税金

育休中の社会保険料免除と手取り ― 住民税だけが残る理由

育児休業中は「手取り10割」になる、と説明されることがあります。これは厚生労働省がそう書いているためです。

育児休業中は申出により健康保険・厚生年金保険料が免除され、勤務先から給与が支給されない場合は雇用保険料の負担はありません。また、育児休業等給付は非課税です。このため、休業開始時賃金日額の80%の給付率で手取り10割相当の給付となります。ただし、休業開始時賃金日額の上限額(P5及びP16参照)があることにご留意ください。

厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」(2026年8月1日改訂版)1ページ(PDFファイルでは3枚目)の※2。太字は引用者。

この注記には、条件が4つ書かれています。健康保険・厚生年金保険料が免除されること、雇用保険料の負担がないこと、給付が非課税であること、そして上限額があること。上限額は同じ資料に16,540円(休業開始時賃金日額・令和9年7月31日までの額)と書かれています。

そして、この4つのどこにも住民税は出てきません。

結論

育児休業で免除されるのは、健康保険料と厚生年金保険料です。雇用保険料は免除の対象ではありませんが、実際に支払われた賃金に料率を掛けて計算するので、賃金が支払われなければ負担は生じません。所得税も、育児休業給付が非課税とされているためかかりません。

住民税だけが残ります。しかも住民税は、いま受け取っている給付にかかるのではありません。前年の所得にかかります。つまり、収入がいちばん下がっている時期に、フルタイムで働いていた年の所得にもとづく住民税を納めることになります。効くのが1年遅れているという構造です。

もう一つ、給付の側にも見落としがあります。給付の基礎になるのは月々の賃金だけで、賞与は入りません。月給が同じなら、賞与がある人もない人も受け取る額は同じです。年収に対する割合で見ると、賞与の比率が高い人ほど落ち込みが大きくなります。

そして賞与の保険料が免除されるかどうかは、育児休業の長さで決まります。短い育児休業では免除されません。ここは月々の保険料と条件が違います。

「10割」は、月々の給与だけを、住民税を除いて見たときの話です。以下、実際にいくらになるかを計算します。

計算の前提

項目条件
勤務先の健康保険全国健康保険協会(協会けんぽ)大阪支部
年齢40歳未満(介護保険第2号被保険者に該当しない)
標準報酬月額30万円(月給30万円)
ケースA賞与なし(年収360万円)
ケースB賞与が年2回・1回60万円(年収480万円)。月給はケースAと同じ
扶養親族なし(生まれる子は16歳未満なので扶養控除の対象外)
その他の控除生命保険料控除・地震保険料控除などは無いものとする
育児休業賃金は支払われず、賞与も支給されないものとする
保険料率健康保険10.13%/子ども・子育て支援金0.23%/厚生年金18.300%(令和8年3月分から。子ども・子育て支援金は令和8年4月分から)
雇用保険料率一般の事業・労働者負担 1,000分の5(令和8年度)
所得税は令和8年分、住民税は令和9年度分の税制で計算した。住民税は標準税率(均等割の超過課税は無いものとする)
★月給30万円・賞与60万円という金額は説明のための架空の例示で、実在する誰かの給与ではありません。保険料率・給付率・上限額はすべて執筆時点の公式資料の実数です。計算は scripts/calc-ikukyu-shakaihokenryo.mjs で行い、出力を転記しました。

① 何が免除され、何が残るのか

育休中の扱い根拠
健康保険料免除される健康保険法159条
厚生年金保険料免除される厚生年金保険法81条の2
介護保険料(40〜64歳)免除される(健康保険料と一体で徴収されるため)健康保険法159条
雇用保険料賃金が支払われなければ負担が生じない賃金に料率を掛けて計算するため
所得税かからない(給付が非課税)雇用保険法12条・61条の6第5項
住民税かかる地方税法32条・318条

免除の根拠は「徴収しない」という定め方です。

育児休業等をしている被保険者(…)が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める月の当該被保険者に関する保険料(その育児休業等の期間が一月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料に限る。)は、徴収しない。

健康保険法159条1項。厚生年金保険法81条の2第1項もほぼ同じ文言です。太字は引用者。

事業主の申出が要ります。本人が育児休業を申し出るだけでは足りず、事業主が「育児休業等取得者申出書」を提出してはじめて免除されます。日本年金機構は、この申出を「育児休業等の期間中または育児休業等終了後の終了日から起算して1カ月以内の期間中に行わなければなりません」としています。

免除されるのは本人負担分だけではありません。

申し出により、健康保険・厚生年金保険の保険料は被保険者・事業主両方の負担が免除されます。

所得税がかからないのは、非課税と定めた条文があるためです。

租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として課することができない。

雇用保険法12条(公課の禁止)。育児休業等給付については、同法61条の6第5項が「第十条の三から第十二条までの規定は、育児休業等給付について準用する。」としています。

住民税だけが、この仕組みの外にあります。

② 免除の条件は、月々の保険料と賞与で違う

ここが実務でいちばん誤解されるところです。令和4年10月1日以降に開始した育児休業について、条件が2つに分かれました。

免除される条件
月々の保険料開始月と終了日の翌日が属する月が違うなら、開始月から終了日の翌日が属する月の前月まで。同じ月に始まって同じ月に終わる場合は、その月に14日以上取っていれば、その月が免除
賞与の保険料賞与月の末日を含んだ、連続した1か月を超える育児休業等を取得した場合に限り免除

条文はこう書いています。

その育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業等が終了する日の翌日が属する月とが同一であり、かつ、当該月における育児休業等の日数として厚生労働省令で定めるところにより計算した日数が十四日以上である場合

健康保険法159条1項2号。太字は引用者。

賞与の側は、条文の括弧書きが根拠です。「その育児休業等の期間が一月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料に限る」。つまり1か月以下の育児休業では、月々の保険料しか免除されません。日本年金機構の説明はこうです。

賞与にかかる保険料(育児休業等期間に月末が含まれる月に支給された賞与にかかる保険料)についても免除されます。ただし、令和4年10月1日以降に開始した育児休業等については、当該賞与月の末日を含んだ連続した1カ月を超える育児休業等を取得した場合に限り免除となります。

日本年金機構。太字は引用者。

産後パパ育休を2週間だけ取る場合、月々の保険料は免除されますが、賞与の保険料は免除されません。「14日以上なら免除」という覚え方だけで賞与も免除されると考えると、手取りの見込みが狂います。

③ 給付の基礎に、賞与は入らない

育児休業給付金の額は、次の式で決まります。

育児休業給付金 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
                  (育児休業の開始から181日目以降は50%)
出生後休業支援給付金 = 休業開始時賃金日額 × 休業期間の日数(28日が上限)× 13%

問題は「休業開始時賃金日額」の中身です。厚生労働省の定義はこうです。

同一の子に係る最初の出生時育児休業又は育児休業開始前(…)直近6か月間(…)に支払われた賃金(臨時に支払われる賃金と3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く)の総額を180で除して得た額(上限額及び下限額があります。)をいいます。

厚生労働省の同資料16ページ。太字は引用者。

年2回の賞与は「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」なので、入りません。

したがって、月給30万円のケースAとケースBでは、休業開始時賃金日額はどちらも10,000円(30万円×6か月÷180日)で同じです。受け取る給付も同額になります。

支給単位期間(30日)給付額
給付率67%(育児休業の開始から180日目まで)201,000円
67%+出生後休業支援給付金13%の上乗せ(28日分が上限)237,400円(201,000円+36,400円)
給付率50%(181日目以降)150,000円

13%の上乗せは、自動では付きません。厚生労働省は、要件を2つ並べています。

①同一の子について、育児休業給付金が支給される育児休業を対象期間※1に通算※2して14日以上取得した被保険者であること。

②被保険者の配偶者が、(…)通算して14日以上の育児休業※1を取得したこと、または、子の出生日の翌日において「配偶者の育児休業を要件としない場合※2」に該当していること。

厚生労働省の同資料13ページ。太字は引用者。※1の「対象期間」は、産後休業をしていない場合(父親など)は「子の出生日または出産予定日のうち早い日」から「遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日」まで、産後休業をした場合(母親)は同じく16週間を経過する日の翌日までの期間です。

つまり、上乗せは「自分も14日以上」「配偶者も14日以上(または配偶者の育休を要件としない事由に該当)」の両方を満たしたときだけです。 自分が対象期間に10日しか休まなければ、配偶者がどれだけ長く休んでも上乗せは付かず、67%のままになります。

通常の月と並べる

通常の月に引かれている額を確認します。標準報酬月額30万円・大阪支部・40歳未満の場合です。

項目月額(本人負担)
健康保険(折半額)15,195円
子ども・子育て支援金(折半額)345円
厚生年金(折半額)27,450円
社会保険料の小計42,990円
雇用保険料(1,000分の5)1,500円
合計44,490円
ケースBはこれに加えて、賞与1回(60万円)ごとに社会保険料85,980円と雇用保険料3,000円がかかります。年間の合計は、ケースAが533,880円、ケースBが711,840円です。
300,000A 通常月201,000A 育休400,000B 通常月201,000B 育休
A 通常月A 育休B 通常月B 育休
手取り239,318188,492314,644181,975
住民税12,50812,50819,02519,025
所得税3,68407,0110
社会保険料・雇用保険料44,490059,3200
合計300,000201,000400,000201,000

育休の棒では、社会保険料と所得税の帯が消えています。残っているのは住民税だけです。ケースAとケースBの育休の棒は、給付額が同じなのに住民税が違うため高さが少しずれます。ケースBは通常月との落差が大きく、これは賞与が給付の基礎に入らないためです。

通常の月と、育児休業給付を受けている月(給付率67%)の内訳。ケースBの「通常の月」は賞与を12か月に割り振った額。

同じ月給30万円でも、育休中の手取りが通常の月の何%になるかは、賞与の有無で大きく変わります。

通常の月の手取り育休(67%)の手取り通常月に対する割合
ケースA(賞与なし)239,318円188,492円78.8%
ケースB(賞与年120万円)314,644円181,975円57.8%
通常の月の手取りは、年間の手取り(ケースA 2,871,811円/ケースB 3,775,730円)を12で割った額です。育休中の手取りは、給付額から住民税の月割額(ケースA 12,508円/ケースB 19,025円)を引いたものです。

ケースBの人は、給付の案内に書かれた「67%」を見て家計を組み立てると、実際には通常の月の6割を切ります。

「10割相当」を確かめる

厚生労働省の「手取り10割相当」は、80%の給付率のときの話です。ケースA(賞与なし)で確かめます。

金額通常の月の手取りに対する割合
通常の月の手取り239,318円
給付(67%+13%・住民税を引く前)237,400円99.2%
同(住民税12,508円を引いた後)224,892円94.0%

住民税を除けば、たしかにほぼ10割です。厚生労働省の記載が誤っているわけではありません。この注記に住民税が入っていないだけです。そして上乗せの13%が受けられるのは最大28日分なので、この状態が続くのは1か月ほどです。

念のために付け加えると、厚生労働省が住民税を隠しているわけでもありません。別のリーフレットには、はっきり書かれています。

住民税は前年の収入により今年度の税額が決定されますので、産前・産後休業中、育児休業中、産後パパ育休中、介護休業中も支払う必要があります。ただし、出産育児一時金、出産手当金、育児休業等給付、介護休業給付は非課税ですので、次年度の住民税の決定を行う上の収入には算定されません。

厚生労働省「育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します」(令和6年度版)2ページ。太字は引用者。問題は、この記述と「手取り10割相当」が別の資料に載っていて、突き合わせる機会が無いことです。

29日目からは67%に戻り、育児休業の開始から181日目以降は50%になります。ケースAでは、67%の期間で188,492円(通常月の78.8%)、50%の期間で137,492円(同57.5%)です。

④ 住民税は1年遅れでやってくる

住民税が免除されない理由は、課税のもとになるものが「前年の所得」だからです。

所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。

地方税法32条1項(道府県民税)。市町村民税も同じ仕組みです。太字は引用者。

個人の市町村民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

地方税法318条。

育児休業給付は非課税なので、住民税の所得にも入りません。入らないのは事実ですが、それが効いてくるのは翌年度です。

年度住民税のもとになる所得育休との関係
育休に入る年の6月〜翌年5月前年(フルタイムで働いた年)満額の住民税を、収入が減った状態で払う
その翌年の6月〜育休で所得が減った年住民税が下がる。ただし、そのころには復職している

負担がいちばん重いのは、収入がいちばん少ない時期です。

ケースAでは年150,100円(所得割145,100円+均等割4,000円+森林環境税1,000円)、ケースBでは年228,300円(所得割223,300円+同5,000円)です。月に直すとそれぞれ12,508円と19,025円で、これが育休中も毎月出ていきます。

均等割の標準税率は道府県民税1,000円(地方税法38条)と市町村民税3,000円(同310条)です。森林環境税1,000円は国税ですが、住民税と併せて賦課徴収されます。均等割に独自の超過課税を上乗せしている自治体では、これより数百円多くなります。

なお、育休で所得が減った年を基準にする年度は、所得割がゼロになるだけでなく、均等割もかからないことがあります。地方税法295条3項は、前年の合計所得金額が「政令で定める基準に従い当該市町村の条例で定める金額以下である者に対しては、均等割を課することができない」と定めています。

払い方も変わる

給与が支払われなくなると、給与天引き(特別徴収)ができなくなります。

前項の特別徴収義務者は、(…)個人の市町村民税の納税義務者が当該特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなつた場合には、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額(…)は、これを徴収して納入する義務を負わない。ただし、その事由が当該年度の初日の属する年の六月一日から十二月三十一日までの間において発生し、かつ、(…)納税義務者からの申出があつた場合及びその事由がその年の翌年の一月一日から四月三十日までの間において発生した場合には、当該納税義務者に対してその年の五月三十一日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り、(…)当該月割額の全額(…)を徴収し(…)なければならない。

地方税法321条の5第2項。太字は引用者。

読み取れることは4つあります。

  1. 原則として、事業主は翌月以降の天引きをしなくてよくなる。その場合は自分で納付書により納める(普通徴収)に切り替わるのが一般的です
  2. 6月1日から12月31日までに休業に入る場合は、本人の申し出があれば徴収される。ただし、月々の天引きが続くのではありません。条文が定めているのは、5月31日までに支払われるべき給与・退職手当等からの残り全額の一括徴収です
  3. 1月1日から4月30日までに休業に入る場合は、申し出がなくても一括徴収される
  4. ただし2・3のいずれも、5月31日までに支払われるべき給与又は退職手当等が「当該月割額の全額に相当する金額を超える」ときに限られる。残額に足りる給与等が無ければ、一括徴収は行われません

3が意外と重くのしかかります。年明けから育児休業に入ると、最後の給与から住民税の残り数か月分がまとめて引かれることがあります。育休に入る直前の給与が想定より少ない、という形で表れます。

実際にどう扱うかは勤務先の運用にもよります(立て替えて復帰後に精算する会社もあります)。休業に入る前に、いつ・いくら払うことになるかを確認しておくのが確実です。

⑤ 月給49万6,200円を超えると、給付は頭打ちになる

休業開始時賃金日額には上限があります。

休業開始時賃金日額の上限額16,540円
下限額3,203円
給付率67%・支給日数30日の支給上限額332,454円
出生後休業支援給付金(13%)・28日の支給上限額60,205円
厚生労働省の同資料5ページ・16ページ。いずれも令和9年7月31日までの額です。

賃金日額は「直近6か月の賃金÷180」なので、上限16,540円に対応する月給は496,200円です。これを超えると、月給が上がっても給付は増えません。

01020304050(万円)月給496,200円で上限33473040506070(万円(月給))
実際に受け取れる額上限が無かった場合

2本の線は月給500,000円のあたりで分かれ、その先は実線が水平になります。月給が上がっても給付は332,454円で止まるという意味です。月給700,000円の人は、月給の47.5%しか受け取れません。

月給ごとの育児休業給付金(給付率67%・支給単位期間30日)。上限が無かった場合と比べたもの。
月給賃金日額給付(67%・30日)月給に対する割合
300,000円10,000円201,000円67.0%
400,000円13,333.33円268,000円67.0%
500,000円16,666.67円 → 上限16,540円332,454円66.5%
600,000円20,000円 → 上限16,540円332,454円55.4%
700,000円23,333.33円 → 上限16,540円332,454円47.5%
賃金日額は「月給×6か月÷180日」なので、月給が30の倍数でないと1円未満の端数が出ます。給付額は端数を丸めずに計算した額です。

上限額は毎年8月1日に改定されます。休業開始時賃金日額は、雇用保険法61条の7第6項が同法17条を適用して算定するものと定めており、その賃金日額の上限・下限は、同法18条により平均給与額の変動に応じて「その翌年度の八月一日以後」変更されます。執筆時点の額は令和9年7月31日までのものなので、いつ休業に入るかで変わります。

⑥ 免除されても、年金は減らない

保険料が免除されると将来の年金が減るのではないか、という心配をよく聞きます。減りません。

厚生年金保険法81条の2は、保険料の「徴収は行わない」と定めているだけで、標準報酬月額の記録を消す定めは置いていません。厚生労働省もこう書いています。

※社会保険料の免除を受けても、健康保険の給付は通常通り受けられます。また、免除された期間分も将来の年金額に反映されます。

厚生労働省「育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します」(令和6年度版)7ページ。太字は引用者。

気をつけるべきなのは、むしろ復帰した後です。ここには、性格の違う届出が2つあります。どちらも本人の申出が要ります。

復帰後の届出① 保険料を下げる(育児休業等終了時報酬月額変更届)

時短勤務で給与が下がっても、標準報酬月額は自動では下がりません。通常の改定(随時改定)は、健康保険法43条1項が「その者の標準報酬月額の基礎となった報酬月額に比べて、著しく高低を生じた場合において、必要があると認めるとき」に限っているからです。育休明けには、これとは別の改定があります。

保険者等は、(…)育児休業等を終了した被保険者が、当該育児休業等を終了した日(…)において当該育児休業等に係る三歳に満たない子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、育児休業等終了日の翌日が属する月以後三月間(…)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。

健康保険法43条の2第1項。厚生年金保険法23条の2第1項もほぼ同じ文言です。太字は引用者。

日本年金機構は、この改定の条件を「随時改定に該当しなくても」「これまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じること」「育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月のうち、少なくとも1カ月における支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること」と説明しています。改定が効くのは4カ月目の標準報酬月額からです。

この届出を出さないと、時短で下がった給与のまま、育休前の高い保険料を払い続けることになります。

復帰後の届出② 年金を下げない(養育期間標準報酬月額特例申出書)

①で標準報酬月額を下げると、保険料は下がりますが、そのままでは将来の年金額も下がります。これを打ち消す特例があります。

三歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者(…)が、主務省令で定めるところにより実施機関に申出(…)をしたときは、(…)その標準報酬月額が(…)従前標準報酬月額を下回る月(当該申出が行われた日の属する月前の月にあつては、当該申出が行われた日の属する月の前月までの二年間のうちにあるものに限る。)については、従前標準報酬月額を(…)平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。

厚生年金保険法26条1項。太字は引用者。

申出をしないと適用されません。そして、さかのぼれるのは申出をした月の前月までの2年間だけです。復帰して時短で働き始めたら、この届出を出したかを確認してください。2年を超えると取り返せません。

日本年金機構は、①と②の関係を「保険料負担、健康保険の給付は、実際の標準報酬月額にもとづいて計算」と整理しています。①で下げた標準報酬月額が保険料と健康保険の給付に効き、②のみなし措置は厚生年金の年金額の計算だけに効く、という分け方です。

日本年金機構「子育て支援制度の各種手続き(概要)」。①は「育児休業等終了時報酬月額変更届」、②は「養育期間標準報酬月額特例申出書」を事業主経由で提出します。②は子が3歳未満である期間が対象で、3歳未満の子を養育しなくなったときは「養育期間標準報酬月額特例終了届」が要ります。

あなたの数字で確かめる手順

① 休業開始時賃金日額を出す

休業開始時賃金日額 = 休業開始前の直近6か月の賃金の総額 ÷ 180
  ※賞与(3か月を超える期間ごとに支払われる賃金)は含めない
  ※16,540円が上限、3,203円が下限(令和9年7月31日までの額)

給与明細6か月分の「支給額合計」から、賞与を除いて足してください。通勤手当などの毎月の手当は含みます。

② 給付の月額を出す

67%の期間 = 賃金日額 × 30日 × 0.67
50%の期間(181日目以降)= 賃金日額 × 30日 × 0.50
上乗せ(最大28日分)= 賃金日額 × 日数 × 0.13
  ※上乗せは、自分が対象期間に通算14日以上取得し、かつ配偶者も通算14日以上
    取得した(または配偶者の育休を要件としない事由に該当する)場合だけ

③ 住民税の年額を確認する

5月か6月に届く「住民税決定通知書」を見てください。年税額が書かれています。それを12で割った額が、育休中も毎月出ていきます。

④ 差し引きする

育休中の1か月の手取り = ②の給付額 − ③を12で割った額

これを、いまの手取り(賞与がある人は年間の手取りを12で割った額)と並べてください。そこではじめて、実際の落ち込みが見えます。

⑤ 賞与月をまたぐかを確認する

賞与が出る月の末日を含み、かつ連続して1か月を超える育児休業かを確認してください。超えなければ、賞与から保険料が引かれます。

まとめ

  • 育児休業で免除されるのは健康保険料と厚生年金保険料(健康保険法159条・厚生年金保険法81条の2)。事業主の申出が必要
  • 雇用保険料は賃金が支払われなければ負担が生じない。所得税は給付が非課税なのでかからない(雇用保険法12条・61条の6第5項)
  • 住民税だけは残る。前年の所得にかかるため(地方税法32条・318条)、収入がいちばん下がる時期に、働いていた年の税額を納めることになる
  • 月々の保険料は「同じ月に14日以上」で免除されるが、賞与の保険料は「賞与月の末日を含む連続1か月超」でないと免除されない。条件が違う
  • 給付の基礎に賞与は入らない。月給30万円なら、賞与が年120万円ある人もない人も給付は同額
  • その結果、通常の月に対する育休中の手取りは、賞与なしで78.8%、賞与年120万円で57.8% と大きく差がつく(給付率67%の期間)
  • 厚生労働省の「手取り10割相当」は、住民税を除けば99.2% でほぼ正しい。住民税を入れると94.0% になる。しかもこの状態は上乗せの28日分だけ
  • その上乗せ(13%)は自動では付かない。自分も配偶者も、対象期間に通算14日以上取得することが要件(配偶者の育休を要件としない事由に該当する場合を除く)
  • 休業開始時賃金日額の上限は16,540円月給496,200円を超えると給付は332,454円で頭打ちになり、月給70万円なら月給の47.5% しか受け取れない
  • 保険料が免除されても年金は減らない(厚生労働省「免除された期間分も将来の年金額に反映されます」)。効いてくるのは復帰後で、届出が2つある。どちらも本人の申出が要る
    • 保険料を下げる「育児休業等終了時報酬月額変更届」(健康保険法43条の2・厚生年金保険法23条の2)。随時改定に該当しなくても、1等級の差で改定できる。出さないと育休前の高い保険料が続く
    • 年金を下げない「養育期間標準報酬月額特例申出書」(厚生年金保険法26条)。さかのぼれるのは申出をした月の前月までの2年間だけ

育休の家計を見積もるときに落ちやすいのは、住民税と賞与の2つです。どちらも「給付率67%」という数字の外側にあります。

よくある質問

育休中に免除されるのは、どの保険料ですか?

健康保険料と厚生年金保険料です。健康保険法159条と厚生年金保険法81条の2により、事業主が申し出をしたときは、その保険料を徴収しないと定められています。免除されるのは本人負担分だけでなく事業主負担分も同じで、日本年金機構も「申し出により、健康保険・厚生年金保険の保険料は被保険者・事業主両方の負担が免除されます」としています。40歳から64歳の方が負担する介護保険料も、健康保険料と一体で徴収されているため同じように免除されます。なお雇用保険料は免除される仕組みではありませんが、雇用保険料は実際に支払われた賃金に料率を掛けて計算するので、育休中に賃金が支払われなければ負担は生じません。免除されないのは住民税です。住民税は前年の所得に対してかかるため、育児休業給付が非課税であることとは関係なく、働いていた前年分の税額を納めることになります。

「手取り10割」というのは本当ですか?

月々の給与だけを見て、住民税を計算に入れなければ、ほぼそのとおりです。厚生労働省は「育児休業中は申出により健康保険・厚生年金保険料が免除され、勤務先から給与が支給されない場合は雇用保険料の負担はありません。また、育児休業等給付は非課税です。このため、休業開始時賃金日額の80%の給付率で手取り10割相当の給付となります」としています。ただし同じ注記に「ただし、休業開始時賃金日額の上限額があることにご留意ください」と続きます。そして80%という給付率は、育児休業給付金の67%に出生後休業支援給付金の13%を上乗せしたもので、上乗せが受けられるのは最大28日分です。この上乗せは自動では付きません。厚生労働省は要件を2つ挙げており、「同一の子について、育児休業給付金が支給される育児休業を対象期間に通算して14日以上取得した被保険者であること」と、「被保険者の配偶者が(一定の期間に)通算して14日以上の育児休業を取得したこと、または、子の出生日の翌日において『配偶者の育児休業を要件としない場合』に該当していること」の両方が要ります。自分が10日しか休まなければ、配偶者がどれだけ長く休んでも上乗せは付きません。29日目からは67%に戻り、育児休業の開始から181日目以降は50%になります。住民税は免除されないので、実際の手取りはここからさらに減ります。

賞与にかかる保険料も免除されますか?

育児休業の長さによって変わります。健康保険法159条1項の括弧書きは「その育児休業等の期間が一月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料に限る」と定めており、1か月以下の育児休業では月々の保険料しか免除されません。日本年金機構は「令和4年10月1日以降に開始した育児休業等については、当該賞与月の末日を含んだ連続した1カ月を超える育児休業等を取得した場合に限り免除となります」としています。したがって、賞与月の月末を含んでいても、育児休業が1か月を超えなければ賞与の保険料は免除されません。産後パパ育休を2週間だけ取るようなケースでは、賞与の保険料は通常どおり引かれます。

月の途中で始めて月の途中で終わる育休でも、保険料は免除されますか?

同じ月に14日以上取っていれば免除されます。健康保険法159条1項2号は、育児休業を開始した月と終了する日の翌日が属する月が同一である場合について、「当該月における育児休業等の日数として厚生労働省令で定めるところにより計算した日数が十四日以上である場合」に、その月の保険料を徴収しないと定めています。これは令和4年10月1日以降に開始した育児休業から適用されている取扱いで、それ以前は「月末時点で育児休業中であること」が条件だったため、月の中ほどに2週間取っても免除されませんでした。開始月と終了月がまたがる場合は、開始した日の属する月から、終了する日の翌日が属する月の前月までが免除の対象になります。

育児休業給付の額は、賞与も含めた年収で計算されますか?

含まれません。給付の基礎になる休業開始時賃金日額は、厚生労働省の説明では、休業開始前の直近6か月間に支払われた賃金の総額を180で除して得た額で、その賃金からは「臨時に支払われる賃金と3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く」とされています。年2回の賞与は3か月を超える期間ごとに支払われる賃金にあたるので、賃金日額には反映されません。したがって、月給が同じであれば、賞与が年に120万円ある人も賞与がない人も、受け取る育児休業給付は同額です。年収に対する割合で見ると、賞与の比率が高い人ほど育休中の落ち込みは大きくなります。この点は「給付率67%」という表現からは読み取れません。

保険料が免除されると、将来の年金は減りますか?

減りません。厚生年金保険法81条の2は保険料を「徴収は行わない」と定めているだけで、標準報酬月額の記録が消えるわけではありません。厚生労働省も「社会保険料の免除を受けても、健康保険の給付は通常通り受けられます。また、免除された期間分も将来の年金額に反映されます」としています。むしろ注意すべきなのは復帰後で、本人の申出が要る届出が2つあります。1つ目は保険料を下げるための「育児休業等終了時報酬月額変更届」です。健康保険法43条の2・厚生年金保険法23条の2により、育児休業終了日に3歳未満の子を養育している被保険者が事業主を経由して申し出たときは、終了日の翌日が属する月以後3か月の報酬をもとに標準報酬月額を改定します。日本年金機構は、随時改定に該当しなくても1等級以上の差があれば改定できると説明しています。出さなければ、時短で給与が下がっても育休前の高い保険料を払い続けることになります。2つ目は年金を下げないための「養育期間標準報酬月額特例申出書」です。厚生年金保険法26条により、3歳未満の子を養育する被保険者が申出をしたときは、下がった月について従前の標準報酬月額を年金額の計算の基礎とみなします。この申出も事業主を経由して行いますが、条文上、申出の日の属する月の前月までの2年間より前にはさかのぼれません。届出を忘れたまま2年を超えると、その分は取り返せなくなります。

育休中の住民税はどうやって払うことになりますか?

勤務先からの給与がなくなると給与天引き(特別徴収)ができなくなるため、扱いが変わります。地方税法321条の5第2項は、納税義務者が特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなった場合、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額について、事業主は「これを徴収して納入する義務を負わない」と定めています。この場合は自分で納付書により納める普通徴収に切り替わるのが一般的です。ただし同項ただし書により、その事由が6月1日から12月31日までの間に発生して本人からの申出があった場合と、その事由が翌年1月1日から4月30日までの間に発生した場合は、5月31日までに支払われるべき給与や退職手当等で「当該月割額の全額に相当する金額を超えるもの」があるときに限り、残りの月割額の全額をそこから徴収することとされています。申出をしても月々の天引きが続くわけではなく、条文が定めているのは残額の一括徴収です。年明けから育休に入るときは、最後の給与から住民税がまとめて引かれることがあります。勤務先が立て替えて復帰後に精算する運用をとる場合もあるので、いつ・いくら払うことになるかは休業に入る前に確認しておくのが確実です。

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