税金(教育費)

国民年金の育児免除が始まった ― 免除額と、手取りで残る額は違う

2026年10月1日、国民年金第1号被保険者の育児免除制度が始まりました。自営業・農業・フリーランス・学生・無職など、会社員でない人が自分で国民年金保険料を納めている場合に、子が1歳になるまでの保険料が、所得に関係なく免除される制度です。令和8年度の保険料は月17,920円です。

日本年金機構のページは2026年10月1日付で更新され、「2026(令和8)年10月から新たに始まりました」と過去形になっています。一方、同じ制度を説明する厚生労働省のページは、2026年10月24日に見た時点でも「2026年10月1日から、…始まります」と、これから始まるかのような書き方のままです。制度を決めた側と、実際に動かしている側で、文がそろっていません。

そして2026年10月23日から、令和8年分の社会保険料(国民年金保険料)控除証明書が順次届きます。この記事が扱うのは、その2つが重なるところです。

結論

免除されるのは保険料の納付義務です。払わなくなった保険料は、払っていないので社会保険料控除に入りません。 社会保険料控除は、支払った金額を所得から引く制度だからです。

したがって免除を受けると、課税所得が免除された額だけ増え、所得税と住民税が増えます。 家計に残るのは、免除額から、その増えた税を引いた残りです。所得要件のない制度なのに、手取りで残る割合は、その人の所得税の税率で変わります。 税率が高い人ほど、残る割合は小さくなります。

一方、将来の老齢基礎年金は減りません。 免除された期間は、法律の上で「保険料納付済期間」に入るからです。所得が低い人向けの申請免除とは、ここが決定的に違います。すでに申請免除を受けていた人にとっては、現金の負担は変わらないまま、将来の年金だけが増える改正になります。

効く時期もずれます。所得税は令和8年分、住民税は令和9年度分です。そしていま届く控除証明書の「見込額」は、免除の届出をする前の納付方法で計算された見込みなので、届出をした人はそのまま書き写せません。

計算の前提

項目条件
保険料の額1か月17,920円(令和8年度)。日本年金機構「国民年金保険料」とリーフレットの実数
免除される月数国民年金法88条の3の定めから数える。実父・養父母は最大12か月、産前産後免除を受けた実母は産前産後(単胎4か月)に続く9か月
所得税の税率所得税法89条1項の7段(5%・10%・20%・23%・33%・40%・45%)。どの段にいるかは課税総所得金額で決まるので、年収ではなく段ごとに計算する
上乗せ所得税額に102.1%を掛ける(復興特別所得税2.1%。令和9年分以後は防衛特別所得税1%+復興特別所得税1.1%で合計は同じ)
住民税所得割の標準税率。道府県民税4%+市町村民税6%=10%(地方税法35条1項・314条の3第1項。指定都市は2%+8%で合計は同じ)
税が増える前提免除額を課税所得に足しても所得税の税率の段が変わらないものとする。段をまたぐ人は、またいだ部分だけ高い率になる
年金額老齢基礎年金の満額は令和8年度の年額847,300円(月額70,608円。昭和31年4月2日以後生まれ)。480月で割って1か月あたりを出す
他の控除配偶者控除・扶養控除・生命保険料控除・iDeCo・医療費控除などは、免除の前後で動かないものとする
端数増える税の額は円未満を四捨五入して表に載せた。実際の所得税額は100円未満切捨て、住民税の所得割は道府県民税と市町村民税で別々に100円未満切捨てなので、1件ごとに数百円の差が出る
月数と保険料の額、税率、満額は公式資料の実数です。「所得税の税率の段」は条文の区分そのもので、特定の誰かの年収を置いた設例ではありません。計算は scripts/calc-kokunen-ikuji-menjo.py で行い、その出力を転記しました。

① 免除される期間は、父と母で違う

制度の中身は、国民年金法88条の3が定めています。父と母で条文の項が分かれています。

まず、産前産後免除(88条の2)を受けた実母の場合です。

前条の規定の適用を受けた被保険者が同条の出産に係る子を養育する場合においては、当該被保険者は、当該出産予定日から起算して三月を経過した日の属する月から当該出産予定日から起算して十二月を経過した日(略)が属する月の前月までの期間(略)に係る保険料は、納付することを要しない。

国民年金法88条の3第1項。

次に、それ以外の人(実父・養父母と、産前産後免除を受けていない実母)です。

被保険者(前項に規定する被保険者を除く。)は、その子(略)を養育することとなつた日の属する月から当該子が一歳に達する日(略)の翌日が属する月の前月までの期間(略)に係る保険料は、納付することを要しない。

国民年金法88条の3第2項。

日本年金機構が挙げている設例を、この条文で数え直すと次のようになります。

誰か設例免除される月月数
実母(産前産後免除あり)出産予定日が令和9年5月1日令和9年8月〜令和10年4月9か月
実父(養父母も同じ)出産日が令和9年5月1日令和9年5月〜令和10年4月12か月
施行前から養育している実父(養父母も同じ)出産日が令和8年1月1日令和8年10月〜令和8年12月3か月
施行前から養育している実母(産前産後免除あり)出産日が令和8年1月1日令和8年10月〜令和8年12月3か月
日本年金機構「国民年金保険料の育児免除制度」3.の設例4つを全部並べた。月数はスクリプトで数え直して一致を確認した。1項の「出産予定日から起算して三月を経過した日」は令和9年8月1日、「十二月を経過した日」は令和10年5月1日なので、その属する月の前月は令和10年4月。2項の「一歳に達する日」は令和10年4月30日で、その翌日は令和10年5月1日なので、やはり前月は令和10年4月になる。

実母のほうが短いように見えますが、産前産後免除と合わせると長くなります。 産前産後免除は、出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠は3か月前から6か月間)です。

誰か産前産後育児合計
実父・養父母—12か月12か月
実母(単胎)4か月9か月13か月
実母(多胎)6か月9か月15か月
産前産後免除の月数は日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」1.による。産前産後免除は平成31年(2019年)4月から始まっており、今回新しく加わったのは育児免除の列のほうです。

要件に所得は入っていません。 日本年金機構は「子を育てている方(実父母・養父母)は、届出することで、所得に関係なく国民年金保険料の納付が免除されます」と書き、要件として挙げているのは「子と親子関係があること」「子と同一住所であること」の2つだけです(「(所得要件はありません)」と明記されています)。厚生労働省も「1歳未満の子と同一住所である実父母、養父母がいずれも対象となります。なお、所得要件はありません」としています。

「いずれも」なので、夫婦がどちらも第1号被保険者なら2人とも対象です。 父12か月+母13か月で、世帯では25か月になります。

財源も条文に書かれています。

前二項の規定により納付することを要しないものとされた保険料に相当する額については、政令で定めるところにより、子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)の規定により政府が徴収する子ども・子育て支援納付金により補塡するものとする。

国民年金法88条の3第3項。厚生労働省も「この制度には全ての世代や企業のみなさまから拠出いただく子ども・子育て支援金が充てられます」と書いています。

つまりこの免除は、給与や事業所得から引かれている子ども・子育て支援金の使い道の1つです。 支援金がいくら引かれているかは別の記事で計算しています。

② 免除される保険料の額

令和8年度の保険料は1か月17,920円です。月数を掛けると次のようになります。

誰か月数免除される額うち今回新設された育児免除の分
実父・養父母12か月215,040円215,040円
実母(単胎)13か月232,960円161,280円
実母(多胎)15か月268,800円161,280円
夫婦とも第1号被保険者25か月448,000円376,320円
施行の年(令和8年)の最大3か月53,760円53,760円
保険料の月額は日本年金機構「国民年金保険料」の令和8年度の額。令和9年度以後の保険料は、国民年金法87条3項・5項の保険料改定率によって毎年度変わるので、同じ月額で12か月分を計算した額は目安です。

施行の年に効く額は、最大でも3か月分です。 2026年10月1日より前の月分は免除されないためで、日本年金機構の設例(出産日が令和8年1月1日)でも、免除されるのは令和8年10月から12月までの3か月でした。

③ 免除された保険料は、社会保険料控除に入らない

ここが、この記事の本題です。社会保険料控除の条文はこうなっています。

居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合又は給与から控除される場合には、その支払つた金額又はその控除される金額を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。

所得税法74条1項。太字は引用者。2項5号が「国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料」を社会保険料に挙げている。

住民税も同じ書き方です。

前年中に自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料(略)を支払つた、又は給与から控除される所得割の納税義務者 その支払つた、又は給与から控除される金額

地方税法314条の2第1項3号(市町村民税)。道府県民税は34条1項3号に同じ定めがある。太字は引用者。

どちらも「支払った金額」です。 国税庁も控除できる額を「控除できる金額は、その年に実際に支払った金額または給与や公的年金から差し引かれた金額の全額です」と説明し、日本年金機構も「納付した国民年金保険料は、所得税や個人住民税の計算上、全額、社会保険料控除の対象となります」と書いています。免除されて納付しなかった保険料は、控除する金額がありません。

したがって、免除を受けると課税所得が免除額だけ増えます。増える税は、所得税(上乗せを含む)と住民税の合計です。

所得税の税率の段(課税総所得金額)所得税+上乗せ住民税合計
195万円以下5.105%10%15.105%
195万円超330万円以下10.210%10%20.210%
330万円超695万円以下20.420%10%30.420%
695万円超900万円以下23.483%10%33.483%
900万円超1,800万円以下33.693%10%43.693%
1,800万円超4,000万円以下40.840%10%50.840%
4,000万円超45.945%10%55.945%
段と税率は所得税法89条1項。上乗せは国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」8ページの「合計税率(%)=所得税率(%)×102.1%」による。住民税は地方税法35条1項(4%)と314条の3第1項(6%)の合計。

12か月分215,040円が免除された場合に当てはめると、こうなります。

所得税の税率の段免除額増える税手元に残る額残る割合
195万円以下215,040円32,482円182,558円84.9%
195万円超330万円以下215,040円43,460円171,580円79.8%
330万円超695万円以下215,040円65,415円149,625円69.6%
695万円超900万円以下215,040円72,002円143,038円66.5%
900万円超1,800万円以下215,040円93,957円121,083円56.3%
1,800万円超4,000万円以下215,040円109,326円105,714円49.2%
4,000万円超215,040円120,304円94,736円44.1%
スクリプトの出力。増える税は円未満を四捨五入した。
215,040195万円以下5%215,040〜330万円10%215,040〜695万円20%215,040〜900万円23%215,040〜1,800万円33%
195万円以下5%〜330万円10%〜695万円20%〜900万円23%〜1,800万円33%
手元に残る額182,558171,580149,625143,038121,083
増える所得税・住民税32,48243,46065,41572,00293,957
合計215,040215,040215,040215,040215,040

棒の高さは5本とも同じです。免除される保険料は所得に関係なく同じ額だからです。変わっているのは色の境目の位置で、右に行くほど上の段(増える税)が厚くなります。点線は手元に残る額をつないだもので、右下がりです。所得要件のない制度なのに、手取りで受け取る額は所得の高い人のほうが小さくなる、という形です。

12か月分(215,040円)が免除されたときの内訳。棒全体の高さが免除された保険料で、下の段が手元に残る額、上の段が社会保険料控除が減ることで増える税です。横軸は所得税の税率の段(課税総所得金額)。表の下2段(1,800万円超の2段)は棒を省いています。

所得要件のない制度が、手取りでは所得によって差が付きます。 免除は「保険料を払わなくてよい」という形の支援なので、保険料が所得控除であることの裏返しで、控除の価値が高い人ほど失うものも大きいためです。

なお、免除額そのものが課税所得を押し上げるので、税率の段をまたぐ人がいます。 その場合、またいだ部分だけ高い率で計算されるので、上の表の2つの段の間の値になります。

④ 所得税と住民税で、効く時期が1年ずれる

所得税は、免除された年の分です。令和8年10月から12月までが免除された人なら、令和8年分の所得税で、社会保険料控除が減ります。精算の場は確定申告です。

第三期(その年の翌年二月十六日から三月十五日までの期間をいう。略)において、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。

所得税法120条1項。令和8年分なら2027年2月16日(火)から2027年3月15日(月)までです。

住民税は1年あとです。地方税法313条1項が「所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする」と定めているためで、令和8年分の所得に対する住民税は令和9年度分になります。普通徴収の納期は「六月、八月、十月及び一月中(略)において、当該市町村の条例で定める」(同法320条)ので、最初の納期は2027年6月です。

つまり、免除された分の負担は2回に分かれて、別の年に出てきます。 免除で浮いたお金は目に見えますが、税が増えるのは最大で1年半以上あとです。

さらに細かい話をすると、どの年の控除が減るかは、保険料をいつ払っていたかで決まります。 納期限が来たかどうかではありません。国税庁の通達がそう書いています。

(1) 納付期日が到来した社会保険料又は小規模企業共済等掛金(略)であっても、現実に支払っていないものは含まれない。

所得税基本通達74・75-1(その年に支払った社会保険料又は小規模企業共済等掛金)。法第74条第1項の「支払った金額」の意味をこう定めている。太字は引用者。

その「いつ払ったか」の目安になるのが納期限です。国民年金法91条は「毎月の保険料は、翌月末日までに納付しなければならない」と定めていて、日本年金機構は末日が土日祝や年末年始(12月31日、1月2日および1月3日)のときは翌月最初の金融機関等の営業日になると書いています。令和8年10月分から12月分の納期限を数えるとこうです。

月分翌月末日納期限
令和8年10月分2026年11月30日(月)2026年11月30日(月)
令和8年11月分2026年12月31日(木)2027年1月4日(月)
令和8年12月分2027年1月31日(日)2027年2月1日(月)
国民年金法91条と、日本年金機構「国民年金保険料」2.納付期限による。2027年1月1日は国民の祝日に関する法律2条の元日で、1月2日と1月3日は年末年始にあたる。

納期限どおりに納めていた人の場合、令和8年中に納期限が来ていたのは10月分の17,920円だけです。 残りの2か月分35,840円は、もともと令和9年分の社会保険料控除になる予定でした。したがって令和8年分で減る控除は17,920円、令和9年分で減る控除は35,840円という分かれ方になります。ただし口座振替の早割(当月末振替)やクレジットカード納付、前納をしている人は実際に払った時期が違うので、自分の控除証明書と通帳で確かめてください。 日本年金機構は、口座振替またはクレジットカード納付で前納をしている場合について「育児免除期間終了後に振替方法が変更となることがあります」と書き、年金事務所に問い合わせるよう促しています。免除が終わったあとの引き落としの形まで変わり得るということです。

前納している人には、もう1つ、あとから取り返せない選択があります。 通達74・75-1(2)は、前納した保険料について按分を原則に置いています。

前納した社会保険料等の総額(前納により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した社会保険料等に係るその年中に到来する納付期日の回数)÷(前納した社会保険料等に係る納付期日の総回数)

所得税基本通達74・75-1(2)の算式。通達のページでは画像で示されているので、その代替テキストの文言を引いた。同項の(注)は、前納を「まだ充当されない残額があるうちに(略)社会保険料等の納付を要しないこととなった場合に当該残額に相当する金額が返還されることとなっているもの」と定義している。育児免除は、まさにその「納付を要しないこととなった場合」(国民年金法88条の3の「納付することを要しない」)にあたる。

そのうえで、次の項が例外を置いています。

前納した社会保険料等のうちその前納の期間が1年以内のもの及び法令に一定期間の社会保険料等を前納することができる旨の規定がある場合における当該規定に基づき前納したものについては、その前納をした者がその前納した社会保険料等の全額をその支払った年の社会保険料等として確定申告書又は給与所得者の保険料控除申告書に記載した場合には、74・75-1の(2)にかかわらず、その全額をその年において支払った社会保険料等の金額として差し支えない。

なお、この前納した社会保険料等の特例(略)を適用せずに確定申告書を提出した場合には、その後において更正の請求をするときにおいても、この特例を適用することはできないことに留意する。

所得税基本通達74・75-2(前納した社会保険料等の特例)。太字は引用者。国民年金法93条1項に「被保険者は、将来の一定期間の保険料を前納することができる」とあるので、国民年金保険料は「法令に(略)規定がある場合」にあたる。国税庁も2年前納について「納めた年に全額控除する方法と、各年分の保険料に相当する額を各年において控除する方法を選択することができます」と書いている。

つまり前納している人は、「全額をその年で引く」「各年に按分して引く」のどちらで申告するかを、申告書を出すときに決めることになります。 あとから更正の請求で特例に乗り換えることはできません。育児免除で前納した保険料が充当・還付される人は、ここを先に決めてから申告書を作ってください。

⑤ 将来の老齢基礎年金は減らない ― 申請免除との決定的な違い

免除と聞くと年金が減ると思いがちですが、この免除では減りません。根拠は用語の定義の条文です。

この法律において、「保険料納付済期間」とは、(略)納付された保険料(略)に係るもの及び第八十八条の二又は第八十八条の三第一項若しくは第二項の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係るもの(略)を合算した期間をいう。

国民年金法5条1項。太字は引用者。88条の2が産前産後免除、88条の3が育児免除。

老齢基礎年金の計算式は、日本年金機構のパンフレットが図で示しています。

847,300円×(保険料納付済月数 + 全額免除月数×1/2 + …)÷ 480月

日本年金機構「老齢年金ガイド 令和8年度版」。満額は年額847,300円(月額70,608円)です。満額の月額に12を掛けると847,296円で年額と4円ずれますが、これは国民年金法27条が年額を100円単位に丸めているためです。

育児免除の期間は、この式の「保険料納付済月数」に入ります。 1か月あたりの年金額は847,300円÷480月で、年額約1,765円です。12か月なら847,300円×12÷480=21,182.5円で、年額21,183円が、納めた場合と同じように付きます(円未満四捨五入)。

ここが所得が低い人向けの申請免除(国民年金法90条)との違いです。申請による全額免除の期間は、27条8号で月数が2分の1として計算されます。日本年金機構も「保険料の全額を免除された期間は、老齢基礎年金を受け取る際に、保険料を全額納付した場合の年金額の2分の1(税金分)を受け取れます」と書いています。

だから、すでに申請免除や納付猶予、学生納付特例を受けていた人にこそ、この制度の効き目があります。

すでに保険料を納付している期間や、法定免除に該当している期間、国民年金保険料免除・納付猶予、学生納付特例が承認されている期間についても、届出することで育児免除期間として取り扱われます。保険料を納付している期間の保険料は、充当または還付します。

日本年金機構「国民年金保険料の育児免除制度」2.育児免除制度のメリット。
もともとの状態現金の負担将来の老齢基礎年金(12か月分)
保険料を納めていた215,040円が浮く(ただし税が増える)変わらない
申請による全額免除だった変わらない年額10,591円増える
納付猶予・学生納付特例だった変わらない年金額に反映されていなかった分が納付済になる
全額免除から育児免除に変わる分は、847,300円×12÷480×(1−1/2)=年額10,591円(円未満は表示のため四捨五入)。納付猶予と学生納付特例は、追納しなければ年金額に反映されないと日本年金機構が書いています。

現金が浮く人と、年金が増える人がいる、という形の制度です。 どちらになるかは、免除が始まる前に保険料を納めていたかどうかで決まります。

⑥ 付加保険料だけは、免除中も納められる

見落としやすい取扱いが1つあります。育児免除の期間中も、付加保険料(月400円)は納付できます。 これも条文に書かれています。

前項の規定による保険料の納付は、前条第三項に定める額の保険料の納付が行われた月(略)又は第八十八条の二若しくは第八十八条の三第一項若しくは第二項の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係る期間の各月についてのみ行うことができる。

国民年金法87条の2第2項。太字は引用者。同条1項が付加保険料を納付できる人から除いているのは、89条1項(法定免除)・90条1項(申請免除)・90条の3第1項(学生納付特例)の適用を受けている人、90条の2第1項から第3項まで(一部免除)の適用を受けている人、それに国民年金基金の加入員で、88条の3(育児免除)は入っていない。

申請免除や学生納付特例の期間は付加保険料を納められないのに、産前産後免除と育児免除の期間は納められるという作りです。付加年金の額は「二百円に(略)保険料納付済期間の月数を乗じて得た額」(同法44条)ですから、計算は次のようになります。

納める月数払う額付加年金(年額)払った額に達するまで
9か月3,600円1,800円2.0年
12か月4,800円2,400円2.0年
付加保険料は月400円、付加年金は年額200円×月数(国民年金法44条)。付加年金は老齢基礎年金に上乗せされ、受け取っている間ずっと続きます。

付加保険料は自分で払うものなので、こちらは社会保険料控除に入ります。 定額の保険料が免除されて控除が減る一方で、付加保険料を納めればその分は控除できる、という関係です。

ひとつ注意があります。日本年金機構の「付加保険料の納付」のページは、2026年10月24日の時点で育児免除に触れていません。 更新日は2026年7月23日で、付加保険料を納付できない人の列挙に「法定免除、全額免除、一部免除、納付猶予、または学生納付特例」を挙げ、その注として「産前産後免除の場合は、付加年金に加入(付加保険料を納付)することができます」と書いているだけです。育児免除の側のページ(更新日2026年10月1日)には「育児免除期間中も付加保険料(月額400円)を納付することができます」と書かれています。 同じ機構のサイトの中で、制度ごとにページが分かれていて更新のタイミングが違うためです。迷ったら87条の2第2項の条文が決め手になります。

⑦ いま届く控除証明書の「見込額」は、そのままでは使えない

令和8年分の社会保険料(国民年金保険料)控除証明書の送付日は、日本年金機構が公表しています。

形式対象送付日
電子データ令和8年1月1日から9月30日までに納付した人2026年10月16日(金)から10月下旬
書面(郵送)同じ2026年10月23日(金)から11月上旬
電子データ令和8年10月1日から12月31日までに納付した人(上の対象者を除く)令和9年1月下旬から
書面(郵送)同じ令和9年2月上旬
日本年金機構「令和8年分社会保険料(国民年金保険料)控除証明書の発行について」3.控除証明書の送付日。更新日は2026年10月9日。

ハガキに載る金額の意味は、「見方」のページに書かれています。

(1)納付済額 令和8年1月1日から令和8年9月30日までに納付した総額です。 (2)見込額 証明書を作成した時点での納付方法で、令和8年10月1日から令和8年12月31日までに納付が見込まれる額です。 (3)合計額 (1)納付済額と(2)見込額の合計額です。

日本年金機構「令和8年 社会保険料(国民年金保険料)控除証明書(ハガキ)の見方」。太字は引用者。

見込額は、育児免除の届出をする前の納付方法で計算された見込みです。 証明書が作られたのは2026年9月30日時点の納付状況をもとにした時期で、育児免除が始まったのは2026年10月1日です。10月以降に届出をして免除が決まれば、実際に納付する額は見込額より小さくなります。

社会保険料控除の対象は所得税法74条1項の「支払つた金額」ですから、合計額をそのまま確定申告書に書き写すと、控除が多すぎることになります。 届出をした人は、証明書の合計額ではなく、実際に納付した額で申告してください。

逆の向きもあります。日本年金機構は、すでに納付している期間について「保険料を納付している期間の保険料は、充当または還付します」と書いています。充当されるか還付されるかで、どの年に支払ったことになるかが変わり得ます。 ここは機構の案内に支払った年の扱いまで書かれていないので、年金事務所で自分のケースを確かめるのが確実です。

あなたの数字で確かめる手順

1. 自分が国民年金第1号被保険者かを確かめる。 自分で国民年金保険料の納付書を受け取っている、または口座振替・クレジットカードで納めているなら第1号被保険者です。給与から厚生年金保険料が引かれている人は第2号被保険者で、この制度の対象ではありません。

2. 免除される月を数える。 実父・養父母なら「子を養育することとなった月」から「1歳の誕生日の前月」まで。産前産後免除を受けた実母なら、産前産後免除期間の翌月から9か月間です。2026年10月より前の月分は入りません。

3. 免除額を出す。 令和8年度は17,920円 × 月数です。令和9年度以後の月分は、その年度の保険料に直してください。

4. 自分の所得税の税率の段を調べる。 確定申告書の「課税される所得金額」を見て、③の表の段に当てはめます。年収ではありません。

5. 増える税を出す。 免除額 ×(③の表の合計の率)です。たとえば課税所得が400万円なら30.420%なので、12か月分なら215,040円 × 30.420% = 65,415円です。免除額からこれを引いた額が、手元に残る額です。

6. 届出をする。 市区町村の国民年金窓口か、マイナポータルからの電子申請です。届書は「国民年金産前産後免除該当届/育児免除該当・終了届」で、親子関係と同一住所を確認する書類は機構が「原則添付不要」としています。届出が不要なのは、産前産後免除を受けた実母のうち、基礎年金番号とマイナンバーが紐付いていて、情報連携で親子関係と子と同一世帯であることを機構が確認できる場合だけです。その場合は「国民年金保険料育児免除該当通知書」が届きます。

7. 届いた控除証明書の「見込額」と、実際に納めた額を突き合わせる。 免除の届出をしたあとは、見込額が実際と合いません。通帳や納付書の控えで、実際に納付した額を確かめてください。

まとめ

  • 2026年10月1日から、国民年金第1号被保険者の育児免除が始まった。子が1歳になるまで、所得に関係なく保険料が免除される
  • 免除される月数は、実父・養父母が最大12か月、産前産後免除を受けた実母は産前産後(単胎4か月)に続く9か月。実母は合わせて13か月、多胎なら15か月。夫婦とも第1号被保険者なら世帯で25か月
  • 令和8年度の保険料は月17,920円。12か月で215,040円、世帯25か月で448,000円。ただし施行の年(令和8年)に効くのは最大3か月分の53,760円
  • 免除された保険料は社会保険料控除に入らない(所得税法74条1項・地方税法314条の2第1項3号)。課税所得が増えるので、所得税と住民税が増える
  • 増える率は、所得税の税率の段ごとに15.105%・20.210%・30.420%・33.483%・43.693%。12か月分215,040円のうち手元に残るのは182,558円から121,083円で、所得が高い人ほど残る額は小さい
  • 効く時期はずれる。所得税は令和8年分(確定申告は2027年2月16日から3月15日)、住民税は令和9年度分(最初の納期は2027年6月)
  • 将来の老齢基礎年金は減らない。 国民年金法5条1項で保険料納付済期間に入る。申請による全額免除(27条8号で2分の1)とはここが違う。すでに全額免除だった人は、12か月分で年額10,591円の年金が増える
  • 育児免除の期間中も付加保険料(月400円)は納められる(87条の2第2項)。申請免除や学生納付特例では納められない。12か月で4,800円払えば付加年金は年額2,400円
  • いま届く控除証明書の「見込額」は、免除の届出をする前の納付方法による見込み。 合計額をそのまま申告書に書き写さない
  • 前納している人は、全額をその年で引くか各年に按分するかを、申告書を出すときに決める。 あとから更正の請求で特例に乗り換えることはできない(所得税基本通達74・75-2)
  • 財源は子ども・子育て支援金(88条の3第3項の「子ども・子育て支援納付金により補塡する」)

よくある質問

国民年金の育児免除は、誰が対象ですか。

国民年金第1号被保険者(自営業者、農業者、フリーランス、学生、無職の方など)で、1歳未満の子を養育している実父母・養父母が対象です。日本年金機構は要件として「子と親子関係があること」「子と同一住所であること」の2つを挙げ、所得要件はないと書いています。厚生労働省も「1歳未満の子と同一住所である実父母、養父母がいずれも対象」としていますので、夫婦がどちらも第1号被保険者なら2人とも免除を受けられます。一方、会社員や公務員などの第2号被保険者と、第2号被保険者に扶養されている第3号被保険者、それに任意加入被保険者は対象外です。第2号被保険者には、育児休業などの期間について厚生年金保険料等が免除される別の制度があります。対象になる子には、実子・養子のほか、特別養子縁組の監護期間にある子、養子縁組里親に委託されている子、それに「当該被保険者を養子縁組里親として委託することが適当と認められるにもかかわらず、実親等が反対したことにより、養育里親として委託されている子」も含まれます(国民年金法88条の3第2項と同法施行規則73条の10第2項)。

何か月分が免除されますか。

原則は、子を養育することとなった日の属する月から、1歳の誕生日の前月までの最大12か月です(国民年金法88条の3第2項)。実父・養父母と、産前産後免除を受けていない実母がこれにあたります。産前産後免除を受けた実母は扱いが違い、産前産後免除期間(単胎なら4か月、多胎なら6か月)に引き続く9か月間が育児免除の対象です(同条1項)。したがって実母は産前産後と合わせて13か月、多胎なら15か月になり、実父より長くなります。夫婦がどちらも第1号被保険者なら、父12か月と母13か月で世帯合計25か月です。なお施行日は2026年10月1日で、それより前の月分は免除されません。施行の時点ですでに1歳未満の子を養育している場合、実父・養父母は2026年10月分から1歳の誕生日の前月分までが対象です。産前産後免除を受けた実母は扱いが別で、日本年金機構は「産前産後免除期間(4カ月または6カ月)に引き続く9カ月間のうち、令和8年10月1日以降の月分」と書いています。この場合の終期は出産予定日から12か月を経過した日の属する月の前月なので、出産日が出産予定日とずれた人は、誕生日の前月と一致しないことがあります。

免除された分だけ、そのまま家計が楽になるのですか。

保険料を払わなくなる額のうち、手元に残るのは一部です。所得税法74条1項は社会保険料控除を「支払つた場合又は給与から控除される場合には、その支払つた金額又はその控除される金額を…控除する」と定めていますので、免除されて払わなかった保険料は控除できません。その結果、課税所得が免除額だけ増え、所得税と住民税が増えます。増える率は、所得税の税率に102.1%を掛けた合計税率と、住民税の所得割10%の合計です。所得税の税率が5%なら15.105%、10%なら20.210%、20%なら30.420%、23%なら33.483%、33%なら43.693%です。12か月分215,040円が免除された場合、手元に残るのは税率5%で182,558円、20%で149,625円、33%で121,083円という計算になります。所得要件のない制度ですが、手取りで見ると所得の高い人のほうが残る額は小さくなります。

免除を受けると、将来の老齢基礎年金は減りますか。

減りません。国民年金法5条1項が、88条の2(産前産後免除)または88条の3第1項・第2項(育児免除)によって納付を要しないものとされた保険料に係る期間を「保険料納付済期間」に含めているためです。老齢基礎年金の額は満額に「保険料納付済期間の月数ほかの合算月数÷480」を掛けて計算しますので、納付済期間に入る限り、納めた場合とまったく同じに扱われます。ここが所得が低い人向けの申請免除(同法90条)との違いです。申請による全額免除の期間は、27条8号によって月数が2分の1として計算されるので、将来の年金が減ります。すでに全額免除や納付猶予、学生納付特例が承認されている期間も、届出によって育児免除期間として取り扱われると日本年金機構は書いていますので、その場合は現金の負担は変わらないまま、将来の年金だけが増えます。

手続きは必要ですか。期限はありますか。

国民年金法施行規則73条の9第1項が「届書を市町村長に提出しなければならない」と定めていますので、原則として届出が必要です。日本年金機構は「育児免除の要件を満たした日以降、速やかに届出してください」としており、紙の届書(国民年金産前産後免除該当届/育児免除該当・終了届)を市区町村の国民年金担当窓口に出すか、マイナポータルから電子申請します。例外が1つあり、産前産後免除を受けた実母で、産前産後免除期間が2026年9月以降に終了した後も引き続き子を養育していることを日本年金機構が確認できる場合は、届出が不要です。この場合は「国民年金保険料育児免除該当通知書」が送られてきます。ただし機構が挙げている条件は「基礎年金番号とマイナンバーが紐付されており、マイナンバーを用いた情報連携によって親子関係および子と同一世帯であることを確認できる被保険者」です。対象になる要件のほうは「子と同一住所であること」なので、同じ住所でも世帯が別だと、この自動の扱いには乗りません。逆に「国民年金保険料の産前産後免除期間終了のお知らせ」が届いた人は、確認ができなかったということなので、自分で届出をする必要があります。なお子と同居しなくなったなど要件を満たさなくなったときは、要件を満たさなくなった日の翌日以降、速やかに終了の届出が必要です。一方、子が1歳に到達して期間が満了したときは、機構が「手続き不要です」と明記しているので終了の届出は要りません。

免除されている間、付加保険料は納められますか。

納められます。国民年金法87条の2第2項が、付加保険料の納付は「第八十八条の二若しくは第八十八条の三第一項若しくは第二項の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係る期間の各月についてのみ行うことができる」と、定額保険料を納付した月と並べて明記しています。所得が低い人向けの申請免除(90条)や学生納付特例を受けている間は付加保険料を納付できませんが、育児免除は違うということです。付加保険料は月400円で、付加年金の額は年額200円に付加保険料納付済月数を掛けた額(同法44条)です。12か月納めれば払う額は4,800円、付加年金は年額2,400円ですから、2.0年受け取れば払った額に達します。付加保険料は自分で払うものなので、こちらは社会保険料控除の対象になります。なお日本年金機構の「付加保険料の納付」のページは、2026年10月24日の時点で、納付できない人の例外として産前産後免除しか挙げていません。

送られてくる控除証明書は、そのまま使えますか。

届出の時期によっては使えません。令和8年分の社会保険料(国民年金保険料)控除証明書は、電子データが2026年10月16日から、書面が2026年10月23日から順次送られます。このハガキには「納付済額」(令和8年1月1日から9月30日までに納付した総額)と「見込額」が並んでいて、日本年金機構は見込額を「証明書を作成した時点での納付方法で、令和8年10月1日から令和8年12月31日までに納付が見込まれる額です」と説明しています。つまり見込額は、育児免除の届出をする前の納付方法で計算された見込みです。免除が決まれば実際に納付する額はそれより少なくなるので、合計額をそのまま年末調整や確定申告に書き写すと、社会保険料控除が多すぎることになります。所得税法74条1項の控除額は実際に支払った金額ですから、免除の届出をした人は、証明書の合計額ではなく実際に納付した額で申告してください。

国民年金保険料を前納しています。育児免除が決まったら、社会保険料控除はどうなりますか。

前納した保険料のうち免除になった月の分は、日本年金機構が「充当または還付します」としています。社会保険料控除は所得税法74条1項の「支払つた金額」で決まるので、戻ってきた分は支払っていないことになります。前納した保険料の控除のしかたは2通りあります。所得税基本通達74・75-1(2)が原則として「前納した社会保険料等の総額(前納により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した社会保険料等に係るその年中に到来する納付期日の回数)÷(前納した社会保険料等に係る納付期日の総回数)」で按分した額をその年に支払った金額とし、74・75-2が、前納の期間が1年以内のものと、法令に前納の規定がある場合の前納(国民年金法93条1項が「将来の一定期間の保険料を前納することができる」と定めています)については、全額をその支払った年の社会保険料等として申告書に記載したときは、その全額をその年の支払額として差し支えないとしています。国税庁も2年前納について「納めた年に全額控除する方法と、各年分の保険料に相当する額を各年において控除する方法を選択することができます」と書いています。気をつけてほしいのは、同じ74・75-2が「この特例を適用せずに確定申告書を提出した場合には、その後において更正の請求をするときにおいても、この特例を適用することはできない」と念を押している点です。あとから選び直せないので、申告書を出す前に決めてください。なお、充当や還付があったときに、どの年の支払額から差し引くのかを定めた資料は、日本年金機構・国税庁のどちらにも見つけられませんでした。前納していて免除を受ける人は、年金事務所と税務署の両方で自分のケースを確かめてください。

出典

制度の内容は改正されることがあります。判断の際は必ず出典元の最新情報をご確認ください。