税金

最低賃金が上がると、扶養内で働ける時間は月4〜7時間減る

令和8年度の地域別最低賃金が出そろいました。全国加重平均は1,177円で、改定前の1,121円から56円上がっています。引上げ率は5.0%です。

都道府県ごとに見ると、最も高い東京が1,280円、最も低い宮崎が1,085円。上げ幅は54円から65円のあいだに散らばっています。

そして発効日がそろっていません。 10月1日に上がるのは15都道府県だけで、10月中に発効するのが37都道府県、11月が7府県、12月が3県です。最も遅い沖縄は12月2日です。

時給が上がるのは、働く側には良い話です。ただし扶養に入って働いている人には、もう一つ効きます。

結論

扶養に入り続けられるかどうかは、金額で決まっています。健康保険の被扶養者は年間の収入額で、所得税の扶養控除は合計所得金額で判定されます。どちらの基準も、金額で書かれていて、働く時間そのものを定めてはいません。

だから時給が上がると、同じ金額に届くまでに働ける時間が短くなります。年間に受け取る金額が減るわけではありません。減るのは時間です。賃上げの話として報じられる最低賃金の改定は、扶養の側から見ると「働ける時間の上限が切り下がる日」でもあります。

そして2026年10月1日に、向きの違う動きがもう一つ加わりました。勤め先の社会保険に入るかどうかの入口から、賃金の額を問う要件が外れ、時間の要件が前に出ます。 片方は金額で決まり、もう片方は時間で決まる。時給が上がるほど、この2つを同時に満たせる幅は狭くなり、いずれ消えます。

ただし、どちらの側にも例外が残っています。 入口の側には最低賃金法の減額特例を受ける人の扱いが、扶養の側には労働契約の内容で判定する新しい取扱いがあります。どちらも、この記事を読む人に当てはまりやすいものです。

すでに消えた地域があります。 どこで消えたかは、時給を時間に割り戻すと分かります。

計算の前提

項目置いた条件
時給各都道府県の地域別最低賃金(令和8年度・答申された改定額)
被扶養者の収入要件年間収入130万円未満。給与収入なら月額108,333円以下
19歳以上23歳未満の場合年間収入150万円未満(被保険者の配偶者を除く)
所得税の年分令和8年分(基礎控除104万円・給与所得控除の最低保障額74万円)
週・月の換算1年を52週とし、1か月は52週÷12として計算
時間の丸め上限に収まる整数時間(超える手前で切り捨て)
賃金基本給だけ。通勤手当・賞与・割増賃金は含めない(労働契約の内容で判定する方法では諸手当・賞与も含む。後述)
含めないもの住民税、雇用保険料、社会保険料
1年を52週としたのは計算をそろえるためです。実際の暦年は約52.14週(365÷7)あるので、年間の上限時間を52で割って出した「週あたりの時間」は、52.14週で割る場合よりわずかに大きく出ます(東京の130万円の線は週19.52時間に対し19.47時間)。逆に、週20時間×52週で出した年収は実際よりわずかに小さく出ます(東京は1,331,200円に対し1,334,857円)。どちらの取り方でも、週20時間で130万円を超えるのは東京と神奈川の2都県だけで、結論は変わりません(52.14週で計算した場合の境目は1,246.6円で、3番目に高い大阪の1,231円には届きません)。被扶養者の収入に何が含まれるかについて、日本年金機構が同ページで挙げているのは「雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金」です。手当と賞与の扱いは、同ページからたどれる「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」に書かれており、そこでいう賃金は「労働基準法第11条に規定される賃金をいい、諸手当および賞与も含まれます」とされています。つまり手当や賞与がある人は、この記事の数字より早く線に届きます。 この記事が基本給だけで計算しているのは、最低賃金の改定が時間の上限をどれだけ動かすかを見るためで、自分の線を知るときは手当と賞与を足してください。所得税の金額は収入が給与だけで、特定支出控除や所得金額調整控除の適用がない場合のものです。

令和8年度の改定は、発効日から分かれている

厚生労働省の「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」は、47都道府県の額と発効日を1枚にまとめています。額の欄には注記が付いています。

※ 括弧内の数字は改定前の地域別最低賃金額 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」

つまりこの1枚だけで、改定前と改定後の両方が分かります。仮定を置く必要がありません。

都道府県改定後改定前上げ幅発効日
北海道1,131円1,075円56円10月1日
青森1,090円1,029円61円10月29日
岩手1,090円1,031円59円12月1日
宮城1,098円1,038円60円10月1日
秋田1,090円1,031円59円10月14日
山形1,092円1,032円60円10月30日
福島1,094円1,033円61円10月16日
茨城1,136円1,074円62円10月18日
栃木1,125円1,068円57円10月1日
群馬1,120円1,063円57円10月3日
埼玉1,196円1,141円55円10月1日
千葉1,195円1,140円55円10月1日
東京1,280円1,226円54円10月1日
神奈川1,279円1,225円54円10月1日
新潟1,108円1,050円58円10月1日
富山1,119円1,062円57円10月1日
石川1,113円1,054円59円10月3日
福井1,112円1,053円59円10月4日
山梨1,113円1,052円61円11月1日
長野1,117円1,061円56円10月2日
岐阜1,121円1,065円56円10月1日
静岡1,154円1,097円57円10月15日
愛知1,195円1,140円55円10月1日
三重1,143円1,087円56円10月1日
滋賀1,136円1,080円56円10月3日
京都1,180円1,122円58円11月16日
大阪1,231円1,177円54円10月1日
兵庫1,172円1,116円56円10月1日
奈良1,107円1,051円56円10月4日
和歌山1,101円1,045円56円10月3日
鳥取1,090円1,030円60円10月3日
島根1,092円1,033円59円10月10日
岡山1,104円1,047円57円10月2日
広島1,141円1,085円56円10月11日
山口1,101円1,043円58円10月8日
徳島1,103円1,046円57円11月1日
香川1,092円1,036円56円10月1日
愛媛1,093円1,033円60円11月1日
高知1,086円1,023円63円10月29日
福岡1,114円1,057円57円10月4日
佐賀1,095円1,030円65円11月15日
長崎1,087円1,031円56円11月2日
熊本1,092円1,034円58円12月1日
大分1,096円1,035円61円11月1日
宮崎1,085円1,023円62円10月24日
鹿児島1,090円1,026円64円10月25日
沖縄1,086円1,023円63円12月2日
全国加重平均1,177円1,121円56円—
厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」より転記。発効日はすべて令和8年(2026年)です。表の額は「答申された改定額」で、同資料の見出しどおりの呼び方にしています。

発効日が10月1日から12月2日まで、62日にわたって分かれています。 「最低賃金が上がる」というニュースを10月1日に見ても、自分の県がその日に上がるとは限りません。

扶養に入り続ける基準は「月額108,333円以下」

扶養の側の基準を、原文で確かめます。日本年金機構は被扶養者の収入要件をこう書いています。

年間収入(※1)130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ 同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満(※2) 別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満 日本年金機構「従業員が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」1.概要(1)収入要件

そして「年間収入」の意味に注記が付いており、ここに月額の目安が書かれています。

※1 年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。(給与所得等の収入がある場合、月額108,333円以下、雇用保険等の受給者の場合、日額3,611円以下であれば要件を満たします。) 同(1)収入要件 ※1

過去の収入ではなく、これからの見込みで判定されます。 そして給与なら月額108,333円以下が目安として示されています。130万円を12で割った金額です。

金額が2つ書かれているのに、どちらも時間では書かれていません。 ここが起点です。時給がいくらであっても基準の金額は動かないので、時給を上げれば上げただけ、収まる時間が短くなります。

令和8年4月から、労働契約の内容で判定する方法が加わった

ただし、年間の見込み額をどう出すかには、新しい方法が加わっています。日本年金機構は令和8年4月1日以降の扶養認定について、こう書いています。

被扶養者の認定における年間収入について、令和8年4月1日以降は、「労働条件通知書」等の労働契約内容がわかる書類に記載のある賃金(※1)から見込まれる年間収入が130万円未満(※2)であり、かつ、他の収入が見込まれず、 扶養認定を受ける方が被保険者と同一世帯に属している場合には、被保険者の年間収入の2分の1未満であると認められる場合(※3) 扶養認定を受ける方が被保険者と同一世帯に属していない場合には、被保険者からの援助による収入額より少ない場合 には、原則として、被扶養者に該当するものとして取り扱います。 日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」概要

基準の金額は130万円未満のままですが、見込み額の出し方が変わります。 労働条件通知書に書かれた賃金と所定労働時間から見込むので、契約上の時間が判定の材料に入ってきます。 機構は、この取扱いの効果を「従来の判定方法では基準額を超えていても、労働契約段階で基準額を超えていない場合は被扶養者として認定できる可能性があります」としています。

ここで言う賃金の範囲も、同じページに書かれています。

(※1)労働基準法第11条に規定される賃金をいい、諸手当および賞与も含まれます。 同 概要(※1)

諸手当と賞与が入ります。 60歳以上・障害者は180万円未満、19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)は150万円未満という読み替えも、同じ(※2)に書かれています。

そして、この取扱いが使えない場合が挙げられています。最低賃金で働く人に当てはまりやすいものが含まれています。

ア.被扶養者(異動)届の「被扶養者になった日」から起算して通知書等上の契約期間が1年未満の場合 イ.「シフト制による」といった労働時間の記載が不明確な場合 ウ.「通勤手当有」等となっており、手当の金額が不明確な場合 同 留意事項

シフト制で働いている人は、イに当たって使えません。 使う場合は「労働条件通知書、雇用契約書または労働条件が記載されている事業主証明」と、本人が書いた「給与収入のみである」旨の申立書の2点を、被扶養者(異動)届に添える必要があります。申立書は本人が書かなければなりません。

つまり扶養の側の判定は、いま2通りあります。 これからの見込み額で見る従来の方法と、契約の内容で見る方法です。以下の計算は、年金機構が月額の目安として示している108,333円を使った従来の方法のものです。

時間に直すと、どの県でも月4〜7時間減る

月額108,333円を時給で割ると、その月に働ける上限時間が出ます。

88東京1,280円92大阪1,231円95愛知1,195円102福岡1,114円105宮崎1,085円
東京1,280円大阪1,231円愛知1,195円福岡1,114円宮崎1,085円
改定後に働ける時間8488909799
改定で減った時間44556
合計889295102105

上の段(濃い色)が、改定で消えた時間です。5本とも同じくらいの厚みがあります。時給の高い東京ほど棒全体が低く、上限が厳しい。点線は改定後の上限をつないだもので、右に行くほど上がります。つまり時給が低い県のほうが長く働ける、という向きです。賃上げの恩恵が大きいはずの県で、時間の削られ方はむしろ大きくなっています。

月額108,333円に収まる労働時間(時間/月)。棒全体の高さが改定前の上限で、下の段が改定後に残る時間、上の段が改定によって削られた時間です。時給は令和8年度の地域別最低賃金。

47都道府県すべてで数えると、減るのは月4時間から7時間です。

改定後の上限改定前の上限差
東京(1,280円)84時間88時間−4時間
神奈川(1,279円)84時間88時間−4時間
大阪(1,231円)88時間92時間−4時間
埼玉(1,196円)90時間94時間−4時間
愛知(1,195円)90時間95時間−5時間
佐賀(1,095円)98時間105時間−7時間
宮崎(1,085円)99時間105時間−6時間
全国加重平均(1,177円)92時間96時間−4時間
scripts/calc-saitei-chingin-fuyo-jikan.py の出力から転記。108,333円を時給で割り、超える手前で切り捨てた整数時間です。佐賀は上げ幅が65円で47都道府県のなかで最大、かつ改定前が1,030円と低いため、減る時間も最大の7時間になります。47都道府県の平均は5.28時間の減少でした。

削られる時間を決めるのは、上げ幅だけではありません。 元の時給が低いほど、同じ上げ幅でも削られる時間は大きくなります。上げ幅55円でも埼玉(1,141円→1,196円)は4時間、愛知(1,140円→1,195円)は5時間で、上げ幅60円の山形が5時間、それより小さい上げ幅59円の岩手が6時間というように、上げ幅の順と減る時間の順は一致しません。

ただし大づかみな向きは言えます。最低賃金の引上げは、額の低い県ほど上げ幅を大きく取る形で進んでいて、時給が低い県は同じ上げ幅でも削られる時間が大きい。この2つが同じ方向に働くので、扶養の枠内で働く人にとっては、引上げの手厚い県ほど時間の調整が大きくなりやすいという向きになります。

東京と神奈川では、最低賃金でも週20時間で130万円を超える

ここからが、2026年10月1日に変わった部分との関係です。

勤め先の社会保険に加入する要件は4つあり、厚生労働省はこう並べています。

① 所定内賃金が月額8.8万円以上であること(賃金要件) ② 週の所定労働時間が20時間以上であること ③ 勤め先が従業員数(※1)51人以上の企業であること(企業規模要件) ④ 学生ではないこと 厚生労働省「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」

このうち①について、同じ資料はこう書いています。

賃金要件(いわゆる年収106万円の壁)は令和8(2026)年10月に撤廃予定 同 ポイント1

「予定」と書かれていますが、①はすでに消えています。 撤廃の日を定めた令和8年政令第275号が令和8年9月11日の官報(号外第203号)で公布され、「施行期日は、令和八年十月一日とする」と定めているためです。

引用した資料は令和8年1月作成なので「予定」のままなのは当然ですが、社会保険適用拡大特設サイトの要件の説明も、2026年10月1日の時点で「(2026年10月に賃金要件を撤廃予定)」の表記が残っています。 資料の表記が追いついていないだけで、法令上はすでに施行されています。

残るのは②の週20時間です。金額ではなく時間の要件です。つまり「入るかどうか」は時間で、「家族の扶養に残れるかどうか」は金額で決まることになります。

ただし、8.8万円という金額が条文から消えたわけではありません。 同じ資料の脚注に、例外が1つ書かれています。

※2 ただし、最低賃金法では一定の場合に最低賃金の減額を許可する特例があり、この特例の対象となる短時間労働者のうち、月額賃金8.8万円未満である方は、原則社会保険に加入しないこととなります(申出により任意で加入することは可能。)。 同 ※2

これは条文にも置かれています。健康保険法附則第8条の3の2と厚生年金保険法附則第4条の6が「適用除外の特例」として、最低賃金法第7条の減額特例を受ける短時間労働者のうち、報酬を月額に換算した額が8万8千円未満である者(条文では「特定減額特例対象者」)を被保険者としないと定め、その人が申出をしたときは被保険者となることができるとしています。減額特例の対象は、最低賃金法第7条が列挙しています。

一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者 二 試の使用期間中の者 三 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの 四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者 最低賃金法第7条(最低賃金の減額の特例)

この特例は、使用者が都道府県労働局長の許可を受けた場合に限られます。 許可が無ければ関係ありません。ただし対象になっている人は、週20時間を満たしても自動では加入しないので、加入したいなら自分で申し出ることになります。

もう一つ、上の4要件には入っていない条件があります。 厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトは、要件を並べた最後にこう注記しています。

※4 この他、フルタイムの従業員と同じく2ヶ月を超えて雇用される見込みであることが必要です。 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」従業員のみなさま>社会保険加入の要件

健康保険法第3条第1項第2号ロと厚生年金保険法第12条第1号ロが、2月以内の期間を定めて使用される者で、その期間を超えて使用される見込みがない者を適用除外としているためです。短い契約を更新せずに働く場合は、週20時間を満たしても加入の対象になりません。

この2つが両立するかを数えます。週20時間を52週続けたときの年収です。

時給週20時間×52週130万円との関係
東京(改定後)1,280円1,331,200円超える
東京(改定前)1,226円1,275,040円収まる
神奈川(改定後)1,279円1,330,160円超える
神奈川(改定前)1,225円1,274,000円収まる
大阪(改定後)1,231円1,280,240円収まる
宮崎(改定後)1,085円1,128,400円収まる
同スクリプトの出力から転記。月額108,333円のほうで見ても同じ境目になります。週20時間は月86.6667時間(20時間×52週÷12)にあたり、108,333円÷86.6667時間=1,249.996円なので、整数の時給では1,249円までが収まる上限です。月の上限時間を整数に切り捨てた値から境目を出すことはできません。 たとえば時給1,246円の切り捨て上限は86時間で、週20時間の86.6667時間を下回って見えますが、実際の月額は107,987円で108,333円に収まります。丸める前の額で比べる必要があります。

境目になる時給は1,250円です。 130万円を週20時間×52週=1,040時間で割った値です。注意すべきは、1,250円はもう収まらない側だということです。1,250円×1,040時間は1,300,000円ちょうどで、被扶養者の要件は「130万円未満」ですから、ちょうどの額は満たしません。収まる上限は1,249円(年1,298,960円)です。

令和8年度の改定で1,250円以上になったのは東京(1,280円)と神奈川(1,279円)の2都県です。改定前は47都道府県のどこにもありませんでした。

つまりこの2都県では、最低賃金で週20時間という最低限の働き方をしただけで、被扶養者の収入要件から外れることになります。企業規模の要件などを満たせば勤め先の社会保険に入るので、保険が無くなるわけではありません。ただし「扶養に入ったまま週20時間働く」という選択肢は、この2都県では最低賃金の水準ですでに消えています。

企業規模要件(従業員51人以上)は段階的に縮小され、厚生労働省の同資料は令和9(2027)年10月から36人以上、令和11(2029)年10月から21人以上、令和14(2032)年10月から11人以上、令和17(2035)年10月から10人以下と示しています。要件が縮むほど、この関係は多くの人に当てはまるようになります。

賃金要件が撤廃された理由も、この計算から出る

厚生労働省は、賃金要件を撤廃した理由をこう書いています。

今般、全ての都道府県で令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより、週20時間以上働くすべての方が自動的に社会保険の加入対象になるため、令和7年年金制度改正法に基づき、令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃する予定です。 同 ポイント1

この1,016円を自分で出してみます。月額8.8万円に週20時間で届く時給は、88,000円×12÷(20時間×52週)=1,015.38円。切り上げると1,016円で、原文と一致します。

では余裕はどれくらいあったのか。令和7年度の最低賃金がいちばん低かったのは高知・宮崎・沖縄の1,023円でした。週20時間なら月額88,660円で、8.8万円との差は660円しかありません。令和8年度は最も低い宮崎が1,085円で、月額94,033円。差は6,033円に広がります。

要件は「もう効いていない」から外されたのであって、加入の範囲を広げるために外されたのではありません。 令和7年度の時点で全国が要件を満たしていたので、条文に残しておく意味が無くなっていたわけです。この撤廃が政令で2026年10月1日に確定していることは、106万円の壁の撤廃は2026年10月1日で扱っています。

税の壁は、時間で言うと何時間か

社会保険とは別に、税の側にも金額の線があります。令和8年分は金額が大きく動いた年なので、こちらも時間に直しておきます。

国税庁の「源泉所得税の改正のあらまし」は、基礎控除と給与所得控除をこう改めたとしています。

給与所得控除について、65万円の最低保障額が74万円に引き上げられました。 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」(令和8年4月)1⑵イ

基礎控除は合計所得金額に応じて段階が分かれ、令和8・9年分は合計所得489万円以下で104万円です。扶養親族等の所得要件も動きました。

扶養親族/同一生計配偶者/ひとり親の生計を一にする子 62万円以下(136万円以下) 同 1⑶ 扶養親族等の所得要件の改正

括弧の中は、収入が給与だけの場合の収入金額です。これを時間に直します。

線金額東京1,280円全国加重平均1,177円宮崎1,085円
被扶養者でいられる(一般)130万円未満年1,015時間年1,104時間年1,198時間
被扶養者でいられる(19歳以上23歳未満)150万円未満年1,171時間年1,274時間年1,382時間
扶養控除・同一生計配偶者に入れる136万円以下年1,062時間年1,155時間年1,253時間
本人に所得税がかかり始める178万円年1,390時間年1,512時間年1,640時間
同スクリプトの出力から転記。「未満」の線は1円下(1,299,999円・1,499,999円)で、「以下」の線はその額ちょうどで計算し、いずれも超える手前で切り捨てています。178万円は基礎控除104万円と給与所得控除の最低保障額74万円の合計です。週に直すと(÷52週)、東京は順に19.5時間・22.5時間・20.4時間・26.7時間になります。

順番が入れ替わっていることに注意してください。 社会保険の130万円が最も低く、次に税の136万円、いちばん高いのが本人の所得税の178万円です。先に来るのは税ではなく社会保険です。 令和8年分の税制改正で税の線が大きく上がった結果、税の心配より前に社会保険の線が来るようになりました。

そして東京の場合、136万円に収まる時間は週20.4時間です。社会保険に加入する週20時間のラインと、税の扶養から外れるラインが、ほとんど同じ場所に来ています。

あなたの数字で確かめる手順

① 自分の時給と、県の発効日を確認する

まず自分の時給が、改定後の最低賃金を上回っているか見てください。上回っていれば、使うのは自分の時給です。最低賃金ちょうどで働いている場合は、上の表の発効日から時給が変わります。 10月1日ではないところが32府県あります(10月1日発効の15都道府県以外。京都府が入るので「県」では数えられません)。

② 月額108,333円を時給で割る

出た数字が、その月に働ける上限時間です。小数は切り捨ててください。時給1,150円なら、108,333 ÷ 1,150 = 94.2 なので月94時間です。

これは年金機構が示している月額の目安に収まる時間です。年間収入130万円未満という本来の基準は年単位なので、月ごとの増減がある場合は年間で見る必要があります。

③ 年間で見るときは、130万円を時給で割る

1,300,000 ÷ 時給 が年間の上限時間です。時給1,150円なら1,130時間。52で割ると週21.7時間になります。

④ 19歳以上23歳未満なら150万円で計算する

子どものアルバイトの場合は、被保険者の配偶者でなければ150万円未満です。年齢はその年の12月31日時点で判定されます。1,500,000 ÷ 時給 で計算してください。

令和7年9月30日以前に扶養認定を受けている場合は、届出が要ります。 年金機構は「令和7年9月30日以前に扶養認定済みの19歳以上23歳未満の被扶養者については、令和7年10月1日以降は年間収入が150万円以上見込まれる場合に被扶養者の削除(非該当)の届出が必要です」としています。150万円に上がったことで扶養に残れるようになった人がいる一方、150万円を超える人は届出が必要になります。

⑤ 税の側は別に数える

社会保険の線に収まっていても、税の扶養は136万円以下(合計所得62万円以下)です。1,360,000 ÷ 時給 で年間の上限時間が出ます。社会保険と税で、収まる時間が違います。

⑥ 手当と賞与を足して、契約の内容でも見てみる

ここまでの計算は基本給だけです。手当と賞与がある人は、それを足した額で線を見てください。 労働契約の内容で判定してもらう方法を使う場合、年金機構が見るのは労働基準法第11条の賃金で、諸手当と賞与が入ります。労働条件通知書に時給と所定労働時間が書かれていて、契約期間が1年以上あるなら、この方法が使えます。シフト制で時間が書かれていない場合は使えません。

まとめ

  • 令和8年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,177円。改定前の1,121円から56円上がり、引上げ率は5.0%
  • 発効日は10月1日から12月2日まで分かれている。 10月1日に発効するのは15都道府県だけで、10月が37都道府県、11月が7府県、12月が3県
  • 被扶養者の収入要件は年間収入130万円未満で、日本年金機構は給与の場合の目安として月額108,333円以下を示している。どちらの基準にも時間は出てこない
  • したがって時給が上がると、収まる時間が短くなる。令和8年度の改定で減るのは月4時間から7時間。全国加重平均では96時間から92時間
  • 減る時間は上げ幅と元の時給水準の両方で決まる。上げ幅の順と減る時間の順は一致しない(上げ幅60円の山形が5時間、59円の岩手が6時間)。最大は佐賀で、上げ幅65円・改定前1,030円に対して7時間減る
  • 2026年10月1日に消えたのは、勤め先の社会保険に入る要件のうち月額8.8万円という賃金要件(令和8年政令第275号)。残るのは週20時間という時間の要件で、130万円は残る。厚生労働省の資料・特設サイトの表記は「撤廃予定」のまま
  • ただし8.8万円は条文から消えていない。 最低賃金法第7条の減額特例(使用者が労働局長の許可を受けた場合に限る)を受ける短時間労働者は、報酬が月額8万8千円未満なら原則加入せず、加入するには申出が要る(健康保険法附則第8条の3の2・厚生年金保険法附則第4条の6)。また4要件のほかに2か月を超えて雇用される見込みも必要
  • 扶養の側は、令和8年4月1日から労働契約の内容で判定する方法が加わった。 労働条件通知書の賃金から年間収入を見込む方法で、諸手当と賞与も含む(労働基準法第11条の賃金)。契約期間が1年未満、シフト制で労働時間が不明確、手当の金額が不明確のときは使えない
  • 東京(1,280円)と神奈川(1,279円)では、最低賃金で週20時間働くと年1,331,200円・1,330,160円になり、130万円を超える。 改定前はどの都道府県でも超えなかった
  • 境目の時給は1,250円。130万円を週20時間×52週の1,040時間で割った値。ただし1,250円はすでに収まらない側で(年1,300,000円ちょうど=「130万円未満」を満たさない)、収まるのは1,249円まで
  • 賃金要件が撤廃されたのは、令和7年度の時点で全国が満たしていたから。週20時間で月額8.8万円に届く時給は1,015.38円で、厚生労働省の「1,016円」と一致する。令和7年度の最低1,023円では差が660円しかなかった
  • 税の側は令和8年分で大きく上がり、本人に所得税がかからない給与収入は178万円(基礎控除104万円+給与所得控除74万円)、扶養控除に入れるのは136万円以下
  • 線の順番は、社会保険の130万円 → 税の136万円 → 本人の所得税178万円。 先に来るのは税ではなく社会保険

よくある質問

最低賃金が上がると、扶養内で働ける時間はどれくらい減りますか。

令和8年度の改定で、月に4時間から7時間減ります。日本年金機構は、被扶養者の収入要件について「給与所得等の収入がある場合、月額108,333円以下」であれば要件を満たすとしています。この108,333円を時給で割ると、その月に働ける上限時間が出ます。東京は時給が1,226円から1,280円に上がったので、上限は月88時間から84時間に4時間減ります。最も減るのは佐賀で、1,030円から1,095円へ65円上がった結果、105時間から98時間へ7時間減ります。全国加重平均の1,121円から1,177円で計算すると、96時間から92時間へ4時間です。時給が上がっても、判定に使われる金額は変わらないためです。

なぜ時給が上がると働ける時間が減るのですか。損をしているように見えます。

基準が金額で書かれているからです。被扶養者でいられるかどうかは「年間収入130万円未満」、扶養控除や同一生計配偶者に該当するかどうかは「合計所得金額62万円以下」で判定されます。どちらも金額で、時給は出てきません。ですから時給が上がれば、同じ金額に届くまでの時間が短くなります。ただし年間で受け取る金額そのものは変わらないので、収入が減るわけではありません。減るのは働ける時間です。なお時給が上がると、同じ時間働いた場合には基準を超えやすくなるので、超えた先まで働くのか、時間を削って基準内に収めるのかという選択になります。どちらが有利かは、その人が勤め先の社会保険に入れるかどうかで変わります。

令和8年度の最低賃金は、いつから上がるのですか。

都道府県ごとに違います。厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」に発効日が書かれており、10月1日に発効するのは15都道府県だけです。10月中に発効するのが全部で37都道府県、11月が7府県、12月が3県で、最も遅い沖縄は12月2日です。つまり年の途中で時給が変わります。年間の収入で判定される基準(130万円未満など)については、その年は改定前の時給で働いた月と改定後の時給で働いた月が混ざるため、改定後の時給で1年間を計算した金額よりも小さくなります。一方、月額108,333円以下という月単位の目安のほうは、発効した月から新しい時給で見ることになります。翌年(2027年)は、改定後の時給で1年を通すことになります。

2026年10月に106万円の壁がなくなるのに、130万円の壁は残るのですか。

残ります。撤廃されたのは、勤め先の社会保険に加入する要件のうち「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件です。厚生労働省は「賃金要件(いわゆる年収106万円の壁)は令和8(2026)年10月に撤廃予定」としています。一方の130万円は、家族の健康保険の被扶養者と認定されるための収入要件で、別の制度です。日本年金機構は「年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)」としており、この基準に変更はありません。つまり2026年10月1日以降は、加入するかどうかは週の所定労働時間(20時間以上)で決まり、家族の扶養に入り続けられるかどうかは金額(130万円未満)で決まります。判定のものさしが2つに分かれます。

最低賃金で週20時間働くと、年収はいくらになりますか。

東京の1,280円で週20時間を52週続けると1,331,200円、神奈川の1,279円なら1,330,160円です。どちらも年間収入130万円を超えます。改定前の1,226円・1,225円では1,275,040円・1,274,000円で、130万円には届いていませんでした。つまりこの2都県では、令和8年度の改定で「最低賃金・週20時間」と「被扶養者のまま」が両立しなくなります。境目になる時給は1,250円です(1,300,000円÷1,040時間)。ただし1,250円では年1,300,000円ちょうどになり、「130万円未満」を満たしません。収まるのは1,249円(年1,298,960円)までです。大阪は1,231円で1,280,240円、最も低い宮崎は1,085円で1,128,400円ですから、まだ130万円の内側です。なお週20時間以上で勤め先の企業規模などの要件を満たせば、勤め先の健康保険・厚生年金に加入することになるので、そもそも家族の被扶養者ではなくなります。

所得税の側の壁は、時間で言うと何時間ですか。

令和8年分の所得税では、基礎控除が合計所得489万円以下で104万円、給与所得控除の最低保障額が74万円です。合わせて178万円なので、給与収入178万円までは本人に所得税がかかりません。時給1,280円なら年1,390時間、全国加重平均の1,177円なら年1,512時間、宮崎の1,085円なら年1,640時間です。週に直すと26.7時間、29.1時間、31.5時間になります。一方、親や配偶者が扶養控除・配偶者控除を受けられるかどうかの基準は合計所得62万円以下(給与収入136万円以下)で、こちらは1,280円で年1,062時間、週20.4時間です。つまり税の側でも、本人に税がかかる線と、家族の控除が消える線は別の時間になります。

時給と働く時間が契約で決まっている場合、年収の見込みはどう判定されますか。

令和8年4月1日以降は、労働契約の内容で判定してもらう方法が使えます。日本年金機構は「令和8年4月1日以降は、『労働条件通知書』等の労働契約内容がわかる書類に記載のある賃金から見込まれる年間収入が130万円未満であり、かつ、他の収入が見込まれず」一定の要件を満たす場合は「原則として、被扶養者に該当するものとして取り扱います」としています。基準の金額は130万円未満のままですが、見込み額を契約書の賃金と所定労働時間から出すところが従来と違います。ここでいう賃金は労働基準法第11条の賃金で、諸手当および賞与も含まれる点に注意してください。使えない場合も挙げられており、契約期間が1年未満のとき、「シフト制による」のように労働時間の記載が不明確なとき、「通勤手当有」のように手当の金額が不明確なときは、この方法では認定されません。届出には労働条件通知書等と、本人が書いた「給与収入のみである」旨の申立書の2点が必要です。

19歳以上23歳未満の子どもがアルバイトをする場合はどうなりますか。

被扶養者の収入要件が150万円未満になります。日本年金機構は「扶養認定日が令和7年10月1日以降で、扶養認定を受ける方が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く。)は、現行の『年間収入130万円未満』が『年間収入150万円未満』に変わります」としています。年齢は扶養認定日が属する年の12月31日時点で判定されます。時間に直すと、時給1,280円で年1,171時間、1,177円で年1,274時間、1,085円で年1,382時間です。130万円のときより、東京で年156時間、全国加重平均で年170時間、宮崎で年184時間多く働けます。時給が低いほど、150万円に変わったことで増える時間は大きくなります。ただしこれは健康保険の被扶養者の話で、所得税の扶養控除(特定扶養親族・特定親族特別控除)の判定は別の金額なので、両方を見る必要があります。

出典

制度の内容は改正されることがあります。判断の際は必ず出典元の最新情報をご確認ください。