税金

住民税は6月に切り替わる ― 所得税が減っても住民税は減らない

令和8年度の税制改正は、所得税の課税最低限を大きく引き上げました。 財務省の大綱は冒頭でこう書いています。

物価高への対応の観点から、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設するほか、就業調整に対応するとともに、中低所得者に配慮しつつ、所得税の課税最低限を178 万円まで特例的に先取りして引き上げる。

財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日 閣議決定)1ページ。太字は引用者。

ところが、2026年(令和8年)11月までの給与から源泉徴収される所得税は、この改正の前後で変わりませんでした。 国税庁がこう告知しているためです。

令和8年11 月までの給与等及び公的年金等の源泉徴収事務に変更は生じません。

国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」1ページ。太字は引用者。同じページのロに「基礎控除額の引上げ及び給与所得控除の最低保障額の引上げに伴い、令和9年分以後の『源泉徴収税額表』が改正されました」とあります。

つまり、所得税の減税が毎月の手取りに出てくるのは2027年(令和9年)1月からで、2026年分は12月の年末調整でまとめて精算されます。大綱も、この仕組みの基本的な考え方として「源泉徴収義務者等の事務負担に配慮し、(…)見直し初年は、月次の源泉徴収等では対応せず年末調整からの対応とする」としています。

では、その次に来る2027年6月からの住民税はどうなるのか。ここが本題です。

結論

住民税が6月に切り替わるのは、給与天引き(特別徴収)が「6月から翌年5月まで」の12回で組まれているからです。1年分の税額が先に確定し、それを12で割って毎月引いていきます。所得税のように毎月その場で計算しているのではありません。だから金額が動くのは、原則として6月の1回だけです。

そして6月だけは、ほかの月より少し多く引かれます。12で割り切れなかった端数を、最初の月にまとめて寄せる決まりがあるためです。7月から翌年5月までは、ずっと同じ額が続きます。

もとになるのは、前年の所得です。だから収入が変わった影響は、1年遅れて住民税に出てきます。

ここまでは以前からの仕組みですが、今年はもう一つあります。所得税と住民税は、同じ「基礎控除」という名前の控除でも、額が別々に定められています。令和8年度の税制改正で引き上げられたのは所得税の側だけで、住民税の側は動いていません。大綱の地方税の項目に、基礎控除の引上げは1件も出てきません。

したがって、所得税が減った分は、住民税には届きません。所得税と住民税の控除額の差を埋めるための「調整控除」という仕組みはありますが、その計算の基礎は条文で固定されていて、控除額の差が広がっても増えません。

住民税は、去年の自分に対して、所得税とは別の物差しで課される税です。 以下、実際にいくらになるかを計算します。

計算の前提

項目条件
年収500万円(月給35万円×12か月 + 賞与40万円×2回)
標準報酬月額36万円(報酬月額35万円は「350,000円以上370,000円未満」の等級)
標準賞与額40万円×2回
勤務先の健康保険全国健康保険協会(協会けんぽ)大阪支部
年齢40歳未満(介護保険第2号被保険者に該当しない)
住所大阪府内の市(政令指定都市ではない)。均等割の超過課税は無いものとする
家族配偶者は共働きで扶養に入らない。子は2人ともまだ16歳未満(扶養控除の対象外)
その他の控除生命保険料控除・地震保険料控除・医療費控除・住宅ローン控除・ふるさと納税は無いものとする
保険料率健康保険10.13%/子ども・子育て支援金0.23%/厚生年金18.300%(協会けんぽ大阪支部・令和8年3月分から。支援金は令和8年4月分から)
雇用保険料率一般の事業・労働者負担 1,000分の5(令和8年度)
比較のしかた同じ年収・同じ社会保険料に、令和7年分の税制と令和8年分の税制をそれぞれ当てはめて比べる
★年収500万円・月給35万円・賞与40万円という金額は説明のための架空の例示で、実在する誰かの給与ではありません。保険料率・控除額・税率はすべて執筆時点の公式資料の実数です。計算は scripts/calc-juminzei-shikumi.py で行い、出力を転記しました。

まず社会保険料を出しておきます。協会けんぽの保険料額表は、標準報酬月額36万円の欄に次の額を載せています。

項目全額折半額(本人負担)
健康保険(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)36,468円18,234円
子ども・子育て支援金828円414円
厚生年金65,880円32,940円
月の合計51,588円

賞与1回(標準賞与額40万円)の本人負担は57,320円です。雇用保険料は実際に支払われた賃金に料率を掛けるので、500万円×1,000分の5=25,000円。

社会保険料控除の合計
  51,588円 × 12か月            =   619,056円
  57,320円 × 2回               =   114,640円
  雇用保険料                    =    25,000円
                       合計      758,696円

給与所得の金額は356万円です。所得税法28条4項が、給与収入660万円未満の場合は別表第五によると定めており、その表の「5,000,000円以上5,004,000円未満」の行に3,560,000円と書かれています。

① 6月に切り替わるのは、12回に分けているから

住民税の給与天引きは、年に12回と決まっています。

前条の特別徴収義務者は、(…)当該通知に係る給与所得に係る特別徴収税額の十二分の一の額を六月から翌年五月まで、(…)それぞれ給与の支払をする際毎月徴収し、その徴収した月の翌月の十日までに、これを当該市町村に納入する義務を負う。

地方税法321条の5第1項。太字は引用者。同項ただし書は、特別徴収税額が均等割額に相当する金額以下である場合には最初に徴収すべき月に全額を徴収するとしています。

その1年分の額を、市町村が5月末までに通知します。

市町村長が前項後段の規定により特別徴収義務者及び特別徴収義務者を経由して納税義務者に対してする通知は、当該年度の初日の属する年の五月三十一日までにしなければならない。

地方税法321条の4第2項。太字は引用者。5月から6月ごろに勤務先から渡される「住民税決定通知書」がこれです。

この2つを並べると、何が起きているかが分かります。

引かれている住民税
1月〜5月前の年度分(前々年の所得で計算した額)の残り
6月〜12月新しい年度分(前年の所得で計算した額)の12分の1

所得税は、毎月の給与額と扶養の人数から源泉徴収税額表を引いて、その場で計算します。住民税はそうではありません。1年分が先に確定していて、それを12で割っているだけです。だから、月の給与が増えても減っても、住民税の天引き額はその年度のあいだ動きません。

自分で納める普通徴収の場合は、地方税法320条が納期を「六月、八月、十月及び一月中(当該個人の市町村民税額が均等割額に相当する金額以下である場合にあつては、六月中)」において条例で定めるとしています。回数は違いますが、こちらも6月から始まります。

② 6月だけ多いのは、端数を寄せているから

12で割り切れないときは、端数を最初の月に足す決まりがあります。

地方税の確定金額を、二以上の納期限を定め、一定の金額に分割して納付し、又は納入することとされている場合において、その納期限ごとの分割金額に千円未満の端数があるとき、又はその分割金額の全額が千円未満であるときは、その端数金額又はその全額は、すべて最初の納期限に係る分割金額に合算するものとする。ただし、地方団体が当該地方団体の条例でこれと異なる定めをしたときは、この限りでない。

地方税法20条の4の2第6項。太字は引用者。ただし書のとおり、条例で別の定めを置くこともできます。 以下は条例で別の定めを置いていない場合の話です。手元の通知書が下の計算と合わないときは、お住まいの市町村の条例を確認してください。

そして特別徴収の住民税では、この「千円」が「百円」に読み替えられます。

この場合において、特別徴収の方法によつて徴収する個人の市町村民税、個人の道府県民税及び森林環境税に対する第六項の規定の適用については、同項中「千円」とあるのは、「百円」とする。

地方税法20条の4の2第8項の後段。太字は引用者。同項の前段は、個人の市町村民税・個人の道府県民税・森林環境税を「それぞれ一の地方税とみなす」としています。ただし、みなす対象は第2項・第3項(確定金額の全額が百円未満のときに全額を切り捨てる部分に限る)・第5項から第7項までで、第3項本文の「百円未満の端数を切り捨てる」は入っていません。 12回に分ける第6項では3つを1つの金額として扱いますが、年税額の百円未満の切捨てのほうは市町村民税と道府県民税で別々に行います(次の③で計算します)。

市町村民税も道府県民税も、それぞれ百円未満が切り捨てられた額です。したがって合計した年税額も100円単位です。これを12で割った分割金額には百円未満の端数が出ることがあり、その端数は12回分すべてが最初の納期(6月)に合算されます

モデルケースの住民税の年税額は239,500円です(内訳は次の③で出します)。

239,500円 ÷ 12 = 19,958.33…円   ← 分割金額。百円未満の端数は 58.33…円
  → 百円未満を切り捨てた 19,900円 が7月から翌年5月までの月割額
  → 12回分の端数 58.33…円 × 12 = 700円 が6月に合算される
  → 6月 = 19,900円 + 700円 = 20,600円
  検算:20,600円 + 19,900円 × 11 = 239,500円
20,600円6月19,900円7月19,900円8月
6月7月8月
12で割った月割額19,90019,90019,900
6月に寄せられた端数70000
合計20,60019,90019,900

6月の棒にだけ、上に小さな段が乗っています。これが端数の700円です。7月から翌年5月までの11か月は、すべて19,900円で動きません。「6月から手取りが減った」と感じる原因の一部はここにあります。

特別徴収される住民税の月額。年税額239,500円を12回に分けたもの。

この上乗せは、年税額によって0円から1,100円の間で決まります。年税額は百円未満が切り捨てられているので、年税額を100で割った数を12で割った余りに100を掛けた額になります。総当たりで確かめると、出てくる値は0円・100円・200円…1,100円の12通りだけで、最大は1,100円です。年税額が12で割り切れる金額なら、6月だけ多いということは起こりません。

③ 住民税の中身 ― 一律10%の所得割と、定額の均等割

住民税は2つの部分でできています。総務省の整理はこうです。

所得割 納税義務者(※)の所得金額に応じた税額の負担を求めるもの(一律10%)

均等割 非課税限度額を上回る者に定額の負担を求めるもの

総務省「個人住民税の概要」。太字は引用者。同じ資料は所得割の標準税率を市町村民税6%・道府県民税4%、均等割の標準税率(年額)を市町村民税3,000円・道府県民税1,000円としています。※印は「非課税限度額の制度あり」の注記です。

条文でも同じです。所得割の標準税率は地方税法314条の3第1項が市町村民税を100分の6、35条1項が道府県民税を100分の4と定めています。均等割の標準税率は310条が市町村民税3,000円、38条が道府県民税1,000円です。

所得税と違って、住民税の所得割には累進の段がありません。課税所得がいくらであっても一律10%です。ここが、この記事のあとの話にそのまま効いてきます。

政令指定都市に住んでいる場合は、市民税8%・道府県民税2%になります。総務省は「県費負担教職員制度の見直しに伴う税源移譲により、指定都市に住所を有する者は、道府県民税2%・市民税8%となる」としています。合計10%は変わりません。

これに森林環境税が加わります。 森林環境税は国税ですが、住民税と一緒に集められます。

森林環境税の税率は、千円とする。

森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律5条。同法7条1項は、森林環境税の賦課徴収は市町村が「当該住所所在市町村の個人の市町村民税の均等割の賦課徴収(…)の例により」、市町村民税・道府県民税の均等割の賦課徴収と「併せて行う」としています。総務省は「令和6年度から、森林環境税(1,000円)の課税が開始され、均等割とともに賦課徴収されている」としています。

モデルケースで計算します。

市町村民税と道府県民税は別々の税なので、所得割も別々に計算し、それぞれ百円未満を切り捨てます。

給与所得                        3,560,000円
− 社会保険料控除                  758,696円
− 基礎控除(住民税)              430,000円
= 課税所得(千円未満切捨て)    2,371,000円

市町村民税  2,371,000円 × 6%           142,260円
            調整控除                 −   1,500円
                                     ─────────
                                       140,760円 → 百円未満切捨て 140,700円

道府県民税  2,371,000円 × 4%            94,840円
            調整控除                 −   1,000円
                                     ─────────
                                        93,840円 → 百円未満切捨て  93,800円

所得割の合計                           234,500円
均等割(市町村3,000円 + 道府県1,000円) + 4,000円
森林環境税                            + 1,000円
                                     ─────────
年税額                                 239,500円
先に10%を掛けてから切り捨てると239,600円になり、100円ずれます。 地方税法20条の4の2第3項の百円未満切捨ては「地方税の確定金額」に対する定めで、市町村民税と道府県民税は別々の地方税です。同条第8項が3つを「一の地方税とみなす」のは第2項・第3項(全額が百円未満のときに全額を切り捨てる部分に限る)・第5項から第7項までで、第3項本文の端数切捨ては、みなす対象から外れています。調整控除の中身は次の④で説明します。均等割には超過課税があり、総務省によれば37府県・2市が実施しています。実施している自治体では、これより数百円多くなります。

均等割と森林環境税を合わせた5,000円は、所得がいくらでも同じ額です。 ただし地方税法295条3項は「均等割のみを課すべきもののうち、前年の合計所得金額が政令で定める基準に従い当該市町村の条例で定める金額以下である者」には均等割を課することができないとしています。森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律4条1項3号にも「前年の合計所得金額が政令で定める金額以下である者」には課さないという定めがあります。

所得割のほうにも非課税の枠があります。地方税法附則3条の3第4項は、前年の総所得金額等の合計額が「三十五万円にその者の同一生計配偶者及び扶養親族(年齢十六歳未満の者及び…控除対象扶養親族に限る。)の数に一を加えた数を乗じて得た金額に十万円を加算した金額(その者が同一生計配偶者又は扶養親族を有する場合には、当該金額に三十二万円を加算した金額)以下」であれば所得割を課することができないとしています。扶養控除の対象にならない16歳未満の子も、この人数には数えます。

④ 同じ年収でも、所得税と住民税で課税所得が違う

住民税の基礎控除は43万円です。

市町村は、前年の合計所得金額が二千五百万円以下である所得割の納税義務者については、(…)次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める金額を控除するものとする。

一 当該納税義務者の前年の合計所得金額が二千四百万円以下である場合 四十三万円

地方税法314条の2第2項(市町村民税)。太字は引用者。道府県民税の34条2項1号も同じ43万円です。

所得税の基礎控除は、令和8年分から104万円になりました(この額は令和8年分と令和9年分の2年分だけです。後述します)。

(注)1 所得税法第86条の規定による基礎控除額62万円(改正前:58万円)に、租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算額を加算した額となります。

2 62万円にそれぞれ、42万円、5万円、37万円を加算した金額(改正前:58万円にそれぞれ、37万円、30万円、10万円、5万円を加算した金額)となります。

国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」1ページの表の注1・注2。太字は引用者。この表により、令和8年分・令和9年分の基礎控除額は、合計所得金額489万円以下で104万円、489万円超655万円以下で67万円、655万円超2,350万円以下で62万円です。同じ表の「令和10年分以後」の欄は、合計所得金額132万円以下が99万円、132万円超2,350万円以下が62万円です(⑥で扱います)。

同じ年収でも、課税所得はこれだけ違います。

所得税(令和8年分)住民税
給与所得3,560,000円3,560,000円
社会保険料控除−758,696円−758,696円
基礎控除−1,040,000円−430,000円
課税所得(千円未満切捨て)1,761,000円2,371,000円

差は610,000円です。これがそのまま基礎控除の差(1,040,000円−430,000円)になっています。

調整控除は、この差を埋めるものではない

所得税と住民税の控除額の差を調整する仕組みは、たしかにあります。

市町村は、前年の合計所得金額が二千五百万円以下である所得割の納税義務者については、その者の第三百十四条の三の規定による所得割の額から、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める金額を控除するものとする。

(…)二 当該納税義務者の合計課税所得金額が二百万円を超える場合 イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額(当該金額が五万円を下回る場合には、五万円とする。)の百分の三(…)に相当する金額

イ 五万円に、当該納税義務者が前号イの表の上欄に掲げる者に該当する場合には、当該納税義務者に係る同表の下欄に掲げる金額を合算した金額を加算した金額

ロ 当該納税義務者の合計課税所得金額から二百万円を控除した金額

地方税法314条の6(市町村民税)。太字は引用者。道府県民税の37条もほぼ同じ文言で、率だけが100分の2(政令指定都市は100分の1)です。

注目すべきは、計算の基礎が「五万円」という固定額であることです。 実際の基礎控除の差(61万円)ではありません。扶養親族・障害者・配偶者がいる場合は、条文の表に従ってその分が加算されますが、モデルケースのように16歳未満の子だけで控除対象扶養親族がいない世帯では、5万円のままです。

モデルケースの合計課税所得金額は2,371,000円なので、第2号に当てはまります。イ(5万円)からロ(2,371,000円−2,000,000円=371,000円)を引くとマイナスになりますが、**「五万円を下回る場合には、五万円とする」**という括弧書きがあるので5万円です。

調整控除 = 50,000円 × 3%(市町村民税) = 1,500円
         + 50,000円 × 2%(道府県民税) = 1,000円
                                       ────────
                                         2,500円

61万円の差に対して、税額として戻ってくるのは2,500円です。

⑤ 令和8年度の改正で、差はさらに広がった

この差は、令和8年度の税制改正で2倍以上になりました。 令和7年分は所得税68万円・住民税43万円で差は25万円でしたが、令和8年分は104万円・43万円で61万円です。増えた36万円は、まるごと所得税側だけの話です。

令和8年度税制改正の大綱を、地方税の項目まで読むと分かります。 「一 個人所得課税」の「1 物価上昇局面における基礎控除等の対応」は、国税と地方税に分かれています。国税の側には「(1)基礎控除」があり、控除額を4万円引き上げて62万円にすると書かれています。地方税の側には、基礎控除の項目がありません。

国税(所得税)地方税(個人住民税)
基礎控除62万円に引上げ(+加算42万円)項目なし
給与所得控除の最低保障額65万円 → 69万円(令和8・9年分はさらに+5万円)65万円 → 69万円(令和9年度分・令和10年度分はさらに+5万円)
扶養親族等の所得要件58万円以下 → 62万円以下58万円以下 → 62万円以下
ひとり親控除35万円 → 38万円(令和9年分から)30万円 → 33万円(令和10年度分から)
財務省「令和8年度税制改正の大綱」2〜5ページ。地方税の側で引き上げられたのは、給与所得控除の最低保障額((1))、扶養親族等の所得要件など((2))、ひとり親控除((3))の3つだけです。

給与所得控除の最低保障額の引上げは、住民税にも効きます。ただし効く範囲は限られます。国税庁は、令和8年分・令和9年分について「給与等の収入金額が69万1,000円以上220万円未満である場合」の給与所得の金額を表で直接定めており、そのうち「74万1,000円以上219万1,000円未満」の欄は「その収入金額-74万円」です。そして「給与等の収入金額が220万円超の場合の給与所得控除額に改正はありません」としています。

したがって、給与収入が220万円を超える人の住民税には、この改正は届きません。 モデルケース(年収500万円)の給与所得控除は「収入金額×20%+44万円」で計算するので、令和7年分も令和8年分も144万円で変わりません。

実際にいくら変わるか

所得税(令和7年分の税制)
  課税所得 3,560,000 − 758,696 − 680,000 = 2,121,304 → 2,121,000円
  税率10%(195万円超330万円以下)
  2,121,000 × 10% − 97,500 = 114,600円
  復興特別所得税(2.1%)を含めて 114,600 × 1.021 = 117,006.6
  年税額(百円未満切捨て)        117,000円

所得税(令和8年分の税制)
  課税所得 3,560,000 − 758,696 − 1,040,000 = 1,761,304 → 1,761,000円
  税率5%(195万円以下)
  1,761,000 × 5% = 88,050円
  復興特別所得税(2.1%)を含めて 88,050 × 1.021 = 89,899.05
  年税額(百円未満切捨て)         89,800円

住民税(令和8年度分・令和9年度分とも同じ)
  年税額                          239,500円
基礎控除は、令和7年分が68万円(58万円+10万円)、令和8年分が104万円(62万円+42万円)です。令和7年分の額は国税庁タックスアンサー No.1199 の表、令和8年分の額は「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」の表によります。所得税の速算表は同No.2260、復興特別所得税の2.1%は同ページの※2によります。
5,000,000円令和7年分の税制5,000,000円令和8年分の税制
令和7年分の税制令和8年分の税制
手取り3,884,8043,912,004
住民税239,500239,500
所得税117,00089,800
社会保険料758,696758,696
合計5,000,0005,000,000

縮んでいるのは所得税の帯だけです。住民税の帯は2本ともまったく同じ高さで、239,500円のまま動いていません。所得税は27,200円減りましたが、その減税は住民税には届きません。

年収500万円のモデルケース。令和7年分の税制と令和8年分の税制を、同じ年収・同じ社会保険料に当てはめたもの。

基礎控除が36万円増えて、所得税は27,200円減りました。税率の段も10%から5%に下がっています。住民税は0円です。

参考までに、もし住民税の基礎控除も104万円だったとしたら、住民税の年税額は178,500円になります。実際の239,500円との差は61,000円(課税所得の差610,000円×10%)です。

この61,000円は、住民税が一律10%だから、そのまま差になります。所得税なら基礎控除が増えたときに税率の段も下がることがありますが、住民税にはその段がありません。

⑥ 104万円は令和8年分と令和9年分だけ ― 令和10年分から戻る

ここまでの104万円は、2年分の額です。 基礎控除の本則62万円に上乗せされている加算額は、租税特別措置法41条の16の2の特例で、大綱は年分ごとに額を分けています。

① 居住者のその年分の合計所得金額が655 万円(令和10 年分以後の各年分にあっては、132 万円)以下である場合の基礎控除の控除額の加算額を次に掲げる年分の区分に応じそれぞれ次に定める金額とする。

令和8年分及び令和9年分 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額

(イ)その居住者のその年分の合計所得金額が489 万円以下である場合 42万円

(ロ)その居住者のその年分の合計所得金額が489 万円を超える場合 5万円

令和10 年分以後の各年分 37 万円

財務省「令和8年度税制改正の大綱」(国税)「1 物価上昇局面における基礎控除等の対応」(4)令和7年分以後の各年分の基礎控除等の特例、3〜4ページ。太字は引用者。

読むべきは、①の括弧書きの係り先です。 加算がもらえる所得の上限が、令和8年分・令和9年分は合計所得金額655万円なのに対し、令和10年分以後は132万円に下がります。つまり令和10年分からは、加算額が37万円に減るだけでなく、加算そのものが合計所得金額132万円以下の人に限られます。国税庁の表もそうなっています(合計所得金額132万円以下が99万円、132万円超2,350万円以下が62万円)。

モデルケースの合計所得金額は356万円です。 したがって基礎控除はこう動きます。

年分所得税の基礎控除住民税の基礎控除
令和7年分/令和8年度分68万円43万円25万円
令和8年分・令和9年分/令和9年度分・令和10年度分104万円43万円61万円
令和10年分以後/令和11年度分以後62万円43万円19万円

差が61万円なのは2年だけで、令和10年分からは19万円に縮みます。 ただし縮む理由は、住民税が下がるからではありません。所得税のほうが上がるからです。 同じ前提で計算すると、こうなります。

所得税(令和10年分の税制・基礎控除62万円)
  課税所得 3,560,000 − 758,696 − 620,000 = 2,181,304 → 2,181,000円
  税率10%(195万円超330万円以下)
  2,181,000 × 10% − 97,500 = 120,600円
  附加税(2.1%)を含めて 120,600 × 1.021 = 123,132.6
  年税額(百円未満切捨て)        123,100円

住民税                            239,500円(変わらない)

令和8年分の89,800円に対して、33,300円増えます。 住民税は239,500円のまま動きません。

令和9年分以後は復興特別所得税の税率が1.1%に下がり、代わりに防衛特別所得税1%が課されます。国税庁は「改正前(復興特別所得税の税率2.1%)と改正後(防衛特別所得税の税率1%及び復興特別所得税の税率1.1%)とで、合計税率(2.1%)に変更はありません」としているので、上の計算では2.1%のままにしています(「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」8ページ)。給与所得控除の最低保障額に令和8年・令和9年だけ上乗せされている5万円も令和10年分には無くなりますが、モデルケース(年収500万円)の給与所得控除は「収入金額×20%+44万円」なので影響しません。社会保険料は上の2つと同じ額を置いています。

あなたの数字で確かめる手順

① 住民税決定通知書を出す

5月か6月に勤務先から渡される「給与所得等に係る市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書」を見てください。地方税法321条の4第2項により、市町村は5月31日までにこれを通知することになっています。

② 年税額と、6月の額を見比べる

通知書には、6月から翌年5月までの各月の額が並んでいます。

6月の額 − 7月の額 = 6月に寄せられた端数(0円〜1,100円)

7月から翌年5月までの11か月は、すべて同じ額のはずです。 違っていたら、年の途中で税額が変わっている(更正・給与支払報告書の訂正など)ことになります。

③ 所得割と均等割を分ける

年税額 = 市町村民税の所得割 + 道府県民税の所得割
       + 均等割(4,000円)+ 森林環境税(1,000円)

通知書は市町村民税と道府県民税を別の欄に印字しています。 所得割はそれぞれ百円未満が切り捨てられているので、2つを足したものが所得割の合計です。

均等割に超過課税がある自治体では、4,000円より数百円多くなります。通知書に内訳が印字されています。

④ 課税所得を逆算する

課税所得 ≒(所得割 + 調整控除)÷ 10%

調整控除の額も通知書に印字されています。扶養親族・障害者・配偶者控除がなければ2,500円です。

住宅ローン控除やふるさと納税をしている場合は、その税額控除も所得割から引かれているので、逆算するときは足し戻してください。通知書に内訳が印字されています。

⑤ 源泉徴収票の「課税される所得金額」と比べる

同じ年の源泉徴収票と並べてください。住民税の課税所得のほうが大きくなっているはずです。その差が、所得税と住民税の控除額の差です。令和8年分の所得については、基礎控除の差だけで61万円あります。

まとめ

  • 住民税の給与天引きは、1年分を6月から翌年5月までの12回に分けて集める仕組み(地方税法321条の5第1項)。だから金額が動くのは原則として6月の1回だけ
  • その年度の税額は、市町村が5月31日までに勤務先と本人に通知する(同321条の4第2項)
  • 6月だけ他の月より多いのは、12回分の分割金額から切り捨てた百円未満を、すべて最初の月に寄せるため(同20条の4の2第6項・8項。同項ただし書により条例で別の定めを置くこともできる)。上乗せは0円〜1,100円で、7月から翌年5月までの11か月は同額
  • 所得割は一律10%(市町村民税6%・道府県民税4%。政令指定都市は8%と2%)。累進の段がない
  • 所得割は市町村民税と道府県民税で別々に計算し、それぞれ百円未満を切り捨てる(同20条の4の2第3項)。合計してから10%を掛けて切り捨てると、最大100円ずれる
  • 定額部分は均等割4,000円+森林環境税1,000円=5,000円(地方税法310条・38条、森林環境税法5条)
  • 住民税の基礎控除は43万円(地方税法314条の2第2項・34条2項)。令和8年度税制改正の大綱の地方税の項目に、基礎控除の引上げは1件も出てこない
  • 所得税の基礎控除は令和8年分から104万円(本則62万円+加算42万円)。年収500万円のモデルケースでは、所得税が27,200円減ったのに対し、住民税は0円
  • 課税所得の差は610,000円。これを埋めるはずの調整控除は、計算の基礎が条文で5万円に固定されているため、税額で2,500円しか戻らない
  • 令和7年分の基礎控除の差は25万円(68万円と43万円)だった。令和8年分で61万円に広がった
  • ただし104万円は令和8年分と令和9年分だけ。加算42万円は租税特別措置法41条の16の2の特例で、令和10年分以後は加算が37万円に減り、しかも合計所得金額132万円以下の人に限られる。モデルケース(合計所得金額356万円)の令和10年分の基礎控除は62万円に戻り、住民税との差は19万円まで縮む。縮む理由は住民税が下がるからではなく、所得税が33,300円増えるから
  • 住民税に効く改正は給与所得控除の最低保障額(給与収入220万円以下の範囲)と扶養親族等の所得要件、それに令和10年度分からのひとり親控除だけ。年収がそれを超える世帯には届かない
  • 住民税は前年の所得にかかる(同313条・32条)。賦課期日は1月1日(同318条)。収入が動いた影響は1年遅れて出る

「減税されたはずなのに手取りが増えない」と感じたら、所得税と住民税を分けて見てください。 増えるのは所得税の側だけで、しかもそれが毎月の給与に出てくるのは2027年1月からです。6月から始まる住民税は、去年の自分に対する、別の物差しの税です。

よくある質問

住民税はなぜ6月に変わるのですか?

給与から住民税を天引きする「特別徴収」は、1年分の税額を6月から翌年5月までの12回に分けて集める仕組みだからです。地方税法321条の5第1項は、特別徴収義務者(勤務先)は特別徴収税額の「十二分の一の額を六月から翌年五月まで」「給与の支払をする際毎月徴収し」と定めています。同法321条の4第2項により、市町村がその年度の税額を勤務先と本人に通知するのは5月31日までです。つまり5月までは前の年度の税額を、6月からは新しい年度の税額を引いていることになります。所得税のように毎月の給与に対してその場で計算するのではなく、1年分が確定してから12等分されるため、金額が動くのは原則として6月の1回だけです。なお給与天引きではなく自分で納める普通徴収の場合は、同法320条により納期は6月・8月・10月・1月の4回(税額が均等割額以下のときは6月のみ)と定められており、こちらも6月から始まります。

6月の住民税だけ他の月より高いのはなぜですか?

12で割り切れなかった端数を、6月にまとめて寄せているからです。地方税法20条の4の2第6項は、税額を分割して納める場合に「その納期限ごとの分割金額に千円未満の端数があるとき」は「すべて最初の納期限に係る分割金額に合算する」と定めています。そして同条第8項の後段が、特別徴収の個人住民税・道府県民税・森林環境税についてはこの「千円」を「百円」と読み替えるとしています。住民税の年税額は、市町村民税と道府県民税それぞれについて同条第3項により百円未満が切り捨てられた額の合計なので100円単位です。これを12で割った分割金額に百円未満の端数が出ると、その端数は12回分すべてが6月に合算されるため、6月だけは他の月より0円から1,100円多くなります。たとえば年税額239,500円なら、分割金額は19,958.33…円で百円未満の端数は58.33…円、これが12回分たまって700円になり、6月は19,900円+700円=20,600円です。年税額が12で割り切れる金額なら差は出ません。7月から翌年5月までの11か月は、すべて同じ金額です。なお同条第6項にはただし書があり、地方団体が条例でこれと異なる定めをすることもできます。

2026年に所得税の基礎控除が上がったのに、住民税が下がらないのはなぜですか?

所得税と住民税で基礎控除の額が別々に定められていて、令和8年度税制改正で引き上げられたのは所得税の側だけだからです。所得税の基礎控除は所得税法86条の本則が62万円(改正前58万円)で、租税特別措置法41条の16の2による加算を含めると、令和8年分・令和9年分は合計所得金額489万円以下で104万円になります。この104万円は2年分だけの額で、令和10年分以後は加算額が37万円に減り、しかも加算の対象が合計所得金額132万円以下の人に限られるため、それを超える人の基礎控除は本則の62万円に戻ります。一方、住民税の基礎控除は地方税法314条の2第2項1号(市町村民税)と34条2項1号(道府県民税)が43万円と定めており、令和8年度税制改正の大綱の地方税の項目には基礎控除の引上げが1件も出てきません。大綱で住民税について引き上げられたのは給与所得控除の最低保障額と、扶養親族等の所得要件です。給与所得控除の最低保障額が効くのは給与収入220万円以下の範囲なので、それを超える収入の人には住民税の減税は届きません。

調整控除があるので、所得税と住民税の控除の差は埋まるのではありませんか?

埋まりません。調整控除は地方税法314条の6と37条に定めのある控除ですが、計算の基礎になるのは実際の控除額の差ではなく、条文が定めた固定額です。条文は「五万円に、当該納税義務者が次の表の上欄に掲げる者に該当する場合には、当該納税義務者に係る同表の下欄に掲げる金額を合算した金額を加算した金額」としており、扶養親族も障害者控除も配偶者控除もない人であれば、基礎控除に対応する5万円だけが基礎になります。合計課税所得金額が200万円を超える場合は、この額から「合計課税所得金額から200万円を控除した金額」を引いた残りが対象ですが、5万円を下回るときは5万円とされるので、実際にはほとんどの人が5万円のままです。5万円に市町村民税3%と道府県民税2%を掛けた2,500円が、税額から引かれる額になります。所得税と住民税の基礎控除の差が61万円に広がっても、調整控除の額は動きません。

住民税は前年の所得にかかるとのことですが、いつの所得が、いつの住民税になりますか?

その年の1月1日から12月31日までの所得が、翌年6月から始まる年度の住民税になります。地方税法313条1項(市町村民税)と32条1項(道府県民税)が「所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする」と定めているためです。誰に課税するかを決める基準日は別にあり、同法318条により「個人の市町村民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日」とされています。したがって、2026年(令和8年)の所得は令和9年度分の住民税になり、2027年6月から2028年5月までの給与から引かれます。収入が減っても住民税がすぐには下がらず、収入が増えても住民税がすぐには上がらないのはこのためで、退職・育休・転職のように収入が大きく動く出来事の影響は、1年遅れて出てきます。

均等割と森林環境税は、収入が下がってもかかりますか?

非課税限度額を下回らない限りかかります。均等割は所得の多い少ないにかかわらず定額で、標準税率は地方税法310条により市町村民税が3,000円、38条により道府県民税が1,000円です。総務省は均等割を「非課税限度額を上回る者に定額の負担を求めるものであり、負担分任の性格を有する個人住民税の基礎的なもの」と説明しています。これに加えて、令和6年度から森林環境税が課税されています。森林環境税は国税ですが、森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律5条により税率は1,000円で、同法7条1項により市町村が個人住民税の均等割と併せて賦課徴収します。したがって定額部分は合計5,000円です。ただし均等割については地方税法295条3項により、均等割のみを課すべき人のうち前年の合計所得金額が政令で定める基準に従い条例で定める金額以下の人には、課することができないとされています。森林環境税にも、森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律4条1項3号に、前年の合計所得金額が政令で定める金額以下である者には課さないという定めがあります。なお均等割には超過課税があり、総務省によれば37府県・2市が実施しています。

住宅ローン控除やふるさと納税をしている場合も、住民税は変わりませんか?

この2つについては、大綱に地方税側の措置が書かれています。令和8年度税制改正の大綱は「(5)所得税の基礎控除の額の引上げに伴う個人住民税における所要の措置」として、令和7年12月31日までに居住の用に供した場合の住宅借入金等特別税額控除の控除限度額と、ふるさと納税を含む寄附金税額控除の特例控除額について「所得税の基礎控除の額の引上げに伴い、所要の措置を講ずる」としています。どちらも所得税額や所得税の限界税率を計算に使う仕組みなので、所得税が減ると住民税側の計算も影響を受けます。ただし大綱に書かれているのは「所要の措置を講ずる」までで、具体的な中身は大綱の文言からは読み取れません。なお大綱は、住宅借入金等特別税額控除の控除限度額に係るこの措置による個人住民税の減収額は「全額国費で補塡する」としています。

出典