ではない立場で管理残額だけを取得した人にも、この期限は同じようにかかります。

2割加算の線引き(令和3年4月1日以後の取得分)は、教育資金の一括贈与とまったく同じです。 違うのは、その手前の「そもそも相続財産に戻すかどうか」のほうです。

教育資金には、管理残額を相続財産に加算しない場合が定められています。国税庁のQ&A(令和8年5月)です。

その死亡の日において受贈者が次の①から③のいずれかに該当する場合(②又は③に該当する場合には、その旨を明らかにする書類(略)を死亡した旨の届出と併せて提出又は提供した場合に限ります。以下「23 歳未満である場合等」といいます。)を除き、原則として、その受贈者について、管理残額(略)をその贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして、相続税に関する法令の規定が適用されます

① 23 歳未満である場合 ② 学校等に在学している場合 ③ 教育訓練を受けている場合

(令和5年4月1日から令和8年3月31日までに取得した分については、23歳未満である場合等に当たっても、贈与者に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは加算されます。)

結婚・子育て資金には、これに当たる除外がありません。 国税庁のQ&A(令和7年7月)は、受贈者の年齢や就学の状況にふれることなく、管理残額を「その贈与者から相続(受贈者が贈与者の相続人以外の者である場合は、遺贈)により取得したものとみなして、相続税に関する法令の規定を適用することとされています」とだけ書いています。残っていれば、戻ります。

相続税は法定相続分課税方式なので、他の相続人にも効く

ここが、この制度でいちばん誤解されやすいところです。 相続税は「戻った額 × 税率」では出ません。国税庁 No.4155の言い方です。

相続税額の算出方法は、各人が相続などで実際に取得した財産に直接税率を乗じるというものではありません。

設例2(すべて架空の例示)。祖父の遺産が1億円、相続人は子2人(AとB)で2分の1ずつ取得します。孫Cは相続人ではありませんが、管理残額500万円を相続等により取得したものとみなされます。孫Cは2割加算の対象です。

管理残額がない場合管理残額500万円がある場合
課税価格の合計額100,000,000円105,000,000円
基礎控除額(3,000万円+600万円×2人)42,000,000円42,000,000円
課税遺産総額58,000,000円63,000,000円
法定相続分に応ずる取得金額(1人分)29,000,000円31,500,000円
速算表の当てはめ×15%−500,000円×20%−2,000,000円
相続税の総額7,700,000円8,600,000円

各人の税額は、相続税の総額を課税価格で按分して出します。

管理残額がない場合管理残額500万円がある場合
子A3,850,000円4,095,238円
子B3,850,000円4,095,238円
孫C(按分後)―409,523円
孫Cの2割加算―81,904円
孫C 合計―491,427円
世帯の合計7,700,000円8,681,903円
7,700,000円①管理残額なし8,681,903円②管理残額500万円
①管理残額なし②管理残額500万円
子Aの相続税3,850,0004,095,238
子Bの相続税3,850,0004,095,238
孫Cの相続税(2割加算を含む)0491,427
合計7,700,0008,681,903

②で増えているのは、いちばん上に乗った孫Cの帯だけではありません。下の2本(子Aと子B)も、①より厚くなっています。孫が受け取った500万円が課税価格の合計額に入ったことで、法定相続分に応ずる取得金額が1人29,000,000円から31,500,000円に上がり、速算表の段が15%から20%へ1つ上がったためです。

遺産1億円・相続人は子2人という同じ相続で、孫に管理残額500万円が残っていた場合と、残っていなかった場合の相続税。

世帯全体では981,903円増えました。 内訳はこうです。

孫Cの負担(2割加算81,904円を含む)        491,427円
子Aと子Bの増加(490,476円=245,238円×2)  490,476円
──────────────────────────────────────
合計                                     981,903円

贈与を1円も受けていない子A・子Bの相続税が、合わせて490,476円増えています。 管理残額が課税価格の合計額に加わったことで、法定相続分に応ずる取得金額が速算表の1つ上の段に入ったためです。「孫にあげた分の税金は孫が払う」では済みません。

500万円の管理残額に対して、世帯の負担増は981,903円。相続税の総額の差900,000円と、孫Cの2割加算81,904円の合計です(各人の算出税額を円未満で切り捨てているため、合計は1円ずれます)。 相続時精算課税との関係は「相続時精算課税は使うべきか」で、暦年課税の110万円との違いは「贈与税の110万円は2種類ある」で扱っています。

⑤ 同じ時期に期限が来る、もう一つの贈与の非課税

直系尊属からの贈与の非課税は3つあります。いま、3つとも節目にあります。

制度非課税の上限適用期限令和9年度要望での扱い
教育資金の一括贈与1,500万円令和8年3月31日で終了済み要望なし(すでに終了)
結婚・子育て資金の一括贈与1,000万円令和9年3月31日こども家庭庁が廃止を要望
住宅取得等資金の贈与1,000万円(省エネ等住宅以外は500万円)令和8年12月31日国土交通省が「所要の措置」を要望

教育資金は、国税庁が終了を明記しています。

この特例は、令和8年3月31日までとされていた適用期限が延長されずに終了することとされたため、令和8年4月1日以後については、この特例の適用を受けることはできません。ただし、令和8年3月31日までにこの特例の適用を受けた信託受益権または金銭等については、引き続きこの特例が適用されます。

問題は3つ目です。 住宅取得等資金の非課税は、国税庁No.4508が「令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に(略)取得した場合」としており、年内に期限が来ます。

国土交通省は存続を求める側の要望を出しています。ただし、要望の本文はこれだけです。

住宅取得環境が悪化する中、高齢者からの資産の早期移転によって、住宅取得に係る負担を軽減し、住宅需要を刺激・創出するとともに、良質な住宅ストックの形成を図るため、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等について、必要な検討を行い、所要の措置を講じる。

「延長」という言葉がありません。 国土交通省の他の要望項目は「認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の拡充及び延長」「買取再販で扱われる住宅の取得に係る特例措置の拡充及び延長」のように、題名で延長を求めています。この項目だけが「所要の措置」です。要望書の「租税特別措置の適用又は延長期間」の欄も「―」で、期間も金額も示されていません。

年内に住宅取得資金の贈与を受ける予定がある人にとって、これは実務上の論点になります。 期限は令和8年12月31日で、いま動いているのは要望の段階です。制度の要件そのものは「住宅取得資金の贈与が非課税になる特例」で扱っています。

あなたの数字で確かめる手順

1. いま結婚・子育て資金口座を持っているなら、使った額と残額を確認する。 見るのは口座残高ではなく、金融機関が記録した結婚・子育て資金支出額です。未提出の領収書が手元に残っていないかも確認します(提出期限は③のとおり、払出方法に応じて支払年月日から1年、または支払った年の翌年3月15日)。

契約終了時に贈与税がかかる額
  = 非課税拠出額 − 結婚・子育て資金支出額 − (相続でみなし取得された管理残額)

2. その残額に贈与税をあてはめる。 一般税率の速算表(No.4408)を使います。特例税率ではありません。

贈与税 =(残額 − 110万円)× 一般税率 − 控除額

この贈与税は、金融機関が代わりに納めてくれるものではありません。契約が終わった年の翌年2月1日から3月15日までに、自分で申告して納めます(国税庁 No.4429)。

3. これから渡す側なら、都度と一括を分けて考える。 妊娠・出産・子育ての費用を必要な都度直接支払うなら、この制度を使わなくても贈与税はかかりません(相続税法第21条の3、国税庁 No.4405)。制度を使う意味があるのは、結婚費用を含める場合と、いま渡しておく必要がある場合に絞られます。

4. 住宅取得等資金のほうは、期限を先に確認する。 令和8年12月31日までの贈与が対象です。12月下旬の税制改正の大綱が出るまで、その先は決まりません。

まとめ

  • 令和9年度税制改正の要望項目(新設・拡充・延長)は208件、重複を除くと124件。既存の特別措置の「廃止・縮減」はその内数ではなく別枠で8件、重複を除くとわずか4件。そのうち家計に直接かかるのは結婚・子育て資金の一括贈与の非課税の廃止1件だけ
  • 要望したのは所管のこども家庭庁自身。理由として利用件数の低迷(令和5年217件、令和6年253件、令和7年219件)と、認知率が目標30.0%に対し令和8年調査22.9%(7.1ポイント不足)を挙げ、「政策効果は限定的」としている
  • 要望の形は「令和9年3月31日の適用期限の到来をもって廃止。同日までに拠出された分は引き続き適用」。教育資金(令和8年3月31日終了)と同じ型
  • 妊娠・出産・子育ての費用を必要な都度渡す分には、この制度と関係なく、もともと贈与税がかからない(相続税法第21条の3、国税庁 No.4405とQ&A)。制度が上乗せしていたのは「まとめて渡して預金のまま置ける」ことと、結婚費用300万円まで
  • 使い切れずに契約が終わると、残額に贈与税。令和5年4月1日以後に取得した分は一般税率で、特例税率より高い。残額600万円なら820,000円(特例税率なら680,000円で、差は140,000円)。申告は契約が終わった年の翌年2月1日から3月15日までに自分で行う
  • 残額は口座残高ではなく、「非課税拠出額 − 結婚・子育て資金支出額」。 支出額に入るのは、領収書等を金融機関に提出して記録された分だけで、提出期限は支払年月日から1年(実際に支払った額を後から払い出す方法の場合)または支払った年の翌年3月15日(それ以外の方法)。出し忘れた領収書の分は、使っていても残額として課税される
  • 贈与者が先に亡くなると、管理残額は相続財産に戻り、孫なら2割加算。設例(遺産1億円・子2人・管理残額500万円)では世帯の相続税が981,903円増え、うち490,476円は贈与を受けていない子2人の負担。受贈者は死亡を知ったら速やかに金融機関へ届け出て管理残額を確認する。相続税の申告期限は死亡を知った日の翌日から10か月以内
  • 同じ直系尊属からの贈与でも、住宅取得等資金は令和6年度に45,411件と桁が違う(結婚・子育て資金219件の207.4倍)。その住宅取得等資金の非課税は令和8年12月31日が期限で、国土交通省の要望は「所要の措置」とだけ書かれており、延長の文言も期間も金額も無い
  • 要望は決定ではない。 決まるのは12月下旬に閣議決定される税制改正の大綱

よくある質問

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税は、いつ無くなりますか?

2026年9月17日時点では、まだ決まっていません。決まっているのは適用期限が令和9年3月31日であることだけです。所管のこども家庭庁は、令和9年度税制改正の「見直し事項(廃止・縮減)」として「令和9年3月31 日の適用期限の到来をもって、本特別措置を廃止する」ことを要望しました。ただし要望は各府省庁の希望であって決定ではありません。実際にどうなるかは、例年12月下旬に閣議決定される税制改正の大綱で決まります。なお、こども家庭庁は同じ要望の中で「同日までに拠出された金銭等については、引き続き本特別措置を適用できることとする」としており、すでに口座を作って拠出した分まで遡って課税される形は要望されていません。

制度が無くなると、祖父母から子育ての費用をもらえなくなりますか?

いいえ。扶養義務者から生活費に充てるために取得した財産で通常必要と認められるものは、この制度とは関係なく、もともと贈与税がかかりません。根拠は相続税法第21条の3第1項第2号で、国税庁もタックスアンサーNo.4405で同じことを説明しています。国税庁のQ&Aは、ここでいう生活費に妊娠・出産・子育てに関する費用が含まれるとし、不妊治療、妊婦健診、分べん費、産後ケア、子の治療・予防接種・乳幼児健診、子の入園料・保育料などを具体的に挙げています。ただし非課税になるのは「必要な都度直接これらに充てるため」のものに限られ、数年分をまとめて渡して預貯金のまま残っている部分には贈与税がかかります。

一括贈与の制度と、必要な都度もらう場合とでは、何が違うのですか?

違うのは主に3つです。1つ目は、まとめて先に渡して金融機関の口座に置いたままでも非課税にできること。都度の贈与では、預金のまま残った部分は非課税になりません。2つ目は、結婚費用が対象に入ること。挙式費用や衣装代、新居費用は300万円を限度に一括贈与の対象ですが、生活費や教育費とは性質が違うため、都度の贈与の非課税規定でそのまま読めるとは限りません。3つ目は、使い切れなかったときの扱いです。一括贈与では、契約が終了した時点の残額に贈与税がかかり、契約期間中に贈与者が亡くなればその時点の残額が相続財産に戻ります。都度の贈与には、この2つがありません。

1,000万円もらって使い切れなかったら、どうなりますか?

受贈者が50歳に達するなどして契約が終了すると、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を差し引いた残額が、その年の受贈者の贈与税の課税価格に算入されます。しかも国税庁のあらましは「暦年課税で申告を行う場合、令和5年4月1日以後に取得した信託受益権又は金銭等に対応する部分は、一般税率が適用されます」としています。一般税率は、直系尊属から18歳以上の人への贈与に使う特例税率より高い税率です。たとえば1,000万円のうち400万円しか使えず600万円が残った場合、贈与税は820,000円になります。同じ額を祖父母から普通に受け取ったときの特例税率なら680,000円ですので、140,000円多く払うことになります。

結婚・子育てに実際に使ったのに、課税されることはありますか?

あります。契約終了時に課税される残額は、非課税拠出額から「結婚・子育て資金支出額」を引いて計算しますが、この支出額は口座から引き出した額ではありません。国税庁のあらましは「金融機関等の営業所等において、結婚・子育て資金の支払の事実を証する書類(領収書等)により結婚・子育て資金の支払の事実が確認され、かつ、記録された金額の合計額」と定義しています。つまり領収書等を金融機関に出して記録されてはじめて、使った額として差し引かれます。しかも提出には期限があり、実際に支払った金額を後から口座から払い出す方法を選んだ場合は領収書等に記載された支払年月日から1年を経過する日まで、それ以外の方法を選んだ場合は支払年月日の属する年の翌年3月15日までです。期限を過ぎた領収書は支出額として記録されないため、実際に結婚や子育てに使ったお金でも残額に残り、贈与税の対象になります。

贈与した祖父母が亡くなったら、残っているお金はどうなりますか?

死亡日における管理残額を、その贈与者から相続または遺贈により取得したものとみなされます。国税庁のあらましは「その管理残額を含めて課税価格の計算をする必要があります」としています。さらに、受贈者が贈与者の子以外(孫など)である場合には、管理残額のうち令和3年4月1日以後に取得した分に対応する部分について、相続税額の2割加算が適用されます。注意が必要なのは、相続税が法定相続分課税方式で計算されることです。管理残額が相続財産に加わると課税価格の合計額が増えるため、贈与を1円も受けていない他の相続人の相続税額まで増えます。

住宅取得等資金の贈与の非課税も、同じように無くなるのですか?

状況が違います。住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置は令和8年12月31日までの贈与が対象で、この記事の時点で年内に期限が来ます。ただし国土交通省は令和9年度税制改正で存続を求める側の要望を出しており、廃止は求めていません。注意すべきなのは要望の書き方で、国土交通省の他の項目が「拡充及び延長」と明記しているのに対し、この項目は「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等に係る所要の措置」という題名で、要望の本文も「必要な検討を行い、所要の措置を講じる」とだけ書かれています。要望書の「租税特別措置の適用又は延長期間」の欄も「―」です。つまり、いつまで・いくらで続けるかは要望の段階では示されていません。

教育資金の一括贈与はどうなりましたか?

すでに終わっています。国税庁のタックスアンサーNo.4510は「この特例は、令和8年3月31日までとされていた適用期限が延長されずに終了することとされたため、令和8年4月1日以後については、この特例の適用を受けることはできません」としています。ただし同じ注書きが「令和8年3月31日までにこの特例の適用を受けた信託受益権または金銭等については、引き続きこの特例が適用されます」とも書いており、すでに契約している人の口座はそのまま続きます。結婚・子育て資金について今回こども家庭庁が要望している廃止の形も、これと同じ「新規は締め切り、既契約は続ける」型です。

出典

制度の内容は改正されることがあります。判断の際は必ず出典元の最新情報をご確認ください。