共働きで住宅を買うとき、借り方は3つあります。
| 債務の本数 | 債務者 | |
|---|---|---|
| ペアローン | 2本 | 夫と妻がそれぞれ1本ずつ |
| 連帯債務 | 1本 | 夫と妻が連帯して1本を負う |
| 連帯保証 | 1本 | 1人だけ。もう1人は保証人 |
「収入合算」という言葉は、連帯債務型と連帯保証型の両方を指すことがあります。 呼び方だけでは、どちらか分かりません。
そして住宅ローン控除は、この3つで扱いが違います。
結論
住宅ローン控除は、税額から引く控除です。 したがって、その人の所得税額と住民税からの控除の上限を超える部分は、受け取れません。
1人で大きく借りると、控除額がその人の税額を上回ることがあります。 上回った分は、そのまま消えます。2人で借りれば、2人分の税額を使えます。
ただし、分ければ分けるほどよいというものでもありません。 収入の少ないほうに大きく寄せると、今度はそちら側で余ります。それぞれの税額に見合った配分にしたときが、いちばん多く受け取れます。
そして連帯債務では、負担割合を自由に決めることができません。 持分の取得に必要な額を超えて負担すると、その部分は相手への贈与として扱われるためです。
さらに、離婚と相続では、それぞれ別の論点が出てきます。 ローンは当事者どうしの取り決めだけでは動かせず、税務上も誤解されやすい取扱いがあります。
本記事はどの借り方を選ぶべきかを断定しません。制度上どうなるかと、金額の差を計算するところまでを扱います。計算の前提
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 借入額 | 4,000万円 |
| 世帯年収 | 1,000万円(夫600万円・妻400万円) |
| 住宅 | 借入限度額が4,000万円以上の区分(認定住宅など)。控除率0.7%・13年 |
| 社会保険料 | 年収の**15%**として計算 |
| 所得控除 | 基礎控除と社会保険料控除のみ(扶養控除等はなし) |
| 残高の減り方 | 毎年**1.5%**ずつ減るものとする |
| 税制 | 令和8年分(基礎控除は合計所得489万円以下で104万円) |
① 借り方で「控除を受けられる人」が変わる
| 住宅ローン控除 | |
|---|---|
| ペアローン | 2人がそれぞれ自分の借入残高で受けられる |
| 連帯債務 | 2人が負担割合に応じて受けられる |
| 連帯保証 | 債務者1人だけ。 保証人は受けられない |
連帯保証の保証人は、債務者ではありません。 したがって住宅ローン控除を受けられません。収入を合算して借入額を増やすことはできますが、税制上のメリットは1人分のままです。
団体信用生命保険の扱いは、商品によって違います。 ⑥で扱います。
② 控除には「使える枠」がある
住宅ローン控除は、所得税額から引き、引き切れない分を住民税から引きます。 住民税から引ける額には上限があります。
使える枠 = その年の所得税額
+ min(所得税の課税総所得金額等 × 5%、97,500円)
年収別に計算すると、こうなります。
| 年収 | 所得税額 | 住民税からの控除の上限 | 使える枠 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 26,500円 | 26,500円 | 53,000円 |
| 400万円 | 56,000円 | 56,000円 | 112,000円 |
| 500万円 | 88,500円 | 88,500円 | 177,000円 |
| 600万円 | 144,500円 | 97,500円 | 242,000円 |
| 800万円 | 418,500円 | 97,500円 | 516,000円 |
| 1,000万円 | 758,500円 | 97,500円 | 856,000円 |
借入4,000万円の1年目の控除額は280,000円です。 年収600万円の枠242,000円では足りません。
③ 13年で受け取れる額を、配分別に計算する
借入4,000万円を、夫(年収600万円)と妻(年収400万円)でどう分けるかを変えて計算しました。
| 夫の借入 | 妻の借入 | 13年の控除額 | 実際に受け取る | 使えない額 |
|---|---|---|---|---|
| 4,000万円 | 0円 | 3,329,200円 | 3,131,300円 | 197,900円 |
| 3,500万円 | 500万円 | 3,328,500円 | 3,325,500円 | 3,000円 |
| 3,000万円 | 1,000万円 | 3,328,300円 | 3,328,300円 | 0円 |
| 2,500万円 | 1,500万円 | 3,328,400円 | 3,328,400円 | 0円 |
| 2,000万円 | 2,000万円 | 3,328,400円 | 3,120,200円 | 208,200円 |
| 1,500万円 | 2,500万円 | 3,328,400円 | 2,704,000円 | 624,400円 |
| 1,000万円 | 3,000万円 | 3,328,300円 | 2,287,700円 | 1,040,600円 |
| 500万円 | 3,500万円 | 3,328,500円 | 1,871,500円 | 1,457,000円 |
| 0円 | 4,000万円 | 3,329,200円 | 1,456,000円 | 1,873,200円 |
いちばん多い配分(3,328,400円)といちばん少ない配分(1,456,000円)で、1,872,400円の差が出ます。
そして注目すべきは5行目です。 夫2,000万円・妻2,000万円という折半が最適ではありません。 208,200円が使えないまま残ります。
| 夫が単独 | 夫2,500万・妻1,500万 | 折半(2,000万ずつ) | 妻が単独 | |
|---|---|---|---|---|
| 実際に受け取れる額 | 3,131,300 | 3,328,400 | 3,120,200 | 1,456,000 |
| 控除額のうち使えない分 | 197,900 | 0 | 208,200 | 1,873,200 |
| 合計 | 3,329,200 | 3,328,400 | 3,328,400 | 3,329,200 |
4本とも棒の高さ(=控除額の合計)はほぼ同じです。違うのは色の境目で、上に乗っている部分が「控除額として計算されるのに、税額が足りなくて受け取れない分」です。年収の低い側に借入を寄せるほど、この部分が大きくなります。
控除額そのもの(棒の高さ)は、どの配分でもほとんど変わりません。 変わるのは、それを受け取れるかどうかです。
④ 連帯債務では、負担割合を自由に決められない
国税庁の質疑応答事例が、この点を明確にしています。
連帯債務の場合は、その負担について当事者間の内部的契約がどのように定められているかにより、それぞれの住宅借入金等特別控除の対象となる借入金の額が変わってきます。
そして注書きに、こうあります。
(注) 連帯債務の負担割合は、所得金額等に応じて合理的に定める必要があり、夫が妻に代わって負担する借入金は、夫から妻に対する贈与となります
物件5,000万円・頭金1,000万円(夫婦で折半)・借入4,000万円・持分は2分の1ずつという設例で計算します。
自分の持分を取得するために必要な借入は、こうなります。
5,000万円 × 1/2 − 1,000万円 × 1/2 = 2,000万円
| 負担割合 | 夫の負担額 | 持分取得に必要 | 夫の控除対象 | 妻の控除対象 | 2人の合計 | 妻への贈与 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 夫50% | 2,000万円 | 2,000万円 | 2,000万円 | 2,000万円 | 4,000万円 | 0円 |
| 夫60% | 2,400万円 | 2,000万円 | 2,000万円 | 1,600万円 | 3,600万円 | 400万円 |
| 夫70% | 2,800万円 | 2,000万円 | 2,000万円 | 1,200万円 | 3,200万円 | 800万円 |
負担割合を上げても、夫の控除の対象は増えません。 増えるのは贈与のほうです。
そして見落とされやすいのは、妻の側です。 国税庁は、6対4の設例で妻についてこう書いています。
妻の方は、400万円相当額は夫が代わりに負担することとされているため、自分の家屋等の持分を取得するために実質的に負担することとなる借入金は1,600万円だけとなります……このため、妻の住宅借入金等特別控除の対象となる借入金は1,600万円と考えられます。
つまり2人合計の控除対象が、4,000万円から3,600万円に減ります。 差の400万円は、どちらの控除対象にもなりません。1年目でいえば 400万円 × 0.7% = 28,000円 の控除が消えます。贈与税の問題が起きるだけでなく、世帯の受取額そのものが減ります。
つまり連帯債務では、③のように配分を自由に調整することができません。 配分を変えるなら、持分そのものを変える必要があります。
ペアローンなら、借入額と持分をそろえて設計できます。 ここが両者の実務上の違いです。
利息の削減と控除の減少を、あなたの数字で同時に計算できます繰り上げ返済シミュレーター(住宅ローン控除つき)⑤ 離婚したとき ― ローンは自動的には動かない
ローンは金融機関との契約です。 離婚の取り決めだけで債務者を変えることはできず、金融機関の承諾が要ります。連帯保証も、離婚を理由に外れることはありません。
そして税務上、誤解されやすい取扱いがあります。
財産分与が土地や建物などで行われたときは、分与した人に譲渡所得の課税が行われることになります。 この場合、分与した時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となります。
受け取る側ではなく、渡す側に課税されます。
さらに、渡す側は住宅ローン控除も失います。 住宅ローン控除は、取得した家屋に引き続き自分が居住していることが要件だからです。
| 家に残るほう | 家を出るほう | |
|---|---|---|
| 住宅ローン控除 | 自分の債務について続く | 受けられなくなる |
| 債務 | 残る | 残る |
| 財産分与で持分を渡した場合 | — | 譲渡所得の課税 |
家を出たほうは、控除がなくなり、返済だけが残ります。
分与を受けた人は、分与を受けた日にその時の時価で取得したことになります。将来売却したときの長期・短期の判定も、その日を基準にします。⑥ 亡くなったとき ― 団信の入り方で結論が変わる
まず、団体信用生命保険の入り方が借り方で違います。 そしてここは商品によって異なるので、契約書と商品説明書で確認する必要があります。
制度として明示されている例を1つ挙げます。 住宅金融支援機構は、フラット35の連帯債務についてこう書いています。
ご夫婦で連帯債務となる場合は、どちらかひとりがご加入いただくか、またはふたりで「デュエット」(ペア連生団信)にご加入いただけます。「デュエット」をご利用いただくとどちらかが万一の場合は、住宅金融支援機構に支払われる保険金が債務に充当されるため、住宅の持分、返済割合などにかかわらず、以後の【フラット35】の債務の返済が不要となります。
つまり連帯債務でも、2人で加入する選択肢があります。 そして加入していれば、どちらが亡くなっても債務が全部消えます。
| 一方が亡くなったとき | |
|---|---|
| ペアローン(それぞれが自分の債務について加入) | 亡くなった人の債務だけ消える。 もう一方の債務は残る |
| 連帯債務でどちらか1人が加入 | その人が亡くなれば消える。加入していない側が亡くなっても消えない |
| 連帯債務で2人が加入(フラット35のデュエット等) | どちらが亡くなっても債務が全部消える |
「ペアローンなら2人とも守られる」とは限りません。 守られるのは自分の債務だけです。残された側の返済は続きます。
相続税では、団信で消えた債務を控除できない
どの入り方であっても、団信で返済される部分は債務控除の対象になりません。
団体信用生命保険契約に基づき返済が免除される住宅ローンは、被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であって、相続人が支払う必要のない債務ですので、相続税の課税価格の計算上、債務として差し引くことはできません。
国税庁は、これを「誤りやすい事例」として挙げています。 相続開始日に残高があったからといって、相続税の申告書第13表に書いてはいけません。
一方、相続財産のほうには自宅の持分がそのまま入ります。 債務控除ができないので、財産だけが残る形になります。
デュエットのように債務が全額消える場合は、その全額が債務控除できません。 消える範囲が広いほど、相続税の計算上は不利に働きます。
差し引ける債務は「被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務(借入金や未払金など)で確実と認められるもの」とされています。あなたの数字で確かめる手順
① 契約書で、どの型かを確認する
債務が2本 → ペアローン
債務が1本で、2人とも「債務者」 → 連帯債務
債務が1本で、片方が「連帯保証人」 → 連帯保証
「収入合算」としか書かれていない場合は、金融機関に確認してください。
あわせて、団体信用生命保険に誰が加入しているかも確認してください。 亡くなったときに債務がどこまで消えるかが変わります。
② 2人それぞれの「使える枠」を出す
使える枠 = 所得税額 + min(所得税の課税総所得金額等 × 5%、97,500円)
源泉徴収票の「源泉徴収税額」と、住民税の決定通知書の「課税標準」から概算できます。
③ 控除額が枠に収まるかを見る
控除額 = 借入限度額の範囲内の年末残高 × 0.7%
枠を超えた分は受け取れません。 超えるなら、配分を見直す余地があります。
④ 連帯債務なら、負担割合と持分を突き合わせる
持分の取得に必要な額を超えて負担していないかを確認してください。 超えていれば、その部分は贈与として扱われます。
⑤ 借入限度額を超えていないか確認する
控除額の計算に使うのは、住宅の区分ごとに決まった借入限度額の範囲内の年末残高です。 2人合計の残高が限度額を超えている場合、超えた部分は計算に入りません。
令和8年から令和12年に居住した場合の借入限度額(新築等)は、次のとおりです。
| 住宅の区分 | 一般 | 特例対象個人 |
|---|---|---|
| 認定住宅 | 4,500万円 | 5,000万円 |
| ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 | 4,500万円 |
| 省エネ基準適合住宅(令和8年・9年) | 2,000万円 | 3,000万円 |
「特例対象個人」は、この記事の読者に多く当てはまります。 大綱の定義はこうです。
上記の「特例対象個人」とは、個人で、年齢40歳未満であって配偶者を有する者、年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者をいう。
共働きで住宅を買う世帯の多くは、ここに入ります。 一般の枠で足りるかを見る前に、自分がこの区分に当たるかを確認してください。
既存住宅の取得や、イ・ロ以外の住宅(その他の住宅・増改築等)は別の限度額です。なお令和6年・令和7年に居住した場合について、国税庁は「年齢または配偶者もしくは扶養親族に該当するかどうかの判定は、居住年の12月31日(これらの方が年の途中で死亡した場合には、その死亡の時)の現状によります」としています。まとめ
- ペアローンは債務が2本で、2人がそれぞれ控除を受けられる。連帯債務は1本を負担割合で分ける。連帯保証は保証人が控除を受けられない
- 「収入合算」という言葉は連帯債務型と連帯保証型の両方を指す。契約書で確認する
- 住宅ローン控除には使える枠(所得税額+住民税からの控除の上限)がある。年収600万円で242,000円、400万円で112,000円
- 借入4,000万円の設例では、配分によって13年の受取額が最大1,872,400円変わった(3,328,400円と1,456,000円)
- 折半は最適ではない。 夫2,000万円・妻2,000万円だと208,200円が使えないまま残った
- 連帯債務では負担割合を自由に決められない。 持分の取得に必要な額を超えた部分は相手への贈与になり、しかも2人合計の控除対象が減る(6対4の設例では4,000万円→3,600万円)
- 借入限度額には子育て世帯向けの上乗せがある。 40歳未満で配偶者がいる、または19歳未満の扶養親族がいる場合、認定住宅は4,500万円ではなく5,000万円
- 離婚してもローンは自動的には動かない。 財産分与で不動産を渡すと渡す側に譲渡所得の課税があり、家を出るほうは控除も失う
- 団信の入り方で、亡くなったときの結論が変わる。 ペアローンは自分の債務だけ消えるが、連帯債務には2人で加入できる商品があり(フラット35のデュエット等)、その場合はどちらが亡くなっても債務が全部消える
- 団信で返済される住宅ローンは、相続税の債務控除ができない(国税庁の「誤りやすい事例」)
借り方は、契約したあとで変えるのが難しいものです。 ②と③だけでも、契約の前に一度出しておく価値があります。