税金(投資・NISA)

扶養の壁は2026年に組み替わる ― 106万円の壁が消える日

2026年10月1日に、いわゆる「106万円の壁」が撤廃されました。

この記事は2026年8月に書いたもので、そのときは「撤廃予定」でした。厚生労働省の資料にはこう書かれていました。

賃金要件(いわゆる年収106万円の壁)は令和8(2026)年10月に撤廃予定

その日は来ています。 施行された後に何が変わり、行政の案内がどこまで追いついたかは、末尾の【2026年10月21日 追記】にまとめました。

理由は最低賃金です。全ての都道府県で令和7年度の地域別最低賃金が時給1,016円を超えたため、週20時間働けば月額8.8万円に自動的に届くようになりました。金額で線を引く意味がなくなった、ということです。

一方で税の側も動いています。令和8年度税制改正で基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、本人に所得税がかからない年収が178万円まで上がりました。

「103万円」「106万円」「130万円」で覚えていた壁は、2026年に組み替わります。

結論

壁と呼ばれているものは、実は性質の違う3種類が混ざっています。 本人に税がかかる線、配偶者の扶養から外れる線、そして社会保険に加入する線です。

このうち税の線は、大きく上に動きました。 基礎控除と給与所得控除が引き上げられたためで、以前より広い範囲で税がかからなくなっています。

社会保険の線は、金額から労働時間に置き換わります。 賃金の要件がなくなり、週に何時間働くかで決まる形に近づきます。企業の規模による違いも、年を追って段階的になくなっていきます。

そして残る壁が一つあります。 配偶者などの健康保険に入っている人が、そこから外れる基準です。こちらは金額のままで、しかも動いていません。 制度が違うので、税の改正では変わらないためです。

本記事は、働く時間を増やすべきかどうかには踏み込みません。制度がどう変わるかと、金額の関係を示すところまでを扱います。

計算の前提

項目条件
保険料協会けんぽ東京支部・令和8年3月分(4月納付分)から
年齢40歳未満(介護保険料の負担なし)
税額令和8年分の所得税。給与所得控除74万円・基礎控除104万円で計算
本人の所得給与のみ。他の所得控除は考慮しない
差し引いたもの健康保険料・厚生年金保険料・子ども子育て支援金だけ。住民税と雇用保険料は含まない
加入の前提勤め先の加入要件(週20時間以上・企業規模など)を満たしている場合。国民健康保険・国民年金の場合は額が異なる
保険料率は都道府県によって違います。東京支部の料率で計算しています。

いま存在する「壁」を並べる

壁何の線か2026年の状況
178万円本人に所得税がかかり始める引き上げられた(給与所得控除74万+基礎控除104万)
136万円配偶者控除・扶養控除の対象から外れる引き上げられた(合計所得62万円以下)
106万円社会保険の賃金要件2026年10月1日に撤廃された
130万円健康保険の被扶養者から外れる変わらない
住民税の非課税限度額住民税がかかり始める市区町村の条例による

上の2つは税、下の2つは社会保険です。所管も根拠法も違います。

① 税の壁は、大きく上に動いた

令和8年度税制改正の大綱に、こう書かれています。

中低所得者に配慮しつつ、所得税の課税最低限を178万円まで特例的に先取りして引き上げる

内訳はこうです。

令和7年分令和8年分
給与所得控除の最低保障額65万円74万円
基礎控除(合計所得489万円以下)95万円/88万円104万円
本人に所得税がかからない年収123万円178万円
基礎控除は本則62万円に、令和8年分・令和9年分の加算42万円を加えた額です。合計所得489万円超655万円以下は加算5万円で67万円になります。

扶養に入れるかどうかの線も動きました。

区分令和7年分令和8年分・令和9年分
扶養親族・同一生計配偶者合計所得58万円以下
(給与収入123万円以下)
合計所得62万円以下
(給与収入136万円以下)

そして136万円を超えても、いきなり控除がゼロになるわけではありません。

配偶者の合計所得給与収入配偶者特別控除
62万円超 95万円以下136万円超 169万円以下38万円(配偶者控除と同額)
95万円超 100万円以下169万円超 174万円以下36万円
100万円超 105万円以下174万円超 179万円以下31万円
(以下、段階的に減少)
133万円超207万円超0円
控除を受ける本人の合計所得金額が900万円以下の場合。900万円を超えると額が下がります。

税の側では「働くと損をする」という段差は、ほとんど残っていません。

② 106万円の壁は、2026年10月1日に撤廃された

短時間労働者が社会保険に加入する要件は4つあります。

要件2026年10月1日以降
①所定内賃金が月額8.8万円以上(賃金要件)撤廃された
②週の所定労働時間が20時間以上残る
③勤め先の従業員数が51人以上(企業規模要件)段階的に撤廃
④学生ではないこと残る

①がなくなると、実質的に②の週20時間が判定基準になります。

ただし例外があります。最低賃金法には一定の場合に最低賃金の減額を許可する特例があり、この特例の対象となる短時間労働者のうち月額賃金8.8万円未満の方は、原則として加入しないこととされています(申出により任意加入は可能)。この例外は、撤廃と同じ2026年10月1日に厚生年金保険法の附則として加わりました。 申出の手続きは末尾の【2026年10月21日 追記】に書きました。

企業規模の要件は、10年かけて消える

時期対象となる企業
現在従業員51人以上
令和9(2027)年10月から36人以上
令和11(2029)年10月から21人以上
令和14(2032)年10月から11人以上
令和17(2035)年10月から10人以下も対象(=撤廃)

勤め先の規模で扱いが変わる期間が、しばらく続きます。 なお要件を満たさない企業でも、従業員の2分の1以上の同意があれば任意で加入できます。

③ 130万円の壁だけが、そのまま残る

これは「自分が社会保険に入る」話ではなく、「配偶者などの健康保険の被扶養者でいられるか」の話です。 制度が別なので、税制改正でも年金制度改正でも動いていません。

対象年間収入の要件
配偶者など一般130万円未満
60歳以上・障害者180万円未満
19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)150万円未満

金額だけで決まるわけではありません。 日本年金機構は、これに加えて次を求めています。

  • 同居の場合 … 収入が被保険者の収入の半分未満であること
  • 別居の場合 … 収入が被保険者からの仕送り額より少ないこと
  • いずれの場合も、主として被保険者により生計を維持されていること

収入が130万円未満でも、これらを満たさなければ被扶養者になれません。

3行目は2025年10月に変わったところです。 日本年金機構は「令和7年10月1日以後の扶養認定日から、現行の『年間収入130万円未満』が『年間収入150万円未満』に変わります」としています。学生アルバイトのお子さんは、こちらの基準です。

130万円を超えたら、どこに入るのか

ここを混同すると計算を間違えます。 130万円は被扶養者でいられるかの基準であって、勤め先の社会保険に入る基準ではありません。外れた後に入る先は、働き方で分かれます。

状況加入する先
週20時間以上・企業規模などの要件を満たす勤め先の健康保険・厚生年金
要件を満たさない国民健康保険・国民年金(自分で加入)

そして順序が逆になることもあります。 従業員51人以上の企業で週20時間以上働き、学生でない人は、2026年9月までは月額8.8万円(年収106万円程度)の段階で勤め先の社会保険に入ります。 2026年10月以降は、賃金の額に関係なく加入します。

つまり「130万円を超えた瞬間に勤め先の社会保険に入る」という関係ではありません。 多くの場合、それより手前で入っています。

勤め先の社会保険に入ると、いくら引かれるか

ここからは、勤め先の加入要件(週20時間以上・企業規模など)を満たしている人の計算です。 国民健康保険・国民年金に入る場合は保険料の決まり方が違い、自治体によっても額が変わるため、この計算は当てはまりません。

協会けんぽ東京支部の令和8年3月分からの保険料額表で計算します。料率ではなく、公表されている額をそのまま使っています。

年収の目安標準報酬月額健康保険子ども・子育て支援金厚生年金月の合計年の合計
106万円88,000円4,334円101円8,052円12,487円149,846円
130万円110,000円5,418円127円10,065円15,609円187,308円
150万円126,000円6,206円145円11,529円17,879円214,553円
いずれも本人負担分(折半額)。40歳未満で介護保険料の負担がない場合です。
1,290,000129万被扶養者1,300,000130万加入1,500,000150万加入1,505,000150.5万加入
129万被扶養者130万加入150万加入150.5万加入
社会保険料を引いた残り1,290,0001,112,6921,285,4471,290,000
社会保険料(本人負担)0187,308214,553215,000
合計1,290,0001,300,0001,500,0001,505,000

左端が被扶養者のままの129万円です。加入すると残りは111万円に下がり、元の水準に戻るのは年収150万5000円あたりです。差は約21万5000円あります。ここから住民税と雇用保険料がさらに引かれます。

被扶養者のまま働いた場合と、勤め先の社会保険に加入した場合の比較(協会けんぽ東京支部・令和8年3月分からの保険料額表)。健康保険料・厚生年金保険料・子ども子育て支援金だけを差し引いた額で、住民税と雇用保険料は含んでいません。

年収129万円で被扶養者のままなら、社会保険料は引かれません。 130万円を超えて勤め先の社会保険に加入すると、残りは111万2692円になります。同じ額に戻るのは、年収150万5000円あたりです。

これは「手取り」ではありません。 健康保険料・厚生年金保険料・子ども子育て支援金だけを差し引いた金額で、住民税(非課税限度額は市区町村の条例による)と雇用保険料は含んでいません。所得税は年収178万円までかからないため、この範囲ではゼロです。

ただしこれは負担の側だけを見た数字です。 厚生年金に加入すれば将来の年金が増え、健康保険では傷病手当金や出産手当金の対象になります。保険料は掛け捨てではありません。

そして2026年10月以降は、この計算の意味が変わります。 賃金要件がなくなるため、週20時間以上働くなら年収を抑えても加入することになるからです。調整するとしたら金額ではなく労働時間の方になります。

あなたの数字で確かめる手順

① 勤め先の従業員数を確認する

51人以上なら、いまも短時間労働者の適用対象です。 51人未満なら、令和9年10月以降の段階に応じて順に対象になります。

② 週の所定労働時間を確認する

週20時間以上 かつ 学生でない かつ 勤め先が対象規模
 → 社会保険に加入(2026年10月以降は賃金要件なし)

③ 加入対象でないなら、130万円(または150万円)を見る

勤め先の加入対象でない働き方なら、次は被扶養者でいられるかです。 19歳以上23歳未満のお子さんは150万円未満、配偶者は130万円未満が基準になります。同居なら被保険者の収入の半分未満、別居なら仕送り額より少ないことも要件です。

ここを外れると、勤め先の社会保険ではなく、国民健康保険・国民年金に自分で加入することになります。 保険料は自治体によって違うので、お住まいの市区町村で確認してください。

④ 税の線は178万円と136万円で見る

本人に所得税がかかり始める年収 = 178万円
配偶者控除・扶養控除の対象から外れる年収 = 136万円
 → ただし配偶者は169万円まで38万円の配偶者特別控除

税の線と社会保険の線は別々に判定します。 どちらか一方だけを見て決めると外します。

【2026年10月21日 追記】賃金要件は撤廃され、行政の案内は片方だけ直りました

2026年10月1日、賃金要件の撤廃が施行されました。 この記事を書いたのは2026年8月で、そのときは「撤廃予定」でした。本文の「予定」と書いていた箇所は、施行済みの書き方に直しています。

条文は、すでに書き換わっています

撤廃そのものを決めたのは令和7年法律第74号(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)ですが、いつからかは政令に預けられていました。その政令は令和8年9月11日の官報に載っています。

 …の施行期日は、令和八年十月一日とする。 令和8年政令第275号(官報 令和8年9月11日 号外第203号 7ページ)

そして、いまの厚生年金保険法第十二条第五号はこうなっています。

 …に該当し、かつ、イ又はロのいずれかの要件に該当するもの  イ 一週間の所定労働時間が二十時間未満であること。  ロ 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十条に規定する高等学校の生徒、同法第八十三条に規定する大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。 厚生年金保険法第十二条第五号(e-Gov法令検索・法令API。2026年10月21日に取得)

「八万八千円未満であること」という定めは、残っていません。 健康保険法第三条第一項第九号も同じ形です。

行政の案内は、同じサイトの中で食い違っています

見た先2026年10月21日の状態
厚生労働省・適用拡大特設サイト「社会保険加入の要件」要件を4つ挙げ、4つ目に所定内賃金が月額8.8万円以上。注記は「(2026年10月に賃金要件を撤廃予定)」のまま
同じサイトの「適用拡大Q&A」要件は週の所定労働時間が20時間以上・学生でないの2つだけ。「賃金要件(所定内賃金の月額が8.8万円以上)については、令和7年年金制度改正により、2026年10月に撤廃されました」
日本年金機構・年金用語集「短時間労働者」(更新日2026年10月1日)「週の所定労働時間が20時間以上かつ、学生ではない方」。8.8万円は書かれていない
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内」(同)同じ。あわせて撤廃のチラシと、23問のQ&Aが新しく載った

同じ特設サイトの中で、要件のページとQ&Aのページが違うことを書いています。 Q&Aのほうは、こうまで書いています。

短時間労働者の社会保険加入の要件の1つであった賃金要件(所定内賃金の月額が8.8万円以上)については、令和7年年金制度改正により、2026年10月に撤廃されました。そのため、年収約106万円を気にする必要はありません。 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」適用拡大Q&A Q4(2026年10月21日に確認)

制度がいつ動くかを、役所の解説ページの表記で判断すると遅れます。 勤め先や年金事務所に確認するときは、要件のページの注記を根拠にしないでください。

撤廃されても入れない人が残り、その人には手続きができました

同じ2026年10月1日に、厚生年金保険法に附則第四条の六が加わりました。

 当分の間、適用事業所に使用される、七十歳未満の短時間労働者のうち、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)第七条の規定の適用を受ける同条各号に掲げる労働者であつて、その者の報酬(…)について、…第二十二条第一項の規定の例により算定した額が、八万八千円未満であるもの(以下この条において「特定減額特例対象者」という。)については、第九条の規定にかかわらず、被保険者としない。 厚生年金保険法附則第四条の六第一項(e-Gov法令検索・法令API。2026年10月21日に取得)

撤廃された8万8千円という金額は、ここに残りました。 ただし対象になるのは、最低賃金法第7条の減額特例の許可を受けている人だけです。理由は年金機構のQ&Aに書かれています。

特定減額特例対象者については保険料負担が報酬に比して過大になる場合があることから、当分の間、被保険者としないこととしました。 日本年金機構「賃金要件の撤廃及び当該撤廃に伴う適用除外等の特例に係る事務の取扱いに係るQ&Aについて(令和8年10月施行分)」A5

そして、この人たちは自分から申し出れば加入できます。

論点条文・Q&Aが言っていること
申し出られるか「申出をしたときは、その者は、…被保険者となることができる」(附則第四条の六第二項)
事業主の同意不要。拒否権もない。 「申出書が提出された事業主は、資格取得届を添えた申出書を提出する義務があります」(A10)。しない場合は「法令違反となることを説明し指導します」(A21)
いつから被保険者か申出書が受理された日。「その申出が受理されたときは、その日に、…被保険者の資格を取得する」(附則第四条の六第三項)
期限定めがない。「特段期限の定めはありません」(A15)
健康保険だけ・厚生年金だけ選べない。 双方の申出ができる場合は同時に行う(附則第四条の六第七項、A7)
やめられるかいつでも。 申出が受理された日の翌日に資格を喪失する(同条第五項・第六項、A16)
保険料一般の被保険者と同じ労使折半。保険料調整制度を使っている事業所なら、その対象にもなる(A11)
令和8年9月以前にさかのぼる場合撤廃前の基準で判定する。「遡及して被保険者資格を取得する場合は、撤廃前と同じ基準で、賃金要件も満たす必要があります」(A2)
手続きは、本人が「特定減額特例対象者被保険者資格取得申出書」を事業主に提出し、事業主が被保険者資格取得届と合わせて日本年金機構へ提出する流れです(A14)。健康保険組合に加入している場合は、組合にも同時に届け出ます(A22)。

賃金要件は、撤廃される前から働いていませんでした

撤廃の理由は「この要件がもう効いていなかったから」です。 年金機構のQ&Aは「最低賃金の上昇により週の所定労働時間が20 時間以上であれば賃金要件を満たすことになり、要件としての必要性がなくなった」としています。実際の最低賃金で確かめます。

週20時間で月額8万8千円に届くのに必要な時給は、1か月の所定労働時間を「週の所定労働時間 × 52 ÷ 12」で見ると、こうなります。

88,000円 ÷ (20時間 × 52 ÷ 12) = 1,015.3846… 円
 → 時給1,015円では月87,966円で届かない
 → 時給1,016円なら月88,053円で届く
時給週20時間での月額8万8千円との差年収換算
1,023円(令和7年度の最低額・高知・宮崎・沖縄)88,660円+660円1,063,920円
1,085円(令和8年度の最低額・宮崎)94,033円+6,033円1,128,400円
1,177円(令和8年度の全国加重平均)102,006円+14,006円1,224,080円
時給 × 20時間 × 52週 ÷ 12か月。円未満は切り捨てています。年収換算は時給 × 20時間 × 52週。計算は scripts/calc-chingin-yoken-teppai-20261021.py の出力です。

令和7年度・令和8年度のどちらで見ても、47都道府県すべてで届きます。 届かない県は0県でした。

なお令和8年度の最低賃金は、発効日が都道府県ごとに違います。 撤廃日である2026年10月1日に発効したのは15県で、10月中に22県、11月以降に10県(最も遅いのは沖縄の令和8年12月2日)です。撤廃日の時点で令和7年度額のままだった県もありますが、その令和7年度額でも上の表のとおり届いています。

つまり、撤廃で新たに加入対象になるのは、時給が1,015円以下でも合法に働ける人だけです。 それは最低賃金法第7条の減額特例の許可を受けている場合で、その人たちはちょうど、上で見た特定減額特例対象者として除かれました。 1つ外した要件が、別の形で残ったことになります。

まとめ

  • 2026年10月1日に、社会保険の賃金要件(106万円の壁)が撤廃された。 根拠は令和8年9月11日に公布された令和8年政令第275号で、e-Gov法令検索の条文からも「八万八千円未満であること」は消えている
  • 理由は最低賃金の上昇。全都道府県で時給1,016円を超えたため、週20時間で自動的に月8.8万円に届く
  • 撤廃後は週20時間が実質的な判定基準になる
  • 企業規模の要件は令和9年10月から段階的に縮小し、令和17年10月に撤廃される
  • 税の側は令和8年分から大きく上がった。本人に所得税がかからない年収は178万円、扶養に入れる年収は136万円
  • 136万円を超えても、給与収入169万円までは配偶者特別控除38万円で、配偶者控除と同額
  • 130万円の壁だけが残る。 健康保険の被扶養者の基準で、税制改正では動かない
  • ただし19歳以上23歳未満は2025年10月から150万円未満に上がった
  • 130万円を超えたら勤め先の社会保険に入る、とは限らない。 週20時間などの要件を満たせば勤め先の健康保険・厚生年金、満たさなければ国民健康保険・国民年金に自分で加入する
  • しかも要件を満たす人は、2026年9月までは月8.8万円の段階で、10月以降は賃金に関係なく加入している。130万円より手前で入っていることが多い
  • 被扶養者の要件は金額だけではない。同居なら被保険者の収入の半分未満、別居なら仕送り額より少ないことも要る
  • 勤め先の社会保険に入ると保険料は年187,308円(年収130万円の場合)。差し引いた残りが元に戻るのは年収150万5000円あたり
  • この計算は「手取り」ではない。 住民税と雇用保険料は含んでいない
  • 保険料は掛け捨てではない。 厚生年金は将来の年金に、健康保険は傷病手当金などにつながる

「壁」という言葉は、性質の違う制度をひとまとめにしています。 ご自身がどの線の話をしているのかを分けて確認してください。

よくある質問

106万円の壁はなくなるのですか?

なくなりました。社会保険に加入するかどうかを決める要件のうち、「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件は、2026年(令和8年)10月1日に撤廃されています。撤廃そのものを決めたのは令和7年法律第74号で、その日を定めたのが令和8年9月11日に公布された令和8年政令第275号です。e-Gov法令検索で厚生年金保険法第十二条第五号を引くと、短時間労働者を被保険者としない場合はイ(週の所定労働時間が20時間未満)とロ(学生)の2つだけで、「八万八千円未満であること」という定めは残っていません。健康保険法第三条第一項第九号も同じ形です。日本年金機構のQ&Aは理由を「最低賃金の上昇により週の所定労働時間が20時間以上であれば賃金要件を満たすことになり、要件としての必要性がなくなった」と説明しています。したがって撤廃後は、週の所定労働時間が20時間以上かどうかが実質的な判定基準です。ただし最低賃金法第7条の減額特例の許可を受けている人のうち所定内賃金が月額8.8万円未満の人(特定減額特例対象者)は、原則として加入対象になりません。この人たちは申出をすれば加入でき、事業主に拒否権はありません。なお令和8年9月以前の期間について遡って資格を取得する場合は、撤廃前と同じ基準で賃金要件も満たす必要があります。

最低賃金の減額特例を受けていると、社会保険に入れないのですか?

原則は加入対象外ですが、自分から申し出れば加入できます。2026年10月1日に、厚生年金保険法に附則第四条の六が加わりました。適用事業所に使用される70歳未満の短時間労働者のうち、最低賃金法第7条の減額特例の許可を受けている人で、所定内賃金が月額8万8千円未満の人を「特定減額特例対象者」と呼び、この人は「当分の間」被保険者としないという定めです。理由は日本年金機構のQ&Aに書かれており、「保険料負担が報酬に比して過大になる場合があることから」とされています。ただし同条第二項は、申出をしたときは被保険者となることができると定めています。手続きは、本人が「特定減額特例対象者被保険者資格取得申出書」を事業主に提出し、事業主が被保険者資格取得届と合わせて日本年金機構へ提出する流れです。事業主の同意は不要で拒否権もなく、申出書を受け取った事業主には届出の義務があります。資格を取得するのは申出書が受理された日で、期限の定めはありません。健康保険と厚生年金保険の一方だけを選ぶことはできず、両方同時に申し出ます。加入した後も、申出をすればいつでも資格を喪失できます(受理された日の翌日)。

130万円の壁もなくなるのですか?

なくなりません。130万円は健康保険の被扶養者と認定されるための収入要件で、勤め先の社会保険に加入する要件(週20時間など)とは別の制度です。年収が130万円以上になって被扶養者から外れた場合、勤め先の加入要件を満たしていれば勤め先の健康保険・厚生年金に、満たしていなければ国民健康保険・国民年金に自分で加入することになります。なお認定には金額のほかに、同居なら被保険者の収入の半分未満であること、別居なら被保険者からの仕送り額より少ないこと、主として被保険者により生計を維持されていることも必要です。なお、19歳以上23歳未満の方(被保険者の配偶者を除く)については、令和7年10月1日以後の認定から、年間収入の要件が130万円未満から150万円未満に引き上げられています。学生アルバイトのお子さんがいるご家庭は、こちらの基準になります。

企業の規模によって扱いが違うのですか?

違います。短時間労働者が社会保険に加入する要件のひとつに、勤め先の従業員数が51人以上であること(企業規模要件)があります。これは段階的に縮小され、令和9年10月から36人以上、令和11年10月から21人以上、令和14年10月から11人以上、令和17年10月から10人以下の企業も対象となって、最終的に撤廃されます。また、要件を満たさない企業でも、従業員の2分の1以上の同意があれば任意で加入できる仕組みがあります。

税金の面での「壁」はどうなりましたか?

大きく上がりました。令和8年度税制改正で所得税の基礎控除が引き上げられ(合計所得489万円以下の方は104万円)、給与所得控除の最低保障額も74万円になりました。この2つを足すと178万円になるため、給与収入178万円までは本人に所得税がかかりません。税制改正の大綱にも「所得税の課税最低限を178万円まで特例的に先取りして引き上げる」と書かれています。また、配偶者の扶養に入れるかどうかの所得要件も合計所得62万円以下(給与収入136万円以下)に上がりました。

配偶者の年収が136万円を超えると、配偶者控除はなくなりますか?

配偶者控除はなくなりますが、代わりに配偶者特別控除があります。令和8年分・令和9年分では、配偶者の合計所得金額が62万円超95万円以下(給与収入136万円超169万円以下)であれば、控除額は38万円で配偶者控除と同額です。控除を受ける本人の合計所得金額が900万円以下の場合の額で、900万円を超えると26万円、13万円と下がります。配偶者の所得がさらに増えると控除額は段階的に減り、合計所得133万円(給与収入207万円)を超えるとなくなります。つまり「136万円を超えた瞬間に手取りが逆転する」という関係にはなっていません。

社会保険に加入すると手取りはいくら減りますか?

勤め先の社会保険に加入する場合、協会けんぽ東京支部の令和8年3月分からの保険料額表で計算すると、標準報酬月額110,000円(年収130万円程度)の方の本人負担は、健康保険5,417円・子ども子育て支援金126円・厚生年金10,065円で月15,609円、年187,308円です。年収150万円程度(標準報酬月額126,000円)なら年214,553円になります。ただし厚生年金に加入すると将来の年金が増え、健康保険では傷病手当金や出産手当金の対象になります。負担だけを見て判断する性質のものではありません。なお40歳以上は介護保険料が加わります。

130万円を少し超えるくらいなら、働く時間を抑えた方が得ですか?

差し引き後の金額だけを見ると、超えた直後は下がります。年収129万円で被扶養者のままなら社会保険料はかかりませんが、130万円を超えて勤め先の社会保険に加入すると保険料が年18万円程度かかるため、同じ金額に戻すには年収150万5000円程度まで増やす必要があります。差は約21万5000円です。なおこの比較は健康保険料・厚生年金保険料・子ども子育て支援金だけを引いたもので、住民税と雇用保険料は含んでいません。また勤め先の加入要件を満たさない場合は、国民健康保険・国民年金の保険料になるため額が変わります。ただし2026年10月以降は、週20時間以上働けば年収に関係なく勤め先の社会保険に加入することになるため、「年収を抑えて加入を避ける」という考え方自体が使いにくくなります。労働時間の方で調整する話に変わります。

住民税にも壁がありますか?

あります。住民税には所得割と均等割があり、それぞれ非課税となる限度額が定められています。この限度額は地方税法を受けて各市区町村の条例で定められ、生活保護基準の級地区分によって金額が異なります。所得税とは基準も適用時期も違い、たとえば扶養親族等の所得要件が62万円以下に上がるのは、所得税が令和8年分からであるのに対し、個人住民税は令和9年度分からです。ご自身の非課税限度額は、お住まいの市区町村にご確認ください。

出典

制度の内容は改正されることがあります。判断の際は必ず出典元の最新情報をご確認ください。