通勤手当の非課税限度額が、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から変わりました。マイカーなどで通勤している人のうち片道65km以上の区分が4つ新設され、上限が1か月38,700円から66,400円になりました。そしてもう1つ、駅前や勤務先周辺の駐車場代を、1か月5,000円まで限度額に足せるようになりました。
国税庁は令和8年4月に「通勤手当の非課税限度額の改正について」というページを開き、同時に8ページのQ&Aを出しています。タックスアンサーNo.2585も令和8年4月1日現在の法令等に更新され、非課税限度額が定められた距離の区分が11段になりました(このほかに「片道2km未満は全額課税」の区分があります)。
ニュースは「上限が上がった」で終わります。この記事は、上がった分で手取りが実際にいくら増えるかを、実額で計算します。
結論
この改正で得をするのは、もともと非課税の枠を超えて通勤手当をもらっていた人だけです。枠が上がっても、もらっている通勤手当が枠に届いていなければ、何も変わりません。課税されていた部分が課税されなくなる、という改正だからです。
駐車場代を足せるかどうかは、金額ではなくどこに駐めるかで決まります。自宅の駐車場は対象外です。勤務先の周辺か、通勤で使う駅やバス停の周辺でなければ、まったく足せません。
そして、課税されていた通勤手当が非課税になっても、浮く金額は思うほど大きくなりません。 理由は2つあります。1つは、非課税になった分だけ給与等の収入金額が下がるので、給与所得控除も一緒に小さくなることです。もう1つは、健康保険と厚生年金の保険料がまったく動かないことです。通勤手当は、非課税の部分も含めて社会保険の「報酬」に入るからです。
税が非課税になることと、社会保険料がかからないことは、別の話です。 この改正で変わったのは前者だけです。
計算の前提
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 設例1 | 片道70kmのマイカー通勤。通勤手当は1か月45,700円(改正後の非課税限度額と同額) |
| 設例2 | 片道50kmのマイカー通勤で、駅前の駐車場を1か月8,000円で借りている。通勤手当は距離分32,300円+駐車場代相当額8,000円=1か月40,300円(国税庁Q&AのケースAと同じ条件) |
| 収入 | 通勤手当を除く年間の給与(基本給と賞与)を300万円・400万円・500万円・600万円・700万円の5通りで計算する。他の所得は無いものとする |
| 社会保険料 | (通勤手当を除く給与+通勤手当の年額)×15%(当サイトのシミュレーターの既定値。実額ではない)。改正の前後で同じ額に固定する(通勤手当は非課税の部分も報酬に入るため) |
| 家族 | 配偶者は共働きで扶養に入らない。子は16歳未満(扶養控除の対象外)。所得金額調整控除は、設例の給与収入がいずれも850万円以下なので適用しない |
| その他の控除 | 生命保険料控除・地震保険料控除・医療費控除・iDeCo・住宅ローン控除・ふるさと納税は無いものとする |
| 給与所得の金額 | 所得税法28条4項・別表第五。改正後の令和8年分の表は国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」47〜54ページ |
| 基礎控除 | 令和8年分。合計所得金額489万円以下104万円/489万円超655万円以下67万円。住民税は43万円 |
| 端数 | 課税所得は1,000円未満切捨て、所得税の年税額は100円未満切捨て、住民税の所得割は道府県民税と市町村民税で別々に100円未満切捨て。ただし⑧のふるさと納税の「所得割額の2割」の判定だけは、切り捨てる前の所得割額で行う(⑧の注を参照) |
| 「満年度」の意味 | 1年を通じて改正後の限度額で計算した場合。令和8年分は4月支給分からの9か月分しか効かない(⑦で分けて計算する) |
scripts/calc-tsukin-teate-hikazei.py で行い、出力を転記しました。別表第五は scripts/fetch-beppyo5-r8.py で国税庁のPDFから機械的に取り込んでいます。
① 変わったのは2つだけ ― 片道65km以上の区分と、駐車場代の加算
財務省「令和8年度税制改正の大綱」29ページが、改正の中身をそのまま表で示しています。
財務省「令和8年度税制改正の大綱」29ページ。太字は引用者。(2)通勤のため自動車その他の交通用具を使用することを常例とする者が受ける通勤手当について、次の措置を講ずる。 ① 通勤距離が片道65 ㎞以上の者の1月当たりの非課税限度額を次のように引き上げる。 ② 一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担することを常例とする者の1月当たりの非課税限度額については、その通勤距離の区分に応じた非課税限度額に1月当たりの当該駐車場等の料金相当額(5,000 円を上限とする。)を加算した金額とする。
距離の区分は、所得税法施行令20条の2第2号のイからルまでに11段で定められています。改正前と並べるとこうです。
| 片道の通勤距離 | 改正前 | 改正後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 | 全額課税 | — |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 | 4,200円 | 0円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 | 7,300円 | 0円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 | 13,500円 | 0円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 | 19,700円 | 0円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 | 25,900円 | 0円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 | 32,300円 | 0円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 | 38,700円 | 0円 |
| 65km以上75km未満 | 38,700円 | 45,700円 | 7,000円 |
| 75km以上85km未満 | 38,700円 | 52,700円 | 14,000円 |
| 85km以上95km未満 | 38,700円 | 59,600円 | 20,900円 |
| 95km以上 | 38,700円 | 66,400円 | 27,700円 |
片道65km未満の金額(4,200円から38,700円まで)は1円も動いていません。 55km以上65km未満の38,700円も据え置きです。つまりこの改正の恩恵は、片道65km以上の人と、駐車場代を負担している人に限られます。交通機関だけで通勤している人の限度額(1か月15万円)も変わっていません。
①-2 ただし、その手前の令和7年11月に、ほとんどの区分が上がっている
「動いていない」のは、今回の令和8年度税制改正に限った話です。 その直前に別の引上げがありました。令和7年11月19日に所得税法施行令の一部を改正する政令が公布され、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当まで遡って、交通用具の区分がほぼ全部引き上げられていました。上の表の「改正前」の欄に並んでいる4,200円から38,700円は、このときに決まった額です。
| 片道の通勤距離 | 令和7年11月改正前 | 同改正後(=今回の「改正前」) |
|---|---|---|
| 2km以上10km未満 | 4,200円 | 4,200円(据え置き) |
| 10km以上15km未満 | 7,100円 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 12,900円 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 18,700円 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 24,400円 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 28,000円 | 32,300円 |
| 55km以上 | 31,600円 | 38,700円 |
つまり据え置きが続いているのは片道2km以上10km未満の4,200円だけです。 それ以外の人は、令和7年に一度上がっています。
ここに取りこぼしが起きる余地があります。 この引上げは政令の公布(令和7年11月19日)より前の支給分にも遡って適用されるので、公布前に古い限度額で源泉徴収していた分が出ます。国税庁はその扱いをこう書いています。
国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げに関するQ&A」(令和7年11月)A10。太字は引用者。令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当で、令和7年11 月19 日までに支払われたものについては、遡って税額の再計算を行う必要はなく、本年の年末調整の際に、改正後の非課税限度額を適用した場合に過納付となる税額を精算することになります。
精算の場は令和7年分の年末調整でした。年の途中で退職した人には、源泉徴収票を作り直して渡すことになっています。
国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げに関するQ&A」(令和7年11月)A16。太字は引用者。年の中途に退職した人などに対し支払っていた通勤手当が、改正前の非課税限度額以下である場合には、特段の対応は不要ですが、改正前の非課税限度額を超えた通勤手当を支払っていた場合で、改正後の非課税限度額を適用することで新たに非課税となった部分の金額があるときは、「支払金額」欄を訂正するとともに、「摘要」欄に「再交付」と表示した給与所得の源泉徴収票を作成し、再度交付してください。
令和7年分の通勤手当が上の表の「改正前」の額を超えていた人は、確かめる価値があります。 確かめ方は、令和7年12月の給与明細に出ている年末調整の還付額ではなく、令和7年分の源泉徴収票の「支払金額」に通勤手当が乗っているかどうかです。非課税の部分は「支払金額」に入らないので(手順①参照)、改正後の限度額に収まる額しかもらっていないのに通勤手当が乗っていれば、精算が済んでいません。給与明細の課税支給額と突き合わせても分かります。判断が付かなければ勤務先に聞くのが早いです。勤務先で精算されないままなら、自分で還付申告する道が残っています。
国税庁 タックスアンサーNo.2030「還付申告」。太字は引用者。令和7年分なら令和8年1月1日から5年間です。還付申告書は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。
② 駐車場代が足せるかどうかは、「どこに駐めるか」で決まる
加算の対象になる駐車場の要件は、所得税法施行令20条の2第3号が財務省令に委ねていて、所得税法施行規則2条の2第1項が定めています。
所得税法施行規則2条の2第1項。太字は引用者。令第二十条の二第三号(非課税とされる通勤手当)に規定する財務省令で定める要件は、同号に規定する交通用具の駐車のための施設が、その受ける同条に規定する通勤手当に係るその者の勤務する場所の周辺又はその者が通勤のため利用する交通機関の駅若しくは停留所その他の施設の周辺にあることとする。
「又は」です。 勤務先の周辺に駐める場合と、駅やバス停の周辺に駐める場合(パークアンドライド)の、どちらでも対象になります。国税庁は「その他の施設」について「例えば、フェリー乗り場や空港などの交通機関の施設をいいます」としています。
対象外になるものが、Q&Aにはっきり書かれています。
国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」Q2-4。太字は引用者。自宅付近の駐車場等はこれに該当しませんので、自宅付近の駐車場等を利用している場合のその駐車場等の料金相当額の通勤手当は非課税となりません。
自宅の駐車場は、通勤に使う車を置く場所であっても対象になりません。 車を持つための費用であって、通勤のための費用ではないという線引きです。
そのほか、Q&Aで確認できることを並べます。
| 論点 | 国税庁の答え | 出どころ |
|---|---|---|
| 自転車・バイクの駐輪場は入るか | 入る | Q2-2 |
| 複数の駐車場を使っている場合 | 合計額で見る(上限5,000円) | Q2-3 |
| 片道2km未満の人 | 駐車場代の加算も使えない | Q3-4 |
| 会社が従業員に代わって契約して払った駐車場代 | 通勤手当を支給したものとして計算に入れる | Q4-2 |
| 契約書や領収書の提示を受ける義務はあるか | 法令上の義務はないが、料金相当額を算出するために金額の確認は必要 | Q4-1 |
Q3-4は見落としやすい箇所です。 片道2km未満の人は距離の区分の金額が「全額課税」ですが、駐車場代だけなら足せるのではないか、と読めてしまいます。足せません。施行令20条の2第3号が、そもそも「その通勤の距離が片道二キロメートル未満である者」を除いているためです。
③ 1か月当たりの料金相当額は、料金の決め方で4通り
月極の駐車場なら月額をそのまま使えますが、コインパーキングや回数券の場合はどうするのか。これも施行規則2条の2第2項が4区分で定めていて、Q&AのQ3-3に例が並んでいます。
| 料金の決め方 | 1か月当たりの額の出し方 | Q&Aの例 | 1か月当たり |
|---|---|---|---|
| 月単位 | その額(1月の整数倍なら倍数で割る) | 3か月24,000円 | 8,000円 |
| 年単位 | 12で割る(1年の整数倍なら12×倍数で割る) | 1年79,200円 | 6,600円 |
| 同上 | 同上 | 2年168,960円 | 7,040円 |
| 利用の都度 | ①1か月の実際の合計額、②1回の料金×1か月の利用回数、③その他合理的な方法 | 11枚綴り1,200円の回数券で駐輪場を月20日 | 2,182円 |
| 同上 | 同上 | 1時間200円のコインパーキングを平均8時間×月20日 | 32,000円 |
| 上記以外 | 年間料金相当額(料金×365÷算定期間の日数)を12で割る | 7日5,880円 | 25,550円 |
どれも上限は5,000円なので、この表で5,000円を超えるものは5,000円に切り下がります。 計算が効いてくるのは、月額が5,000円を下回る駐輪場などの場合です。回数券の例(2,182円)は、Q&A自身が「非課税限度額の計算の簡素化のために、2,400円(120円×20日)を『1か月当たりの駐車場等の料金相当額』としても差し支えありません」という別の計算も認めています。
消費税の扱いも書かれています。「駐車場等の料金に消費税及び地方消費税の額が含まれている場合には、その消費税及び地方消費税の額を含めた金額となります」。税込みの額で判定します。
④ 超えた分はどうなるか ― 国税庁のケースで確かめる
非課税限度額を超えた部分は、給与として課税されます。タックスアンサーNo.2585はこう書いています。
国税庁 タックスアンサーNo.2585。太字は引用者。1か月当たりの非課税となる限度額を超えて通勤手当を支給する場合には、超える部分の金額が給与として課税されます。この超える部分の金額は、通勤手当を支給した月の給与の額に上乗せして所得税および復興特別所得税の源泉徴収を行います。
年末にまとめてではなく、支給した月の給与に乗せます。 判定も1か月単位です。Q&Aには、片道50kmで駐車場を使っている人のケースが4つ並んでいます。計算し直して全件一致しました。
| 距離分として支給した額 | 駐車場の1か月の料金 | 支給額の合計 | 非課税限度額 | 課税される額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| ケースA | 32,300円 | 8,000円 | 40,300円 | 37,300円 | 3,000円 |
| ケースB | 28,000円 | 8,000円 | 36,000円 | 37,300円 | 0円 |
| ケースC | 33,000円 | 4,400円 | 37,400円 | 36,700円 | 700円 |
| ケースD | 区分せず | 4,400円 | 35,000円 | 36,700円 | 0円 |
ケースBとケースCの対比が要点です。 ケースBは駐車場代8,000円を全額もらっていても、距離分が28,000円と少ないので、合計36,000円が限度額37,300円に収まり、全額が非課税になります。判定するのは「駐車場代が5,000円を超えているか」ではなく、「通勤手当の合計額が限度額を超えているか」です。 ケースDのように距離分と駐車場代を区分せずに支給していても、同じように合計で判定します。
交通機関と併用している場合は、1か月15万円の上限が効いてきます。Q&AのケースEは、定期代115,000円・距離分32,300円・駐車場代4,000円の合計151,300円を支給している例で、限度額は合計の151,300円ではなく150,000円になり、1,300円が課税されるとしています。駐車場代の加算が新設されても、15万円の天井は動いていません。
⑤ 手取りはいくら増えるか ― 非課税になった額の1割から3割
ここから実額です。設例1(片道70km・通勤手当45,700円)で、月ごとの内訳はこう動きます。
| 設例1 改正前 | 設例1 改正後 | 設例2 改正前 | 設例2 改正後 | |
|---|---|---|---|---|
| 非課税の部分 | 38,700 | 45,700 | 32,300 | 37,300 |
| 給与として課税される部分 | 7,000 | 0 | 8,000 | 3,000 |
| 合計 | 45,700 | 45,700 | 40,300 | 40,300 |
同じ設例どうしで棒の高さは変わっていません。もらう額は同じで、色の境目だけが上がっています。設例1は課税される部分が消えますが、設例2は駐車場代8,000円のうち5,000円までしか足せないので、3,000円は課税されたまま残ります。
設例1では、改正前は毎月7,000円が給与として課税されていました。年にすると84,000円です。これが全額非課税になります。では税金はいくら減るか。
| 通勤手当を除く給与 | 改正前の給与収入 | 改正前の所得税+住民税 | 満年度の所得税+住民税 | 減る額 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 3,084,000円 | 134,800円 | 125,900円 | 8,900円 |
| 400万円 | 4,084,000円 | 225,100円 | 215,000円 | 10,100円 |
| 500万円 | 5,084,000円 | 323,300円 | 313,200円 | 10,100円 |
| 600万円 | 6,084,000円 | 444,700円 | 431,100円 | 13,600円 |
| 700万円 | 7,084,000円 | 641,400円 | 618,200円 | 23,200円 |
84,000円が非課税になって、減る税金は8,900円から23,200円です。 割合で言うと10.6%から27.6%です。「非課税になった」と聞いて84,000円が手元に残るつもりでいると、肩透かしになります。
理由の1つめは、給与所得控除も一緒に小さくなることです。
| 通勤手当を除く給与 | 給与収入の減り | 給与所得の減り | 減り方 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 84,000円 | 58,800円 | 70% |
| 400万円 | 84,000円 | 67,200円 | 80% |
| 500万円 | 84,000円 | 67,200円 | 80% |
| 600万円 | 84,000円 | 67,200円 | 80% |
| 700万円 | 84,000円 | 75,600円 | 90% |
給与所得は「収入 − 給与所得控除」です。収入が下がると控除も下がるので、差し引きで下がるのは収入の減少額そのものではありません。 給与収入360万円超660万円以下の帯では給与所得控除が「収入×20%+44万円」なので、収入が84,000円減っても控除が16,800円減り、給与所得は67,200円しか減りません。
300万円の行だけ70%なのは、その帯の給与所得控除が「収入×30%+8万円」で、控除が3割の割合で減るためです。 収入が低いほうが、非課税になったことの効きが弱くなります。
理由の2つめは、次の⑥です。
⑥ 社会保険料は1円も減らない
これが見落としやすい点です。所得税が非課税になっても、健康保険と厚生年金の保険料は動きません。
日本年金機構「標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。」太字は引用者。通勤手当は報酬に含まれます。 厚生年金保険法でいう報酬とは、被保険者が事業主から労務の対償として支給されるすべてのものをいい、賃金、給料、手当などその名称にかかわらず対象になります。ただし、3カ月を超える期間ごとに受けるもの(賞与)及び臨時に支給されるものは除かれることとされています。 (中略)したがって、事業所の給与規定に定めのある通勤手当は、労務の対償として受けるものであると認められ、標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。
所得税で非課税かどうかは、ここには出てきません。 設例1の通勤手当は1か月45,700円、年548,400円ですが、改正の前も後も、この全額が標準報酬月額を決める報酬に入ります。改正前に課税されていた7,000円の部分だけが非課税に変わっても、報酬の額は変わりません。
つまり減るのは所得税と個人住民税だけです。 個人住民税も減るのは、地方税法313条2項が所得割の課税標準を「所得税法その他の所得税に関する法令の規定による……総所得金額……の計算の例により算定する」としており、所得税で非課税のものは住民税でも所得に入らないためです。
地方税法313条2項。太字は引用者。ただし書が除いている所得税法60条の2から60条の4までは国外転出をする場合の譲渡所得等の特例で、通勤手当には関係しません。前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例により算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
上の表で減った8,900円から23,200円の内訳は、所得税が3,000円から15,600円、住民税が5,900円から7,600円です。所得税の税率が5%の帯では、住民税のほうが減る額が大きくなります。 住民税の所得割は一律10%で、所得税の5%より高いからです。
⑦ 令和8年分は、9か月分しか効かない
適用時期です。Q&AのQ1-2はこう書いています。
国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」Q1-2。太字は引用者。(※)まで含めて引いています。改正後の通勤手当の非課税限度額は、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当(同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものを除きます。)について、適用されます。 なお、「令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」とは、それぞれ次に掲げる日が令和8年4月1日以後のものをいいます。 イ 契約又は慣習等により支給日が定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日 ロ 給与規程の改訂が既往に遡って実施されたため既往の期間に対応して支払われる新旧通勤手当の差額に相当する通勤手当で、その支給日が定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについてはその改訂の効力が生じた日 (※)上記ロに掲げる日が令和8年4月1日以後であっても、同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものについては、改正後の非課税限度額は適用されません。
見るのは「何月分か」ではなく、支給日です。 イが基準にしているのは支給日(定めがなければ支給を受けた日)で、通勤手当が何月分として計算されたかは問いません。前年の引上げのときのQ&Aに、同じ構図の例が2つ並んでいます。令和7年4月10日に令和7年3月分を規程どおり支給した場合は、支給日が4月10日なので改正後の限度額が適用されます(A4)。逆に、本来の支給日が令和7年3月10日だった令和7年2月分の未払分を4月10日に支給した場合は、本来の支給日で見るので改正前の限度額です(A8)。
したがって月末締め翌月払いの会社では、3月分の通勤手当が4月の支給日に支払われ、改正後の限度額で計算されます。 当月払いの会社とは1か月ずれます。
毎月支給で、支給日が1月から12月まで各月にある人なら、令和8年分で改正後の限度額が使えるのは4月支給分から12月支給分までの9か月です。 設例1で課税されていた金額は、年84,000円から21,000円(1月・2月・3月の支給分の3か月分)に減ります。差は63,000円で、満年度の84,000円より小さくなります。したがって令和8年分で減る税額も小さくなります。
| 通勤手当を除く給与 | 令和8年分(9か月分) | 満年度 |
|---|---|---|
| 300万円 | 6,800円 | 8,900円 |
| 400万円 | 7,700円 | 10,100円 |
| 500万円 | 7,700円 | 10,100円 |
| 600万円 | 10,400円 | 13,600円 |
| 700万円 | 17,400円 | 23,200円 |
(※)の除外にも注意が必要です。 この「除きます」はロの中に書かれているものではなく、Aの1文めの括弧書きです。(※)が、それがロにも効くことを念押ししています。効き方はこうなります。給与規程を後から改訂して通勤手当を増額し、その差額をまとめて支払った場合、もとの通勤手当の支給日が令和8年3月31日以前だった分の差額には、改正後の限度額は使えません。差額の支給日や改訂の効力発生日が令和8年4月1日以後であっても、「同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するもの」として除かれるためです。もとの支給日が4月1日以後だった分の差額なら、改正後の限度額が使えます。
なお、設例2(駅前の駐車場)は改正後も3,000円が課税されたままなので、課税されていた金額は年96,000円から36,000円に減るだけです。令和8年分なら51,000円です。満年度で減る税額は6,300円から16,400円、令和8年分なら5,000円から12,100円になります。
⑧ ふるさと納税の上限額は、わずかに下がる
ここは逆方向です。給与収入が下がると住民税の所得割額も下がるので、ふるさと納税の控除上限額は下がります。
ふるさと納税の上限額は、住民税の所得割額の2割を特例分で使い切る点として決まります。所得割額が下がれば、上限額も下がります。設例1で計算するとこうです。
| 通勤手当を除く給与 | 改正前の所得割額 | 満年度の所得割額 | 改正前の上限額 | 満年度の上限額 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 109,100円 | 103,200円 | 27,000円 | 26,000円 |
| 400万円 | 168,900円 | 162,200円 | 41,000円 | 40,000円 |
| 500万円 | 233,900円 | 227,200円 | 57,000円 | 55,000円 |
| 600万円 | 298,900円 | 292,200円 | 76,000円 | 75,000円 |
| 700万円 | 368,800円 | 361,200円 | 108,000円 | 105,000円 |
下がる額は1,000円から3,000円です。 減る税額(8,900円から23,200円)のほうがずっと大きいので、差し引きでは得ですが、前の年と同じ金額を寄附すると自己負担が出ることがあります。 通勤手当の課税部分が減った年は、上限額を計算し直してください。
あなたの上限額をその場で計算できますふるさと納税の控除上限額シミュレーター⑨ 扶養の判定では、税と社会保険で扱いが違う
パートで働く配偶者や、アルバイトをする子に通勤手当が出ている場合、同じ通勤手当が、税の判定には入らず、社会保険の判定には入ります。
| 判定に使う金額 | 非課税の通勤手当 | |
|---|---|---|
| 所得税(扶養親族・同一生計配偶者) | 合計所得金額62万円以下(給与収入だけなら136万円以下) | 入らない |
| 健康保険の被扶養者 | 年間収入130万円未満 | 入る |
130万円は全員に当てはまる線ではありません。 扶養認定日が令和7年10月1日以後で、扶養認定を受ける人(被保険者の配偶者を除く)が19歳以上23歳未満なら150万円未満です。
日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」。太字は引用者。同ページは、この変更前の要件を「年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)」としています。年齢は扶養認定日が属する年の12月31日時点で判定します。扶養認定日が令和7年10月1日以降で、扶養認定を受ける方が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く。)は、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わります。なお、この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。
つまりアルバイトをする大学生の子は、130万円ではなく150万円の線で見ます。 配偶者は19歳以上23歳未満であっても130万円のままです。
税の側は、非課税の通勤手当がそもそも給与等の収入金額に入りません。源泉徴収票の「支払金額」にも入りません。社会保険の側は、⑥で引いた日本年金機構の整理のとおり報酬に入り、被扶養者の認定で見る年間収入にも入ります。日本年金機構は、労働契約の内容で年間収入を判定する取扱いについて、「通勤手当有」などとなっていて手当の金額が不明確な場合は認定できないとしており、通勤手当の額も年間収入に算入して見ることを前提にしています。
この差は、通勤手当が大きい人ほど効きます。 片道70kmで年548,400円の通勤手当が出ていれば、配偶者の130万円の判定では、それだけで年間収入の42.2%を占めます(19歳以上23歳未満の子の150万円なら36.6%)。扶養と社会保険の壁の全体像は、扶養の壁は2026年に組み替わるで整理しています。
あなたの数字で確かめる手順
① 源泉徴収票の「支払金額」に通勤手当が入っていないかを見る
非課税の通勤手当は、源泉徴収票の「支払金額」に入りません。国税庁は「給与所得の源泉徴収票の『支払金額』欄には、非課税とされる部分の通勤手当の金額を除いた金額を記入してください」としています。裏を返せば、限度額を超えて課税された部分は「支払金額」に入っています。
給与明細のどの欄に出るかは勤務先の様式によります(法令上の定めはありません)。課税と非課税を分けて表示している明細なら、課税の側に通勤手当が入っているかどうかで分かります。
② 自分の区分の限度額を出す
片道の通勤距離から、①の表で1か月の限度額を読む
↓
駐車場代を負担しているなら、1か月当たりの料金相当額(上限5,000円)を足す
※勤務先の周辺か、通勤で使う駅・停留所などの周辺の駐車場だけ
※自宅付近は対象外。片道2km未満の人は足せない
↓
交通機関や有料道路も使っているなら、その合理的な運賃等の額も足す
※合計の上限は1か月150,000円
③ 支給額と比べる
限度額より支給額が小さければ、全額が非課税です。超えていれば、超えた額だけが毎月の課税支給額に乗っています。
④ 超えていた額が消えると、税がいくら減るかを出す
減る税額 ≒ 課税されていた通勤手当の年額 × 給与所得の減り方 ×(所得税率 × 1.021 + 10%)
給与所得の減り方は、給与収入が220万円超360万円以下なら70%、360万円超660万円以下なら80%、660万円超850万円以下なら90%です。所得税率は、課税所得を国税庁No.2260の速算表に当てはめて読みます。社会保険料は入れません。減らないからです。
式の 1.021 は、令和8年分では復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)です。令和9年1月1日以後に生ずる所得については復興特別所得税が1.1%に下がり、防衛特別所得税(所得税額の1%相当額)が併せてかかるので、合わせた倍率は1.021のままで、この式は使えます。
⑤ 令和8年分は、4月支給分からの月数で按分する
令和8年1月から3月までの支給分は改正前の限度額で計算されています。毎月支給なら、④で出した額の12分の9が令和8年分の目安です。 満年度で効くのは令和9年分からです。
⑥ ふるさと納税をしている人は、上限額を計算し直す
給与収入が下がるので、上限額も下がります。前の年と同じ金額で寄附すると、自己負担が増えることがあります。
まとめ
- 令和8年度税制改正で変わったのは2つだけ。 片道65km以上の4区分の新設(上限38,700円→66,400円)と、駐車場代の加算(上限5,000円)
- 片道65km未満の金額(4,200円から38,700円まで)は1円も動いていない。 交通機関だけで通勤する人の1か月15万円も変わらない
- ただし「動いていない」のは今回の改正に限った話。 令和7年11月19日公布の政令で、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当まで遡って片道10km以上の区分がすべて上がっていた(55km以上は31,600円→38,700円など)。据え置きが続いているのは片道2km以上10km未満の4,200円だけ。公布前に古い限度額で源泉徴収された分は令和7年分の年末調整で精算される建前で、漏れていれば還付申告できる(翌年1月1日から5年間)
- 駐車場代を足せるのは、勤務先の周辺か、通勤で使う駅・停留所などの周辺に駐める場合だけ。 自宅付近は対象外。片道2km未満の人は足せない。自転車・バイクの駐輪場は対象になる
- 判定するのは「駐車場代が5,000円を超えているか」ではなく「通勤手当の合計額が限度額を超えているか」。距離分が少なければ、駐車場代を全額もらっても全額非課税になることがある
- 84,000円が非課税になって、減る税金は8,900円から23,200円(通勤手当を除く給与300万円から700万円)。非課税になった額の10.6%から27.6%にとどまる
- 理由は2つ。給与所得控除も一緒に小さくなる(収入が84,000円減っても給与所得は58,800円から75,600円しか減らない)ことと、健康保険・厚生年金の保険料が1円も減らないこと
- 通勤手当は非課税の部分も含めて社会保険の「報酬」に入る。 日本年金機構は「通勤手当は報酬に含まれます」としている。税の非課税と社会保険料は別の話
- 令和8年分は4月支給分からの9か月分しか効かない。 基準は支給日で、何月分かではない(月末締め翌月払いなら3月分が4月の支給日に効く)。 設例1で課税される額は年84,000円から21,000円になり、満年度の0円には届かない
- ふるさと納税の上限額は1,000円から3,000円下がる。 減る税額のほうが大きいので差し引きでは得だが、前の年と同じ額を寄附すると自己負担が出ることがある
- 扶養の判定では、税には入らず社会保険には入る。 税は合計所得金額62万円以下(給与収入136万円以下)、社会保険は年間収入130万円未満で、同じ通勤手当の扱いが逆になる。社会保険の線は、19歳以上23歳未満の子(配偶者を除く)なら150万円未満、60歳以上・障害者なら180万円未満で、130万円は全員の線ではない