繰り上げ返済をすると、利息が減ります。同時に、住宅ローン控除も減ります。
控除額は年末のローン残高に0.7%を掛けて計算するので、残高を減らせば控除も減るためです。
| 繰り上げ返済で | |
|---|---|
| 利息 | 減る |
| 住宅ローン控除 | 減る |
この2つを同時に見ないと、金額の関係が分かりません。 そして「控除がいくら減るか」には、あまり知られていない性質があります。
計算上の減少額は全員同じでも、実際に減る金額は人によって違います。
結論
繰り上げ返済をすると年末残高が減るので、住宅ローン控除も減ります。ここまでは計算のとおりです。
ただしその減少が実際の損失になるかどうかは、その人が控除を使い切れているかで変わります。
住宅ローン控除は納めた税金から差し引く仕組みなので、もともと納税額が足りずに控除を使い切れていない人は、控除額が減っても受け取る金額が変わりません。 減るのは「使えていなかった枠」だからです。
したがって、繰り上げ返済で失う控除の額は年収によって変わります。 以下、金額を計算します。
本記事は繰り上げ返済をすべきかどうかには踏み込みません。金額の関係を示すところまでを扱います。 利息の削減と控除の減少を、あなたの数字で同時に計算できます繰り上げ返済シミュレーター(住宅ローン控除つき)計算の前提
具体的な条件で計算します。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 借入額 | 3,500万円 |
| 借入条件 | 35年・元利均等・年1.400% |
| 毎月返済額 | 105,458円 |
| 繰り上げ返済 | 6年目のはじめに300万円 |
| 控除率 | 0.7%・13年 |
利息はいくら減るか
繰り上げ返済には2つの方法があります。**返済額を変えずに期間を縮める「期間短縮型」**と、**期間を変えずに毎月の返済額を下げる「返済額軽減型」**です。
| 総利息 | 削減額 | 完済 | |
|---|---|---|---|
| 繰り上げ返済なし | 9,292,515円 | — | 420回 |
| 期間短縮型 | 7,836,681円 | 1,455,833円 | 378回(3.5年短縮) |
| 返済額軽減型 | 8,616,820円 | 675,695円 | 420回 |
期間短縮型の方が、利息の削減額が780,138円大きくなります。 返済額軽減型は毎月の返済額が105,458円から95,248円へ10,210円下がりますが、返済期間が変わらないぶん利息は多く残ります。
控除はいくら減るか
繰り上げ返済をした6年目から、年末残高が下がるので控除額も下がります。
| 年 | 繰上返済なし | 期間短縮型 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1〜5年目 | (同じ) | (同じ) | 0円 |
| 6年目 | 211,000円 | 189,700円 | 21,300円 |
| 8年目 | 199,000円 | 177,100円 | 21,900円 |
| 10年目 | 186,700円 | 164,200円 | 22,500円 |
| 13年目 | 167,600円 | 144,100円 | 23,500円 |
| 13年の合計 | 2,658,000円 | 2,479,000円 | 179,000円 |
5年目までは重なっています。差がつくのは繰り上げ返済をした6年目からです。年末残高が下がるぶん控除額も下がり、13年間の合計で179,000円の差になります。
計算上、控除は13年で179,000円減ります。 利息の削減額1,455,833円と比べると、8分の1ほどの大きさです。
期間短縮型と返済額軽減型では、控除の減り方も違います
| 13年の控除額 | 繰上返済なしとの差 | |
|---|---|---|
| 繰り上げ返済なし | 2,658,000円 | — |
| 期間短縮型 | 2,479,000円 | ▲179,000円 |
| 返済額軽減型 | 2,511,200円 | ▲146,800円 |
返済額軽減型の方が、控除は32,200円多く残ります。 毎月の返済額を下げるぶん月々の元金返済が減り、年末残高が高いまま残るためです。
ただし利息の削減額は期間短縮型の方が780,138円大きいので、金額の合計では期間短縮型が上回ります。
ここからが本題:実際に減るかは年収で変わります
ここまでの179,000円は計算上の減少額です。実際に受け取る金額がいくら減るかは、別に確かめる必要があります。
住宅ローン控除は納めた税金から差し引く仕組みなので、使える枠には上限があります。
使える枠 = その年の所得税額
+ 住民税からの控除(上限:所得税の課税総所得金額等 × 5%、最高97,500円)
この枠が控除額より小さい人は、もともと控除を使い切れていません。 そういう人にとって、繰り上げ返済で減るのは「使えていなかった枠」です。
年収別に計算しました。
| 年収 | 使える枠(年) | 控除(なし) | 控除(繰上後) | 実際の減少 |
|---|---|---|---|---|
| 400万円・片働き | 74,000円 | 962,000円 | 962,000円 | 0円 |
| 400万円・共働き | 112,000円 | 1,456,000円 | 1,456,000円 | 0円 |
| 500万円・片働き | 139,000円 | 1,807,000円 | 1,807,000円 | 0円 |
| 500万円・共働き | 177,000円 | 2,288,700円 | 2,203,500円 | 85,200円 |
| 600万円・片働き | 204,000円 | 2,528,700円 | 2,357,800円 | 170,900円 |
| 600万円・共働き以上 | 242,000円〜 | 2,658,000円 | 2,479,000円 | 179,000円 |
| 400万片働き | 400万共働き | 500万片働き | 500万共働き | 600万片働き | 600万共働き | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 実際に減る額 | 0 | 0 | 0 | 85,200 | 170,900 | 179,000 |
| 減っても影響しない額 | 179,000 | 179,000 | 179,000 | 93,800 | 8,100 | 0 |
| 合計 | 179,000 | 179,000 | 179,000 | 179,000 | 179,000 | 179,000 |
棒の高さはすべて同じです。計算上の減少額は年収に関係なく179,000円だからです。違うのは色の境目で、下の濃い部分だけが実際の損失になります。年収400万円と500万円の片働き世帯では、境目が一番下にあります。減るのはもともと使えていなかった枠だからです。
年収400万円の世帯と、年収500万円の片働き世帯では、控除の実際の減少はゼロでした。 もともと控除を使い切れていないので、計算上の控除額が減っても受け取る金額は変わりません。
利息の削減額とあわせると、こうなります。
| 年収 | 利息の削減 | 控除の実際の減少 | 差引 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 1,455,833円 | 0円 | 1,455,833円 |
| 500万円・片働き | 1,455,833円 | 0円 | 1,455,833円 |
| 500万円・共働き | 1,455,833円 | 85,200円 | 1,370,633円 |
| 600万円・片働き | 1,455,833円 | 170,900円 | 1,284,933円 |
| 600万円・共働き以上 | 1,455,833円 | 179,000円 | 1,276,833円 |
同じ繰り上げ返済でも、差引の金額が179,000円ちがいます。 そしてその差は、年収が高い側に不利な方向に出ます。
「住宅ローン控除があるうちは繰り上げ返済を待つべき」という説明を見かけますが、その前提が当てはまるのは、控除を使い切れている人だけということになります。
見落としやすい点:期間が10年未満になると控除が終わる
住宅ローン控除には「償還期間10年以上」という要件があります。そして繰り上げ返済をした場合は、繰り上げ返済後の償還期間で判定します。
判定の仕方は、国税庁の質疑応答事例に示されています。
繰り上げて支払ったことにより償還期間が短くなったとしても、当初の契約により定められていた最初に償還した月から、その短くなった償還期間の最終の償還月までの期間が10年以上であれば、本年以後も住宅借入金等特別控除を受けることができます
見るのは「残りの期間」ではありません。 最初の返済月から、短縮後の最終返済月までの通算の期間です。
| 見るもの | |
|---|---|
| ❌ 繰り上げ返済後に残っている期間 | ちがう |
| ⭕ 最初に返済した月から、短縮後の最終返済月まで | これが10年以上あるか |
たとえば返済開始から8年経った時点で期間を大きく縮めても、最初の返済月から短縮後の最終返済月までが10年以上あれば控除は続きます。10年未満になると、該当しなくなった年以後は受けられません。
上のケースは35年の借入を3.5年縮めただけなので問題になりませんが、もともと期間の短いローンで期間短縮型を繰り返す場合は注意が必要です。
返済額軽減型なら期間は変わらないので、この問題は起きません。
あなたの数字で確かめる手順
① 控除を使い切れているか確認する
源泉徴収票を1枚用意してください。
使える枠 = 源泉徴収税額(=所得税)
+ min(課税所得 × 5%、97,500円)
控除額 = 年末のローン残高 × 0.7%(100円未満切捨て)
| 比べた結果 | 繰り上げ返済で控除は |
|---|---|
| 使える枠 ≧ 控除額 | 減った分がそのまま損失になる |
| 使える枠 < 控除額 | 差の分は損失にならない(もともと使えていない) |
② 控除がいくら減るか計算する
控除の減少(年) = 繰り上げ返済した金額 × 0.7%
残高が繰り上げ返済額のぶん下がるので、その0.7%が毎年の減少額の目安になります。 300万円なら年21,000円、残りの控除期間が8年なら16.8万円ほどです。
実際には返済が進むにつれて差が少しずつ変わるため、上の計算では179,000円になりました。目安としてはこの式で足ります。③ 利息がいくら減るか調べる
借入先の返済シミュレーションを使うのが確実です。 ネットバンキングに繰り上げ返済のシミュレーション機能があることが多く、期間短縮型と返済額軽減型のどちらも試せます。
④ ①〜③を並べる
②が①で「損失にならない」と判定されたなら、控除の減少は計算から外して構いません。
①〜④を一度に出す
繰り上げ返済シミュレーター に借入の条件と年収を入れると、①〜④をまとめて計算します。計算上の控除の減少額だけでなく、そのうち実際に失う金額がいくらかまで出ます。
簡易版は給与収入と家族構成だけで判定します。詳細版は社会保険料・iDeCo・医療費控除まで入れて、使える枠を正確に出します。期間短縮型で償還期間が10年未満になる場合は、警告が出ます。
まとめ
- 繰り上げ返済で年末残高が減るので、住宅ローン控除も減る
- 借入3,500万円・6年目に300万円のケースでは、計算上13年で179,000円の減少
- 一方で利息は期間短縮型で1,455,833円、返済額軽減型で675,695円減った
- 返済額軽減型の方が控除は32,200円多く残る(年末残高が高いまま残るため)。ただし利息の削減は期間短縮型が780,138円大きい
- 控除の減少が実際の損失になるかは年収で変わる。 年収400万円の世帯では実際の減少がゼロだった
- 「控除があるうちは繰り上げ返済を待つ」という話が当てはまるのは、控除を使い切れている人だけ
- 期間短縮型で償還期間が10年未満になると控除が終わる。判定は残りの期間ではなく、最初に返済した月から短縮後の最終返済月までの通算
繰り上げ返済をするかどうかは、手元資金をどれだけ残すかなど金額以外の要素にも左右されます。本記事の数字は、その判断材料の一つとして使ってください。