税金

16歳未満の子の扶養控除を戻す法案 ― 成立しても税法は変わりません

2026年10月20日、衆議院が1本の法律案を受理しました。件名は「就業者の租税及び社会保険料による負担の軽減のために講ずべき措置に関する法律案」。衆議院の議案審議経過情報によると、議案種類は衆法、提出回次は222、議案番号は1です。議案提出者は浅野哲議員ほか3名、提出会派は国民民主党・無所属クラブと記録されています。

同じ2026年10月20日に、政府が出した閣法第1号が衆議院財務金融委員会へ付託されています。 名前がよく似ていますが、別の法律案です。

そして、この衆法第1号の条文には、子育て世帯にまっすぐ効く1行が入っています。第二条第一項第三号と、第三条第一項第二号です。

扶養控除に係る控除対象扶養親族(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第三十四号の二に規定する控除対象扶養親族をいう。)に年齢十六歳未満の扶養親族を加えること。 衆法 第222回国会 第1号 第二条第一項第三号

いま、16歳未満の子には扶養控除がありません。この法案は、そこに16歳未満を加えると書いています。

結論

この法案は、税法を直接書き換える形になっていません。 措置を定めた条文は、どれも「…を実施するものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする」という形で終わっており、所得税法や地方税法の条文を改める規定は1つも置かれていません。したがって、成立しても扶養控除はその日から受けられるようになりません。所得税法と地方税法を改める別の法律が、あとから必要になります。

決まっているのは方針の書き方だけですが、その書き方は読めます。 控除の対象に16歳未満を加えること、所得税は令和9年分以後、住民税は令和10年度以後、という年の置き方までは条文に書いてあります。控除額をいくらにするかは書いてありません。

そして、同じ条文の中に、すでに満たされている要求が混ざっています。 基礎控除と給与所得控除の下限の合計額について書かれた号は、適用が始まる年の分についてはもう達成されており、実際に効くのはその次の年からです。読み方を間違えると、来年から何かが増えると受け取ってしまいます。

一方で、16歳未満の子はいまも税の手続きの中に登場しています。 控除は1つも付かないのに、毎年、勤務先に提出する紙に名前を書かされます。これには理由が2つあり、どちらも住民税の側にあります。

計算の前提

項目置いた条件
計算の対象衆法 第222回国会 第1号の条文に書かれている措置だけ。報道・解説は使っていない
扶養控除の額一般の控除対象扶養親族と同じ扱いになると置いた。所得税38万円、個人住民税33万円
住民税の所得割の税率標準税率。道府県民税4%+市町村民税6%=10%(指定都市は2%+8%で合計は同じ)
所得税の税率国税庁の速算表の7段階。限界税率で計算する
復興特別所得税・防衛特別所得税合計2.1%を所得税額に乗せる
調整控除合計課税所得金額が200万円を超え、調整控除が下限にとどまる世帯を前提にする(下で検算する)
端数処理税額の端数処理(所得税の年税額の100円未満切捨てなど)はしていない。制度の前後の差だけを見るため。表示上、円未満は四捨五入する
確認日2026年10月26日(③2次レビューで全件を一次情報に当て直した日)
金額と日数はすべて scripts/calc-16sai-miman-fuyo-koujo.py 2026-10-26 を実行して出力から転記しました。手計算はしていません(確認日は引数で渡します)。

① いまの法律は、扶養控除を16歳以上に限っている

扶養控除の条文は、控除額を「控除対象扶養親族一人につき」と書いています。

居住者が控除対象扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その控除対象扶養親族一人につき三十八万円(その者が特定扶養親族である場合には六十三万円とし、その者が老人扶養親族である場合には四十八万円とする。)を控除する。 所得税法第八十四条第一項

鍵は「控除対象扶養親族」の定義です。 所得税法第二条第一項第三十四号の二は、こう定めています。

控除対象扶養親族 扶養親族のうち、次に掲げる者の区分に応じそれぞれ次に定める者をいう。 イ 居住者 年齢十六歳以上の者 所得税法第二条第一項第三十四号の二

16歳未満の子は「扶養親族」ではあっても、「控除対象扶養親族」ではありません。 扶養親族の定義(同項第三十四号)は、生計を一にすることと合計所得金額の要件だけで、年齢に触れていません。年齢の線は、控除対象扶養親族のところで引かれています。

個人住民税も同じ構造です。地方税法第三十四条第一項第十一号(道府県民税)と第三百十四条の二第一項第十一号(市町村民税)が、控除額と範囲を1つの号の中に書いています。

控除対象扶養親族(扶養親族のうち、次に掲げる者の区分に応じそれぞれ次に定める者をいう。…)を有する所得割の納税義務者 各控除対象扶養親族につき三十三万円(その者が特定扶養親族…である場合には四十五万円、その者が老人扶養親族…である場合には三十八万円) イ 所得税法第二条第一項第三号に規定する居住者 年齢十六歳以上の者 地方税法第三百十四条の二第一項第十一号

つまり所得税も住民税も、16歳未満の子については控除額が0円です。

② それでも16歳未満の子を申告させている ― 理由は2つある

控除が0円なら、申告する必要もないはずです。ところが毎年、勤務先に出す「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の下の方に、16歳未満の子の名前を書く欄があります。

理由は2つあり、どちらも住民税の側にあります。

1つめ ― 所得割の非課税限度額の人数に入っている

地方税法附則第三条の三は、所得割を課さない所得の水準を定めています。その人数の数え方に、括弧書きが付いています。

三十五万円にその者の同一生計配偶者及び扶養親族(年齢十六歳未満の者及び第三十四条第一項第十一号に規定する控除対象扶養親族に限る。以下この項及び次項において同じ。)の数に一を加えた数を乗じて得た金額に十万円を加算した金額(その者が同一生計配偶者又は扶養親族を有する場合には、当該金額に三十二万円を加算した金額)以下である者 地方税法附則第三条の三第一項(市町村民税は同条第四項に同じ定め)

括弧書きが「年齢十六歳未満の者及び…控除対象扶養親族に限る」と書いているので、16歳未満の子はこの人数に入ります。 控除額は0円でも、非課税のラインを上げる働きはしています。

同一生計配偶者+扶養親族の数所得割が課されない総所得金額等の合計額
0人45万円以下
1人112万円以下
2人147万円以下
3人182万円以下
35万円×(人数+1)+10万円に、扶養がいる場合の32万円を加えた金額。0人のときだけ32万円の加算が付かないので、0人と1人のあいだで67万円開きます。この表の見出しは「合計所得金額」ではありません。 条文が比べているのは「第三百十三条の規定により算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額」で、純損失・雑損失の繰越控除をした後の額です。一方、地方税法が「合計所得金額」と呼ぶのは同条第八項・第九項(繰越控除)による控除前の額(第二百九十二条第一項第十三号)で、繰越す損失がある人では一致しません。

2つめ ― 住民税の申告書の記載事項が、年齢で絞られていない

所得税の扶養控除等申告書の記載事項は、所得税法第百九十四条第一項の第一号から第八号に並んでいます。源泉控除対象配偶者、源泉控除対象親族、そして障害者である同一生計配偶者又は扶養親族などです。障害のない16歳未満の子は、どの号にも出てきません。

第八号は「その他財務省令で定める事項」なので、そこに16歳未満の子が入っていないかも確かめました。受け皿である所得税法施行規則第七十三条第一項の列挙は7号あり、申告者本人の氏名・住所・個人番号(第一号)、源泉控除対象配偶者(第二号)、源泉控除対象親族(第三号)、障害者である同一生計配偶者又は扶養親族(第四号)、他の居住者の控除対象配偶者等との重複(第五号)、従たる給与の申告書を提出した旨(第六号)、その他参考となるべき事項(第七号)です。第一号から第七号まで1つずつ当てても、障害のない16歳未満の扶養親族を挙げた号はありません。

ところが住民税の側は違います。

三 扶養親族又は特定親族の氏名 地方税法第三百十七条の三の二第一項第三号(道府県民税は第四十五条の三の二第一項第三号に同じ定め)

「控除対象扶養親族」ではなく「扶養親族」です。 年齢で絞られていないので、16歳未満の子も記載事項に入ります。国税庁の様式も、裏面でそう案内しています。いま配られている令和9年分の様式から引きます。

⑾「住民税に関する事項」欄は、①扶養親族のうち年齢16 歳未満の人を有する場合及び②退職手当等…の支払を受ける配偶者…、扶養親族又は特定親族を有する場合並びに③寡婦又はひとり親に該当する場合…に記載してください 国税庁「令和9年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」裏面「2 記載についてのご注意」⑾(令和8年分の様式も同じ文)

毎年あの欄を書かされているのは、住民税がこの2つで16歳未満の子を使っているからです。 控除のために書いているのではありません。

③ 法案が加えるもの ― 所得税は令和9年分、住民税は令和10年度

法案は、この年齢の線に16歳未満を加えると書いています。所得税と住民税で、始まる年が違います。

条文対象適用
第二条第一項第三号所得税の扶養控除令和9年分以後の所得税
第三条第一項第二号個人住民税の扶養控除令和10年度以後の年度分の個人住民税の所得割

住民税は前年の所得に対して翌年度に課されるので、令和9年分の所得に対する住民税は令和10年度分です。 この2つは、同じ年の所得についての話として揃っています。所得税と住民税で適用年がずれているように見えますが、ずれていません。

条文の柱書きはそれぞれ「令和九年分以後の所得税について」(第二条第一項)、「令和十年度以後の年度分の個人住民税の所得割について」(第三条第一項)です。

ただし、控除額は書かれていません。 条文は「年齢十六歳未満の扶養親族を加えること」とだけ述べており、一般の控除対象扶養親族と同じ額にするのか、別の額を置くのかは書いていません。以下の計算は、同じ額になると置いた場合の数字です。

④ 子1人あたり、いくらの話になるのか

16歳未満の子1人が一般の控除対象扶養親族と同じ扱いになると置くと、所得税は38万円、住民税は33万円の所得控除が増えます。

住民税の所得割は標準税率が10%です(道府県民税4%、市町村民税6%。指定都市では2%と8%ですが合計は同じ)。したがって住民税は、限界税率に関係なく33万円×10%で年33,000円です。

所得税は限界税率で変わります。復興特別所得税と防衛特別所得税の合計2.1%を乗せると、こうなります。

所得税の限界税率所得税復興+防衛(2.1%)住民税合計
5%19,000円399円33,000円52,399円
10%38,000円798円33,000円71,798円
20%76,000円1,596円33,000円110,596円
23%87,400円1,835円33,000円122,235円
33%125,400円2,633円33,000円161,033円
40%152,000円3,192円33,000円188,192円
45%171,000円3,591円33,000円207,591円
スクリプトの出力から転記。復興+防衛と合計の列は円未満を四捨五入して示しました(四捨五入の前でも、各行の3つの数字の和は合計の列と一致します)。国税庁タックスアンサーNo.2260は、復興特別所得税を「原則としてその年分の基準所得税額の2.1パーセント」とし、令和8年度税制改正で防衛特別所得税が創設され復興特別所得税の税率が引き下げられたが「改正前と改正後とで、防衛特別所得税及び復興特別所得税の合計税率に変更はありません」としています。

住民税の33,000円は、所得税の限界税率に関係なく同じです。 変わるのは所得税の側だけです。所得が低い世帯ほど、合計額のうち住民税が占める割合が大きくなります。

調整控除は動くか

住民税には調整控除があり、人的控除の額が所得税と住民税で違うことを埋める仕組みです。扶養控除が1人増えると、調整控除の計算に使う加算額も1人5万円増えます。

(8)控除対象扶養親族(同居直系尊属である老人扶養親族を除く。)を有する所得割の納税義務者 (i)(ii)及び(iii)に掲げる場合以外の場合 当該控除対象扶養親族一人につき五万円 地方税法第三百十四条の六第一項第一号イの表(道府県民税は第三十七条に同じ定め)

ただし合計課税所得金額が200万円を超える世帯では、調整控除は次の式になります。

イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額(当該金額が五万円を下回る場合には、五万円とする。)の百分の三…に相当する金額 地方税法第三百十四条の六第一項第二号

つまり「5万円+加算額 −(合計課税所得金額 − 200万円)」が5万円を下回れば、5万円で止まります。合計課税所得金額が200万円を十分に超えていれば、扶養控除が1人増えても調整控除は下限のままです。

合計課税所得金額加算額改正前改正後差
200万円5万円5,000円7,500円+2,500円
300万円5万円2,500円2,500円0円
300万円10万円2,500円2,500円0円
500万円15万円2,500円2,500円0円
スクリプトの出力から転記。道府県民税2%と市町村民税3%の合計5%で計算しています。合計課税所得金額が200万円以下の世帯では、上の表の減税額に調整控除の増加分が加わります。 上の④の表は、下限にとどまる世帯の数字です。

⑤ 「178万円」の条文は、令和9年分にはすでに満たされている

法案には、扶養控除とは別に、基礎控除についての号が入っています。

一 基礎控除の最高控除額及び給与所得控除の最低控除額の合計額が百七十八万円を下回ることがないようにすること。 衆法 第222回国会 第1号 第二条第一項第一号

この号の適用は、柱書きにより令和9年分以後の所得税です。 そこで、令和9年分の実際の額で検算しました。

年分基礎控除の最高給与所得控除の最低合計178万円との差
令和8年分・令和9年分104万円74万円178万円0円
令和10年分以後99万円69万円168万円△10万円
国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」1ページの基礎控除額の表と給与所得控除額の表から。表はセルが縦に結合されているため page.find_tables() でセル構造を復元して読みました。改正後の令和8・9年分の基礎控除は合計所得金額489万円以下で104万円、令和10年分以後は132万円以下で99万円です。給与所得控除の最低控除額は令和8・9年分が74万円、令和10年分以後は「その収入金額×30%+8万円(69万円未満となる場合は 69万円)」で69万円です。

令和9年分は、ちょうど178万円です。 基礎控除104万円と給与所得控除74万円の合計で、すでに「178万円を下回らない」状態にあります。したがってこの号は、令和9年分については何も変えません。

実際に効いてくるのは令和10年分以後です。 令和10年分以後は合計168万円になり、178万円を10万円下回ります。この号は、令和8・9年分に限られている上乗せを、令和10年分以後も続けさせる要求として読むのが正確です。

給与所得控除の最低保障額について、財務省の資料は「令和7年分:65万円/令和8年分以後:69万円(令和8・9年分に限り、特例により5万円加算)」としています。69万円+5万円=74万円が令和8・9年分の額です。

「178万円まで上がる」という話ではありません。 178万円はもう来ています。この号が守ろうとしているのは、2年後に下がることです。

⑥ 住民税の178万円は、基礎控除を61万円上げることを意味する

住民税の側は、書き方が違います。「下回ることがないように」ではなく、「178万円となるように、基礎控除の最高控除額を引き上げる」です。

一 基礎控除の最高控除額及び給与所得控除の最低控除額の合計額が百七十八万円となるように、基礎控除の最高控除額を引き上げること。 衆法 第222回国会 第1号 第三条第一項第一号

住民税の所得の計算は、所得税の計算の例によります。

前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による…計算の例により算定するものとする。 地方税法第三十二条第二項

つまり給与所得控除の最低控除額は、住民税でも所得税と同じ額です。 実際、令和8年度の地方税法の改正法(令和8年法律第2号、226ページ)を全文検索すると、「給与所得」という語が1度も出てきません。 住民税の給与所得控除は、所得税の側の改正がそのまま流れてきた結果であって、地方税法が独自に額を置いているわけではありません。

総務省も、年度の対応をこう書いています。

(ア) 給与所得控除について、65万円の最低保障額を69万円に引き上げること。 (イ) 令和9年度分及び令和10年度分の個人住民税に係る給与所得控除の最低保障額について、(ア)に加え、5万円引き上げること。 総務省「令和8年度地方税制改正・地方税務行政の運営に当たっての留意事項等について」別紙 第一 1(1)① ア

したがって74万円は令和9年度分と令和10年度分、69万円は令和11年度分以後です。 所得の年分でいえば、令和9年分までが74万円、令和10年分以後が69万円で、所得税と同じ動きをします。

この事務連絡は改正法の成立前(令和8年1月21日)のもので、「改正予定事項」として書かれています。額そのものは成立後の資料で確かめました。 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」(令和8年4月1日現在の法令等)が、給与所得控除の最低控除額を令和8・9年分74万円、令和10年分以後69万円としています。

一方、住民税の基礎控除は最高43万円です(財務省「人的控除の種類および概要」)。差を埋める額を計算すると、こうなります。

年度分(もとになる所得の年分)給与所得控除の最低必要な基礎控除引上げ幅所得割10%での効果
令和10年度分(令和9年分)74万円104万円61万円61,000円
令和11年度分以後(令和10年分以後)69万円109万円66万円66,000円
スクリプトの出力から転記。178万円から給与所得控除の最低控除額を引いた額が、法案が求める基礎控除です。いまの43万円との差が引上げ幅になります。

条文は基礎控除の額そのものを書いていないので、必要な引上げ幅は、その年の給与所得控除の最低控除額によって変わります。 令和8・9年分の5万円の上乗せがなくなる年から、必要額は5万円増えます。

そして条文は、住民税の基礎控除に付いている逓減の仕組みにも、調整控除にも触れていません。 「最高控除額」を引き上げると書いているだけです。合計所得金額が高い人の基礎控除をどう扱うかは、書かれていません。

⑦ 給付の条文は、本則と先行分で対象者が違う

第四条は給付の制度を置くとしています。本則(第一項)の対象者は、2つの要件の両方に当たる人です。

一 租税・社会保険料負担軽減給付の対象者は、次のいずれにも該当する者(次号において「対象就業者」という。)とすること。 イ 就業により基準額(最低賃金で雇用される労働者が一週間当たり十時間の労働によって一年間に受ける賃金の合計額を基本として定める額をいう。)以上の収入を得る者のうち社会保険料を納付する者 ロ 一年間の収入額が課税最低限(個人住民税の所得割を課されることとなる収入水準の下限をいう。…)未満である者 衆法 第222回国会 第1号 第四条第一項第一号

「次のいずれにも該当する者」なので、イとロの両方です。 基準額以上の収入があって社会保険料を納めていて、しかも収入が住民税の所得割の課税最低限に届かない人、という狭い範囲です。

ところが、同じ条の第四項が置く令和9年度の先行給付金は、引いている号が違います。

4 …次に掲げる事項を基本方針として、令和八年の収入額に基づいて令和九年度において給付金を支給するものとし… 一 給付金の支給の対象者は、第一項第一号イに掲げる者とすること。 衆法 第222回国会 第1号 第四条第四項

引いているのは「イ」だけです。 ロの収入上限が入っていません。収入が課税最低限未満かどうかは、対象になるかどうかではなく、額の決め方に使われています。

二 給付金の額は、基本軽減額に相当する額(給付金の支給の対象者の収入額が課税最低限未満である場合にあっては、当該対象者が一年間に納付する社会保険料の合計額に相当する額)を基本としつつ… 衆法 第222回国会 第1号 第四条第四項第二号

つまり令和9年度の先行給付金は、本則より対象が広く読めます。 本則は「イかつロ」、先行分は「イ」だけです。

そして先行給付金の基準になるのは、令和8年の収入額です。いま進んでいる年の収入が使われます。

基準額も給付の額も、条文には金額がありません。基準額は「最低賃金で…一週間当たり十時間の労働によって一年間に受ける賃金の合計額を基本として定める額」という決め方だけが書かれているので、最低賃金が動けば入口も動きます。 最低賃金と扶養の線の関係は「最低賃金が上がると、扶養内で働ける時間は月4〜7時間減る」に書いています。

受け取る口座についても書いてある

第四条第三項は、給付の実務について2つを名指ししています。

政府は、第一項の措置を講ずるに当たっては、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和三年法律第三十八号)第三条第四項に規定する公的給付支給等口座登録者の数を増加させるための取組を推進するとともに、資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第三条第一項に規定する前払式支払手段等を活用した給付を可能とすることにより、地方公共団体の事務負担を軽減するものとする。 衆法 第222回国会 第1号 第四条第三項

公金受取口座の登録者を増やすことと、前払式支払手段(いわゆるプリペイド)を使えるようにすることです。 公金受取口座の登録そのものについては「公金受取口座を登録していないと、2027年秋の給付は申請が必要になる」に書いています。

⑧ この法案は、税法を書き換える法案ではない

ここまで条文を引いてきて、形式に気づいた方もいると思います。措置を定めた第二条から第四条までが、どれも「政府は、このために必要な法制上の措置(その他の措置)を講ずるものとする」で終わっています。 第五条だけは結びが違いますが、そちらも「所要の措置を講ずる」であって、税法を改める規定ではありません。

条中身結び
第二条所得税(178万円、基礎控除の差異、16歳未満の扶養控除)実施するものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする
第三条個人住民税(178万円、16歳未満の扶養控除)同じ
第四条給付(本則と令和9年度の先行分)同じ(「その他の措置」が加わる)
第五条継続的な検討不断に検討を行い…所要の措置を講ずるものとする

所得税法や地方税法の条文を改める規定は、1つもありません。 新旧対照表も付いていません(衆議院で照会できるのは「提出時法律案」と「要綱」の2つだけです)。この法案が求めているのは、政府が税法の改正案を作ることです。

この法律は、公布の日から施行する。 衆法 第222回国会 第1号 附則第一項

公布の日から施行されるのは、この義務の方です。 控除ではありません。

附則には、もう1つ別の検討項目が入っています。

2 政府は、令和十年度末までに、賃金水準の上昇を伴う経済成長等を図るため、法人税及び消費税の抜本的な改革について検討を加え、その結果に基づき、必要な法制上の措置を講ずるものとする。 衆法 第222回国会 第1号 附則第二項

法人税と消費税の「抜本的な改革」という言葉が入っています。 中身は書かれていません。期限だけが令和10年度末と置かれています。

⑨ 工程はどこまで進んでいるか

2026年10月26日の時点で、衆議院の議案審議経過情報はこうなっています。

項目衆法第1号閣法第1号
衆議院議案受理年月日令和8年10月20日令和8年10月9日
参議院予備審査議案受理年月日令和8年10月21日令和8年10月9日
衆議院付託年月日/付託委員会空欄令和8年10月20日/財務金融
衆議院審査終了年月日/審査結果空欄空欄
公布年月日/法律番号空欄空欄

衆法第1号は、まだどの委員会にも付託されていません。 付託は審議の入口なので、審議にも入っていないことになります。

衆議院のこのページは、空欄が2つの意味を持つと自分で断っています。 議案審議経過情報の注記は「下記の表で内容がない箇所は、現時点で情報が未定のもの、もしくは情報がないことが確定したものです」です。議案の一覧の注記も「審議状況欄に『衆議院(参議院)で審議中』とあるのは、議案が両院のどちらにあるかを示すもので、現在、実際に、委員会・本会議で議題となっているものであるとは限りません」としています。空欄を「まだ行われていない」と読み切らないでください。 実際、閣法第1号の付託の欄は1日で埋まりました。

第222回国会(臨時会)は令和8年10月5日に召集され、衆議院は「会期:12月12日までの69日間」と告知しています。受理の日(令和8年10月20日)から当初会期の終了日までは53日、確認日(2026年10月26日)からは47日です。 所得税の適用が始まる令和9年1月1日までは67日です。

日数はスクリプトの出力から転記しました。数え方は後の日から前の日を引いた差(両端を含まない経過日数)です。会期の延長があるかどうかは、一次情報に予定がないので書けません。

議案提出者は、内閣ではなく議員です。 衆議院の記録では、提出者4名と賛成者24名の氏名が並んでいます。成立の見通しは、一次情報に予定が無いので書けません。

あなたの数字で確かめる手順

① 自分の家に16歳未満の子が何人いるか数える

判定は年末時点の年齢です。扶養控除の年齢区分は、その年の12月31日現在で判定されます(国税庁タックスアンサーNo.1180の注1)。令和9年中に16歳になる子は、令和9年分では控除対象扶養親族なので、この法案の対象外です。

② 去年の源泉徴収票で限界税率を調べる

源泉徴収票の給与所得控除後の金額から、所得控除の額の合計額を引くと、課税される所得金額のおよその額が出ます。そこに国税庁の速算表を当てると、自分の限界税率が分かります。

③ 子の人数を掛ける

④の表から自分の限界税率の行を読み、子の人数を掛けます。たとえば限界税率10%で16歳未満の子が2人なら、71,798円×2=143,596円です。

ただし控除が増えて課税される所得金額が下がり、速算表の段が1つ下がる場合は、この掛け算では出ません。段の境目に近い方は、控除後の課税所得で税額を2回計算して差を取ってください。

④ 住民税だけ先に確かめる

住民税は限界税率に関係なく、子1人あたり33,000円です(合計課税所得金額が200万円を超える世帯)。所得税の計算が面倒なら、ここだけ見れば下限が分かります。

⑤ 進み具合を自分で見る窓口

見るものURL
衆議院「議案審議経過情報」衆法 第222回国会 1shugiin.go.jp の議案情報から「経過」
衆議院「第222回国会 議案の一覧」衆法・参法・閣法が種類別に並ぶ
衆議院トップページ召集日と会期の告知が出る
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まとめ

  • 2026年10月20日、衆議院が衆法第1号「就業者の租税及び社会保険料による負担の軽減のために講ずべき措置に関する法律案」を受理した。 議案提出者は浅野哲議員ほか3名、提出会派は国民民主党・無所属クラブ。同じ日に、政府提出の閣法第1号が衆議院財務金融委員会へ付託されている。名前は似ているが別の法律案
  • 条文の第二条第一項第三号と第三条第一項第二号に、扶養控除の控除対象扶養親族に「年齢十六歳未満の扶養親族を加えること」が入っている。 所得税は令和9年分以後、個人住民税は令和10年度以後。令和9年分の所得に対する住民税は令和10年度分なので、2つは同じ年の所得について揃っている
  • いまの法律は、扶養控除を16歳以上に限っている。 所得税法第二条第一項第三十四号の二イと、地方税法第三十四条第一項第十一号イ・第三百十四条の二第一項第十一号イが、居住者について「年齢十六歳以上の者」としている。16歳未満の子は「扶養親族」ではあるが「控除対象扶養親族」ではなく、控除額は0円
  • それでも16歳未満の子を申告させている理由は2つあり、どちらも住民税側にある。 ①所得割の非課税限度額の人数に入っている(地方税法附則第三条の三の括弧書きが「年齢十六歳未満の者及び…控除対象扶養親族に限る」としている)、②住民税の扶養親族等申告書の記載事項が「扶養親族」で年齢を絞っていない(地方税法第三百十七条の三の二第一項第三号)
  • 一般の控除対象扶養親族と同じ扱いになると置くと、控除額は所得税38万円・住民税33万円。 住民税は標準税率10%なので子1人あたり年33,000円で、所得の高さに関係しない。所得税は復興特別所得税・防衛特別所得税の2.1%を含めて、限界税率5%で19,399円、10%で38,798円、20%で77,596円。合計は順に52,399円、71,798円、110,596円
  • ただし控除額は条文に書かれていない。 「年齢十六歳未満の扶養親族を加えること」とだけあり、一般の控除対象扶養親族と同じ額にするとは書いていない
  • 「178万円」の号(第二条第一項第一号)は、令和9年分についてはすでに満たされている。 基礎控除の最高104万円+給与所得控除の最低74万円=178万円でちょうど届いている。令和10年分以後は99万円+69万円=168万円で10万円下回るので、実際に効くのは令和10年分以後。「178万円まで上がる」話ではなく、2年後に下がるのを止める要求として読むのが正確
  • 住民税の178万円(第三条第一項第一号)は、基礎控除を43万円から引き上げることを意味する。 令和10年度分(令和9年分の所得)なら104万円で61万円の引上げ、令和11年度分以後なら109万円で66万円の引上げ。所得割10%なら61,000円・66,000円。条文は逓減の仕組みにも調整控除にも触れていない
  • 給付の条文は、本則と先行分で対象者が違う。 本則(第四条第一項第一号)は「イとロのいずれにも該当する者」だが、令和9年度の先行給付金(同条第四項第一号)は「イ」だけを引いており、ロの収入上限が外れている。先行分の基準になるのは令和8年の収入額。基準額も給付の額も、条文には金額がない
  • この法案は、税法を書き換える法案ではない。 措置を定めた第二条から第五条までが、どれも「政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする」に類する形で終わり、所得税法・地方税法を改める規定は1つもない(新旧対照表も無く、衆議院で照会できるのは「提出時法律案」と「要綱」の2つだけ)。附則第一項の「公布の日から施行する」が施行するのは、この義務の方である。附則第二項には、法人税及び消費税の抜本的な改革を令和10年度末までに検討することも入っている
  • 2026年10月26日の時点で、衆法第1号はどの委員会にも付託されていない。 受理の日から当初会期の終了日(令和8年12月12日)までは53日、確認日からは47日。議案提出者は内閣ではなく議員で、記録には提出者4名と賛成者24名の氏名が並ぶ。成立の見通しは一次情報に予定が無いので書けない

よくある質問

いまの法律では、16歳未満の子に扶養控除がないのですか。

ありません。所得税の扶養控除は「控除対象扶養親族」を持つ人に適用されますが、所得税法第二条第一項第三十四号の二は、控除対象扶養親族を「扶養親族のうち」の一定の者とし、居住者については「年齢十六歳以上の者」と定めています。16歳未満の子は、合計所得金額の要件を満たせば「扶養親族」には当たりますが、「控除対象扶養親族」には当たりません。国税庁のタックスアンサーNo.1180も、注1で「『控除対象扶養親族』とは、扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人をいいます」としています。個人住民税も同じで、地方税法第三十四条第一項第十一号と第三百十四条の二第一項第十一号が、控除対象扶養親族の範囲を居住者については「年齢十六歳以上の者」としています。つまり所得税も住民税も、16歳未満の子については控除額が0円です。

控除がないのに、なぜ扶養控除等申告書に16歳未満の子を書かせられるのですか。

住民税の側で使うからです。理由は2つあります。1つは所得割の非課税限度額です。地方税法附則第三条の三第一項と第四項は、非課税の判定に使う人数を「同一生計配偶者及び扶養親族(年齢十六歳未満の者及び…控除対象扶養親族に限る。)の数に一を加えた数」としており、16歳未満の子はこの人数に入ります。控除額は0円でも、非課税のラインを上げる働きはしています。もう1つは申告義務です。地方税法第三百十七条の三の二第一項第三号が、住民税に係る給与所得者の扶養親族等申告書の記載事項を「扶養親族又は特定親族の氏名」としています。ここは「控除対象扶養親族」ではなく「扶養親族」なので、年齢で絞られていません。国税庁の令和9年分の扶養控除等申告書の裏面も、⑾で「『住民税に関する事項』欄は、①扶養親族のうち年齢16 歳未満の人を有する場合…に記載してください」としています(令和8年分の様式も同じ文です)。

この法案が成立すると、来年から扶養控除が受けられるのですか。

そうはなりません。この法案は税法を直接書き換える形になっていないからです。第二条から第四条までのすべての条文が「…を実施するものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする」という形で終わっており、所得税法や地方税法の条文を改める規定は1つも置かれていません。つまり、この法案が成立したあとに、所得税法と地方税法を改正する別の法律が必要になります。附則第一項は「この法律は、公布の日から施行する」としていますが、施行されるのは「政府が措置を講ずる義務」であって、控除そのものではありません。また2026年10月26日の時点で、この法案は衆議院のどの委員会にも付託されていません。衆議院の議案審議経過情報は、衆議院議案受理年月日を令和8年10月20日と記録していますが、衆議院付託年月日と付託委員会の欄は空欄です。

仮に16歳未満の子が扶養控除の対象になったら、1人あたりいくら変わりますか。

一般の控除対象扶養親族と同じ扱いになるなら、控除額は所得税が38万円、個人住民税が33万円です。所得税は所得税法第八十四条第一項、住民税は地方税法第三十四条第一項第十一号と第三百十四条の二第一項第十一号の額です。住民税の所得割は標準税率が10%(道府県民税4%+市町村民税6%)なので、33万円×10%で年33,000円になります。所得税は限界税率によって変わり、復興特別所得税と防衛特別所得税の合計2.1%を乗せると、税率5%なら19,399円、10%なら38,798円、20%なら77,596円です。住民税と合わせると、順に52,399円、71,798円、110,596円になります。ただしこれは子1人あたりで、控除が増えることで限界税率の段が下がる場合や、合計課税所得金額が200万円以下で調整控除が動く場合は、これと一致しません。

法案に出てくる「178万円」は何の数字ですか。

基礎控除の最高控除額と、給与所得控除の最低控除額の合計額です。第二条第一項第一号は、令和9年分以後の所得税について、この合計額が「百七十八万円を下回ることがないようにすること」としています。ここで注意が要るのは、令和9年分についてはすでに178万円に達しているということです。国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」1ページによると、改正後の令和8年分・令和9年分の基礎控除は合計所得金額489万円以下で104万円、給与所得控除の最低控除額は74万円です。足すとちょうど178万円になります。一方、令和10年分以後は基礎控除が99万円、給与所得控除の最低控除額が69万円で、合計168万円です。178万円を10万円下回ります。つまりこの号が実際に効いてくるのは令和10年分以後で、令和8・9年分に限られている上乗せを続ける意味になります。

給付の条文もあると聞きました。令和9年度の給付金は誰が対象ですか。

第四条第四項が、令和8年の収入額に基づいて令和9年度に給付金を支給するものとしています。対象者は「第一項第一号イに掲げる者」で、イは「就業により基準額(最低賃金で雇用される労働者が一週間当たり十時間の労働によって一年間に受ける賃金の合計額を基本として定める額をいう。)以上の収入を得る者のうち社会保険料を納付する者」です。ここは読み落としやすいところです。本則である第一項の対象者は、イと、ロ(一年間の収入額が課税最低限未満である者)の「いずれにも該当する者」ですが、令和9年度の先行給付金はイだけを引いていて、ロの収入上限が外れています。収入が課税最低限未満かどうかは、対象になるかではなく額の決め方(基本軽減額か、納付した社会保険料の合計額か)に使われています。なお基準額も給付の額も、条文には金額が書かれていません。

政府が出している法律案とは別のものですか。

別です。いま第222回国会には、政府が提出した閣法第1号「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」があり、こちらは2026年10月9日に閣議決定・提出され、2026年10月20日に衆議院財務金融委員会へ付託されています。この記事が扱う衆法第1号「就業者の租税及び社会保険料による負担の軽減のために講ずべき措置に関する法律案」は議員提出の法律案で、衆議院の議案審議経過情報によると議案提出者は浅野哲議員ほか3名、提出会派は国民民主党・無所属クラブです。名前が似ていますが、閣法第1号は消費税率と支援金を定める条文そのものを置く法律案、衆法第1号は所得税・住民税・給付の方針を定めて政府に法制上の措置を求める法律案です。扶養控除に触れているのは後者だけです。

出典

制度の内容は改正されることがあります。判断の際は必ず出典元の最新情報をご確認ください。