三菱UFJ銀行の「一部繰上返済」のページに、こう書かれています。
三菱UFJ銀行「一部繰上返済」(2025年8月1日現在)。「最終返済期限繰上方式」が一般にいう期間短縮型、「返済額再計算方式」が返済額軽減型にあたります。金利上昇局面では、一部繰上返済額によって「最終返済期限繰上方式」でも返済期間が短くならない場合や、「返済額再計算方式」でも返済額が増える場合もあります。
同じページの、それぞれの方式の説明の下にも、別に注意書きが付いています。
<注意>金利上昇局面では、一部繰上返済額によっては、返済期間が短くならない場合もあります。
<注意>金利上昇局面では、一部繰上返済額によっては、返済額が増える場合もあります。
期間を短くする手続きで期間が短くならず、返済額を減らす手続きで返済額が増える。 銀行が自分でそう書いています。
結論
「利息を減らすなら期間短縮型、毎月を軽くするなら返済額軽減型」という整理は、金利が上がった後には使えません。
理由は一つです。変動金利で5年ルールの適用を受けていると、金利が上がっても返済額は次の見直しまで変わりません。 つまりいま引き落とされている金額は、借入当初の低い金利で計算された金額のままです。いまの金利で計算し直すと、足りていません。
繰り上げた分は、まずこの不足の穴埋めに消えます。 穴が埋まるまでは、期間短縮型を選んでも契約上の期限より早く終わる状態にならず、返済額軽減型を選んでも再計算後の金額が下がりません。据え置きは免除ではなく猶予だという話が、繰上返済の場面でもう一度出てくるということです。
したがって順番が逆になります。 どちらの型を選ぶかより先に、いくら繰り上げれば効き始めるのかを出す必要があります。
そして、その境目は2つの型で同じ額です。 片方だけが先に効き始めるということはありません。同じ不足を、違う向きから埋めているだけだからです。
以下、実績の金利で計算します。
計算の前提
設例は、公開済みの「未払利息とは何か」から引き継ぎます。 同じ数字を使うことで、2つの記事を続けて読めるようにしています。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 借入 | 3,500万円・35年(420回)・元利均等・変動金利 |
| 借入時期 | 2024年1月(初回返済も2024年1月) |
| 当初の適用金利 | 年0.475%(優遇後) |
| 金利の反映 | 短期プライムレートの実績を各見直し時期に反映 |
| 毎月返済額 | 90,469円(5年ルールにより据え置き) |
| 計算する時点 | 2026年10月の返済後(34回返済後) |
| その時点の残高 | 32,670,263円 |
| 契約上の残り回数 | 386回(420 − 34) |
| その時点の適用金利 | 年1.375% |
| 繰上返済の手数料 | インターネット無料/店頭窓口16,500円 |
| 計算 | scripts/calc-kikan-tanshuku-gaku-keigen.py |
① 据え置かれている返済額は、いまの金利では月14,309円足りません
まず、不足の大きさを数字にします。 残高32,670,263円を、残り386回・年1.375%で組み直すと、毎月返済額はいくらになるでしょうか。
残高 32,670,263円・386回・年1.375% → 毎月 104,778円
いま引き落とされているのは90,469円です。 差は14,309円です。
| 金額 | |
|---|---|
| いまの毎月返済額(5年ルールで据え置き) | 90,469円 |
| いまの金利・残り回数で組み直した場合 | 104,778円 |
| 不足 | 14,309円/月 |
この14,309円が、5年ルールが猶予している金額です。 免除されたわけではないので、元金の減りが遅れる形で残高に積み上がっています。
三菱UFJ銀行は「金利上昇時、返済額はすぐには変わらず、返済額のうち利息分が増え、元金の返済が減少します」と説明しています。さらに「適用利率が急上昇して利息分だけで返済額を超えてしまった場合、超過分は未払利息として翌月以降に繰り延べします」とも書いています。いまは利息が返済額を超える段階には届いていませんが、元金の減りが遅れる段階には入っています。回数で見ると、80.4回ぶん足りていません
同じことを、期間で見ます。 返済額90,469円を据え置いたまま年1.375%で払い続けると、払い切るまでに何回かかるでしょうか。
残高 32,670,263円・返済額 90,469円・年1.375% → 466.4回
契約上の残り回数 → 386回
差 → 80.4回(約6.7年)
80.4回ぶん足りていません。 5年ルールの見直しで返済額が上がるので実際にこの回数になるわけではありませんが、いまの返済額では契約上の予定に届いていないことが回数で見えます。
② 100万円を繰り上げると、どちらの型でも「効きません」
ここが本題です。 2026年10月の返済後に100万円を繰り上げた場合を、両方の型で計算します。
最終返済期限繰上方式(期間短縮型)
返済額を90,469円のまま据え置き、残高を31,670,263円に減らします。
| 回数 | |
|---|---|
| 繰上返済前(払い切るまで) | 466.4回 |
| 繰上返済後(払い切るまで) | 447.7回 |
| 縮んだ分 | 18.7回 |
| 契約上の残り回数 | 386回 |
| 予定にまだ足りない分 | 61.7回 |
18.7回ぶん縮みました。 しかし契約上の386回には61.7回足りません。「最終返済期限が前に倒れた」状態にはなっていないので、返済期間が短くなったとは言えません。 銀行の注意書きが指しているのはこの状態です。
返済額再計算方式(返済額軽減型)
残り386回といまの適用金利1.375%で、返済額を計算し直します。
| 金額 | |
|---|---|
| いまの毎月返済額 | 90,469円 |
| 再計算後の毎月返済額 | 101,571円 |
| 差 | +11,102円/月 |
| 年間 | +133,224円(11,102円×12) |
返済額を減らすための手続きで、毎月11,102円増えました。
残高は100万円減っているのに増えるのは、再計算にいまの金利が使われるからです。 据え置かれていた90,469円は0.475%で計算された金額で、再計算は1.375%で行われます。100万円の繰上返済では、金利差の分を打ち返せていないということです。
③ 効き始める額は、2つの型で同じ
では、いくら繰り上げれば効くのでしょうか。 2つの型それぞれで、境目になる残高を出します。
| 型 | 境目の条件 | 境目の残高 | 必要な繰上返済額 |
|---|---|---|---|
| 返済額再計算方式 | 再計算後の返済額が90,469円以下になる | 28,208,570円 | 4,461,693円 |
| 最終返済期限繰上方式 | 払い切るまでが386回以内に収まる | 28,208,570円 | 4,461,693円 |
同じ額になりました。約446万円です。
偶然ではありません。 「返済額90,469円で386回で払い切れる残高」と「残高を386回で払うときの返済額が90,469円になる残高」は、同じ式を逆から解いているだけです。据え置かれた返済額の不足を埋め切る額が、両方の型の境目になります。
| しない466.4回 | 100万円447.7回 | 200万円429.4回 | 300万円411.5回 | 447万円385.9回 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 契約上の残り386回の範囲 | 386 | 386 | 386 | 386 | 385.9 |
| 予定を超える分 | 80.4 | 61.7 | 43.4 | 25.5 | 0 |
| 合計 | 466.4 | 447.7 | 429.4 | 411.5 | 385.9 |
下の濃い帯は、いちばん右まで高さがほとんど変わりません。契約上の残り回数は386回で固定だからです。減っているのは上の薄い帯、つまり予定を超えてしまう分です。点線で結んだとおり、100万円で61.7回、300万円でも25.5回残り、447万円でようやくゼロになります。ここまで繰り上げないと「最終返済期限が前に倒れる」状態になりません。
同じ金額を返済額再計算方式に当てはめると、鏡のような動きをします。
| 繰上返済額 | 残高 | 再計算後の返済額 | いまとの差 |
|---|---|---|---|
| しない(参考) | 32,670,263円 | 104,778円 | +14,309円 |
| 100万円 | 31,670,263円 | 101,571円 | +11,102円 |
| 200万円 | 30,670,263円 | 98,364円 | +7,895円 |
| 300万円 | 29,670,263円 | 95,157円 | +4,688円 |
| 447万円 | 28,200,263円 | 90,442円 | −27円 |
300万円を繰り上げても、まだ毎月4,688円増えます。 447万円でようやく27円下がります。
④ 未払利息が出る金利の水準は、型で動き方が違います
ここは期間短縮型に明確な利点があります。 未払利息が出る金利は、次の式で出ます(計算の根拠は「未払利息とは何か」)。
未払利息が出る金利 = 毎月返済額 ÷ 残高 × 12 × 100(%)
| 繰上返済 | 型 | 残高 | 返済額 | 未払利息が出る金利 |
|---|---|---|---|---|
| しない | — | 32,670,263円 | 90,469円 | 3.323% |
| 100万円 | 期間短縮型 | 31,670,263円 | 90,469円 | 3.428% |
| 100万円 | 返済額軽減型 | 31,670,263円 | 101,571円 | 3.849% |
| 300万円 | 期間短縮型 | 29,670,263円 | 90,469円 | 3.659% |
| 300万円 | 返済額軽減型 | 29,670,263円 | 95,157円 | 3.849% |
| 447万円 | 期間短縮型 | 28,200,263円 | 90,469円 | 3.850% |
| 447万円 | 返済額軽減型 | 28,200,263円 | 90,442円 | 3.849% |
期間短縮型は、繰り上げた分だけ水準が上がります。 分母の残高だけが小さくなるためです。3.323%から3.428%へ、0.105ポイント上がりました。
返済額軽減型は、金額を変えても3.849%のままです。 残高と返済額が同じ比率で動くので、分数の値が変わりません。ただし3.849%という高い水準は、返済額が上がった結果です。 毎月の支払いを増やして未払利息から離れているだけなので、有利になったわけではありません。
そして境目の447万円では、両方が3.85%前後で一致します。 不足が埋まった時点で、2つの型は同じ状態になるためです。
⑤ 利息の総額だけで比べると、判断を誤ります
この設例では、利息の総額は返済額軽減型のほうが少なくなります。 ただし同じ条件の比較になっていません。
| 繰上返済 | 型 | 毎月返済額 | 残りの利息 | 削減額 | 払い切るまで |
|---|---|---|---|---|---|
| しない | — | 90,469円 | 9,521,110円 | — | 467回 |
| 100万円 | 期間短縮型 | 90,469円 | 8,832,451円 | 688,659円 | 448回 |
| 100万円 | 返済額軽減型 | 101,571円 | 7,536,218円 | 1,984,892円 | 387回 |
| 447万円 | 期間短縮型 | 90,469円 | 6,707,846円 | 2,813,264円 | 386回 |
| 447万円 | 返済額軽減型 | 90,442円 | 6,710,523円 | 2,810,587円 | 387回 |
100万円の行を見てください。 返済額軽減型の削減額は期間短縮型の約2.9倍です。しかし毎月11,102円多く払っています。 払い切るまでの回数も448回から387回へ61回短くなっています。多く払って早く終わらせているので、利息が少なくなるのは当然です。
この結果は、銀行の説明と逆に見えます。 三菱UFJ銀行は返済額再計算方式について、こう書いています。
総返済額は一部繰上返済を行う前より減りますが、「最終返済期限繰上方式」に比べると多くなります。
逆転して見えるのは、この設例で返済額再計算方式が返済額を下げていないからです。 銀行の記述は、再計算で返済額が下がる(=毎月の負担が軽くなる)ことを前提にしています。金利が上がった後の据え置き状態では、再計算で返済額が90,469円から101,571円へ上がるため、前提が成り立っていません。両者が矛盾しているのではなく、比べている状態が違います。
447万円の行では、ほぼ同じになります。 両方とも返済額が90,469円前後に揃うので、比較の条件がそろうためです。比べるなら、毎月の支払いと利息の両方を並べてください。
⑥ 手数料と手続きの違い
費用と期限も、方式で違います。
| 項目 | 最終返済期限繰上方式 | 返済額再計算方式 |
|---|---|---|
| 指定できる繰上返済日 | 次回の毎月返済日のみ | 次回の毎月返済日までの任意の営業日 |
| 手数料(インターネット) | 無料 | 無料 |
| 手数料(店頭窓口) | 16,500円 | 16,500円 |
| 申し込み期限(インターネット) | 繰上返済日の2営業日前 | 同じ |
| 申し込み期限(店頭窓口) | 繰上返済日の10営業日前 | 同じ |
| 住宅ローン控除への影響 | 「適用が受けられなくなる可能性があります」 | 記載なし |
最終返済期限繰上方式には、住宅ローン控除の注意が付いています。 住宅ローン控除には償還期間10年以上という要件があり、繰上返済で期間を縮めてこれを満たさなくなると、控除そのものが使えなくなります。
ただし「残りの期間が10年を切ると使えない」という意味ではありません。 国税庁の質疑応答事例「繰上返済等をした場合の償還期間」は、判定の仕方をこう書いています。
繰り上げて支払ったことにより償還期間が短くなったとしても、当初の契約により定められていた最初に償還した月から、その短くなった償還期間の最終の償還月までの期間が10年以上であれば、本年以後も住宅借入金等特別控除を受けることができます。
数えるのは、借入後の最初の返済月から、縮めた後の最終返済月までの通算です。 最初の返済月を1回目として数えて120回目までが10年なので、設例のように2024年1月から返済を始めた人なら、縮めた後の最終返済月が2033年12月以後に残っていれば要件を満たします(2024年1月を1回目とすると120回目が2033年12月)。「残り10年」ではなく「通算10年」です。 根拠は租税特別措置法第41条第1項と、租税特別措置法関係通達41-19とされています。
原文は月単位の例を挙げていません。 10年を120か月と置いて、最初の返済月を1回目として数えた結果です。境目にあたる月(設例なら2033年12月)になる額を繰り上げるときは、繰上返済の前に金融機関と税務署で確認してください。控除がある間の繰上返済は「住宅ローン控除がある間の繰り上げ返済 ― 控除はいくら減るか」で計算しています。
もう一つ、戻せない点があります。 同行は最終返済期限繰上方式について「さまざまな出費で毎月の返済負担が大きくなった場合でも再度返済期間の延長はできません」としています。縮めた期間は戻りません。
同行は「ローンの種類により、あらかじめ一部繰上返済の返済方式が定められている場合もあります」ともしています。2つから選べるとは限りません。あなたの数字で確かめる手順
必要なのは4つの数字です。返済予定表(ご返済のお知らせ)に全部載っています。
① 残高・毎月返済額・残り回数・いまの適用金利を書き出す。
残り回数は「当初の回数 − 返済済みの回数」です。繰上返済をしたことがある場合は、返済予定表の最終返済日から数えてください。
② いまの金利で組み直した場合の返済額を出す。
毎月返済額 = 残高 × i × (1+i)^n ÷ ((1+i)^n − 1)
i = いまの適用金利 ÷ 12
n = 残り回数
①の返済額との差が、据え置かれている不足です。 設例では14,309円でした。
③ 境目の繰上返済額を出す。
境目の残高 = 毎月返済額 × (1 − (1+i)^−n) ÷ i
境目の繰上返済額 = いまの残高 − 境目の残高
この額を下回る繰上返済では、期間は短くならず、返済額も下がりません。 設例では4,461,693円でした。
④ 未払利息が出る金利を、型ごとに出す。
期間短縮型 = いまの毎月返済額 ÷(残高 − 繰上返済額)× 12 × 100
返済額軽減型 = 再計算後の返済額 ÷(残高 − 繰上返済額)× 12 × 100
⑤ 繰上返済とは別に、控除の減少を確認する。
控除がある期間中なら、繰上返済で年末残高が減り、控除額も減ります。ただし納めた税額が上限なので、控除額が減っても実際には損をしない人がいます。 繰り上げ返済シミュレーター(住宅ローン控除つき)で、利息の削減と控除の減少を同時に出せます。
境目に届かない額なら、繰上返済が無駄という意味ではありません。 残高が減れば利息は減ります。設例でも100万円の期間短縮型で688,659円の利息が減りました。変わらないのは「最終返済期限が前に倒れるか」と「毎月の引き落としが下がるか」で、手続きの名前が約束していることだけです。まとめ
- 三菱UFJ銀行は「金利上昇局面では、一部繰上返済額によって『最終返済期限繰上方式』でも返済期間が短くならない場合や、『返済額再計算方式』でも返済額が増える場合もあります」と書いている。 一般にいう期間短縮型・返済額軽減型が、同行では別の名前で呼ばれている
- 原因は5年ルールで据え置かれた返済額が、いまの金利では足りていないこと。設例(残高32,670,263円・返済額90,469円・残り386回・年1.375%)では、組み直すと104,778円になり、月14,309円足りない
- 回数で見ると、いまの返済額のままでは払い切るのに466.4回かかる。契約上の残りは386回で、80.4回ぶん足りていない
- 100万円を繰り上げても、どちらの型も効かない。 期間短縮型は18.7回縮むが予定に61.7回足りず、返済額軽減型は再計算で101,571円(+11,102円/月、年+133,224円)に増える
- 効き始める額は2つの型で同じ、約446万円(4,461,693円)。 境目の残高は両方とも28,208,570円。同じ式を逆から解いているため一致する
- 未払利息が出る金利の水準は、期間短縮型だけが上がる。 繰上返済なしで3.323%、100万円の期間短縮型で3.428%。返済額軽減型は残高と返済額が同じ比率で動くため3.849%のまま動かない(この高さは返済額が上がった結果で、有利になったわけではない)
- 利息の総額だけで比べると判断を誤る。 100万円で期間短縮型が688,659円、返済額軽減型が1,984,892円の削減になるが、後者は毎月11,102円多く払っている。毎月の支払いと利息を並べて見る
- 手続きの違いは繰上返済日の指定(期間短縮型は次回の毎月返済日のみ)と住宅ローン控除(期間短縮型には「適用が受けられなくなる可能性があります」の注意)。手数料はインターネット無料・店頭窓口16,500円
- 縮めた期間は戻せない。 同行は「再度返済期間の延長はできません」としている。方式が選べない商品もある