2026年12月1日から、会社員のiDeCoの掛金の上限が上がります。
厚生労働省の資料は、第2号加入者(会社員や公務員)の拠出限度額を「企業年金と共通の拠出限度額に一本化したうえで、この共通拠出限度額について、月額6.2万円に引き上げられます」としています。企業年金のない会社員は、いままで月2.3万円でした。月3.9万円の増額です。
同じ時期に、住宅ローン控除も動いています。令和8年度税制改正の大綱で適用期限が令和12年12月31日まで5年延長され、認定住宅を新築して令和8年から令和12年までに入居した場合の借入限度額は4,500万円、19歳未満の扶養親族がいる世帯などでは5,000万円とされました。控除率は0.7%、控除期間は13年です。
この2つを両方使っている世帯では、掛金を増やした分がそのまま減税になるとは限りません。
結論
iDeCoの掛金は所得控除です。 所得を減らすことで、所得税額と住民税額を小さくします。住宅ローン控除は税額控除です。 計算し終えた所得税額から、直接差し引きます。
この2つには順番があります。 先に所得控除を引いて所得税額を出し、そこから住宅ローン控除を引きます。つまりiDeCoは、住宅ローン控除が差し引かれる相手そのものを小さくします。
住宅ローン控除は、納めるべき税金を超えて受け取ることはできません。 引ききれなかった分は翌年度の住民税から引けますが、そちらにも上限があります。上限まで使い切っている世帯では、iDeCoで所得税が減った分だけ、住宅ローン控除が使えなくなります。 税金が二重に減ることはありません。
これは制度の不備ではありません。 どちらも「納めた税金を返す」仕組みだからです。返す原資が先に無くなれば、返せるものも無くなります。
したがって、掛金を増やしたときに実際に手元に残る額は、世帯によって大きく変わります。 そして変わり方は年収で決まります。
本記事は、掛金をいくらにすべきかを勧めるものではありません。制度上どうなるかと、その金額を計算するところまでを扱います。計算の前提
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 世帯 | 夫婦と16歳未満の子2人。共働き(配偶者控除なし) |
| 住宅 | 認定住宅を新築し、令和8年中に入居 |
| 控除限度額 | 借入限度額5,000万円 × 0.7% = 35万円(19歳未満の扶養親族がいるため特例対象個人に該当) |
| 年末残高 | 3,357万円(2025年度フラット35利用者調査の全国平均の融資金と同額) |
| 控除可能額 | 3,357万円 × 0.7% = 234,900円(100円未満切捨て) |
| iDeCoの掛金 | なし / 月2.3万円(年27.6万円)/ 月6.2万円(年74.4万円) |
| 社会保険料 | 給与収入の15% |
| その他の所得控除 | 生命保険料控除などは無し |
| 税制 | 令和8年分の所得税と令和9年度の個人住民税 |
① 所得控除と税額控除は、引く場所が違う
言葉が似ているので混同されますが、効き方はまったく違います。
| 引く場所 | 減る額 | |
|---|---|---|
| 所得控除(iDeCoの掛金) | 所得から引く | 控除額 × 税率 |
| 税額控除(住宅ローン控除) | 税額から引く | 控除額そのもの |
国税庁は、iDeCoの掛金について「確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金」を小規模企業共済等掛金控除の対象とし、「控除できる金額は、その年に支払った掛金の全額です」としています。全額が所得から引かれます。
計算の順番はこうです。
給与収入
− 給与所得控除 → 給与所得
− 所得控除(社会保険料・基礎控除・iDeCoの掛金 …)
→ 課税総所得金額等
× 税率 − 速算表の控除額 → 所得税額 ←★ここが小さくなる
− 住宅ローン控除 ←★ここから引く
→ 納める所得税
iDeCoが効くのは上の段、住宅ローン控除が効くのは下の段です。 上の段で税額を減らすと、下の段で引ける相手が減ります。
② 住宅ローン控除には「使える枠」がある
控除可能額を全額受け取れるとは限りません。 住宅ローン控除は納めた税金から差し引く仕組みなので、納めた税金を超える部分は受け取れないからです。
使える枠 = 所得税額 + 住民税からの控除(上限あり)
住民税側の上限は、令和8年度税制改正の大綱に書かれています。
当該残額に相当する額を当該年分の所得税の課税総所得金額等の額に100分の5を乗じて得た額(最高9.75万円)の控除限度額の範囲内で減額する
課税総所得金額等の5%、最高97,500円です。 課税総所得金額等が195万円を超えると、97,500円で頭打ちになります。
ここで見落とされやすい点があります。 この上限の計算に使うのは所得税の課税総所得金額等です。iDeCoで所得控除が増えれば、この金額も小さくなります。つまり課税総所得金額等が195万円に届いていない世帯では、住民税から引ける上限そのものが下がります。
所得税額が減り、住民税の上限も下がる。 枠は二方向から縮みます。
前提の世帯で、枠がどう縮むか
年収500万円のケースで、控除可能額234,900円のうち実際に受け取れる額を計算しました。
| iDeCoなし | 月2.3万円 | 月6.2万円 | |
|---|---|---|---|
| 実際に受け取れる額 | 177,000 | 149,400 | 102,600 |
| 使えずに切り捨てになる額 | 57,900 | 85,500 | 132,300 |
| 合計 | 234,900 | 234,900 | 234,900 |
3本の棒は高さが同じです。控除可能額は234,900円のまま変わりません。変わっているのは色の境目で、掛金を増やすほど下の帯(実際に受け取れる額)が薄くなります。切り捨てになる額は57,900円から132,300円へ増えます。
控除可能額は変わっていません。 変わったのは、そのうち受け取れる割合です。
③ 掛金を増やしたとき、いくら減税されるか
年74.4万円(月6.2万円)を拠出した場合の、1年あたりの減税額です。 住宅ローン控除がない世帯と並べました。
| 給与収入 | 住宅ローン控除なし | 住宅ローン控除あり | 残る割合 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 111,600円 | 37,200円 | 33.3% |
| 500万円 | 111,600円 | 37,200円 | 33.3% |
| 600万円 | 135,100円 | 67,800円 | 50.2% |
| 700万円 | 166,800円 | 166,800円 | 100% |
| 800万円 | 223,200円 | 223,200円 | 100% |
| 年収400万円 | 年収500万円 | 年収600万円 | 年収700万円 | |
|---|---|---|---|---|
| 実際に減る税金 | 37,200 | 37,200 | 67,800 | 166,800 |
| 住宅ローン控除が使えなくなって消える分 | 74,400 | 74,400 | 67,300 | 0 |
| 合計 | 111,600 | 111,600 | 135,100 | 166,800 |
右端の年収700万円だけ、上の帯(消える分)がありません。所得税額が大きく、住宅ローン控除を引いてもなお余力が残るためです。左の2本では下の帯が全体の3分の1しかありません。
なぜ年収400万円と500万円で「3分の1」になるのか
偶然ではありません。前提の世帯では、年収400万円でも500万円でも、所得税の税率はどちらも5%です。
住宅ローン控除がない世帯であれば、iDeCoの掛金74.4万円で減る税金は次のとおりです。
所得税 74.4万円 × 5% = 37,200円
住民税 74.4万円 × 10% = 74,400円
合計 = 111,600円
住宅ローン控除がある世帯では、この2つがどちらも削られます。
| 何が起きるか | 減税額 | |
|---|---|---|
| 所得税分 | 所得税額はもともと住宅ローン控除で全額消えている。減っても納税額は0円のまま | 0円 |
| 住民税分 | 所得割は74,400円減るが、住民税から引ける上限(課税総所得金額等 × 5%)も37,200円下がる | 37,200円 |
所得税の37,200円はまるごと消え、住民税の74,400円も半分になります。 残るのは37,200円で、これは掛金74.4万円の5%にあたります。名目では15%効くはずの所得控除が、実質5%になっています。
年収600万円のケースでは、掛金を年74.4万円まで増やすと課税総所得金額等が195万円を下回り、所得税の税率が10%から5%に変わります。減税額135,100円が単純な「74.4万円 × 20%」にならないのはこのためです。④ 13年の合計で見る
住宅ローン控除の期間は13年です。 借入3,357万円・全期間固定年1.9%・35年の元利均等返済として年末残高を落とし、13年分を合計しました。
| 給与収入 | 受け取れる住宅ローン控除 (iDeCoなし) | 同 (年74.4万円拠出) | iDeCoの減税 (住宅ローン控除あり) | 同 (住宅ローン控除なし) |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 1,456,000円 | 488,800円 | 483,600円 | 1,450,800円 |
| 500万円 | 2,283,400円 | 1,333,800円 | 501,200円 | 1,450,800円 |
| 600万円 | 2,584,600円 | 2,176,400円 | 1,348,100円 | 1,756,300円 |
| 700万円 | 2,584,600円 | 2,584,600円 | 2,168,400円 | 2,168,400円 |
年収500万円の世帯では、13年間で受け取れる住宅ローン控除が2,283,400円から1,333,800円へ、949,600円減ります。 その分だけiDeCoの減税効果が食われ、1,450,800円あるはずのものが501,200円になります。
年収700万円の世帯では、どの列も変わりません。
★住宅ローン控除の減少額と、iDeCoの減税の目減り額は、どの年収でも一致します。 年収500万円ならどちらも949,600円、年収400万円ならどちらも967,200円です。偶然ではなく、iDeCoで浮いた税金が、そのまま住宅ローン控除の切り捨てに移っていることを示しています。年収400万円の967,200円が74,400円×13年ちょうどであるのに対し、年収500万円が949,600円とわずかに小さいのは、控除期間の終わりに近づくと年末残高が下がり、控除可能額そのものが使える枠を下回る年が出るためです。⑤ 影響を受ける世帯・受けない世帯
判定の基準は年収そのものではなく、住宅ローン控除を使い切れているかどうかです。
| iDeCoを増やしたときの減税 | |
|---|---|
| 控除可能額 > 所得税額 + 住民税の上限 | 目減りする(使い切れていない) |
| 控除可能額 ≦ 所得税額 + 住民税の上限 | 目減りしない(余力がある) |
使い切れていない状態になりやすいのは、次の組み合わせです。
- 借入残高が大きい(控除可能額が大きくなる)
- 年収がそれほど高くない(所得税額が小さい)
- すでに他の所得控除が多い(扶養控除、生命保険料控除、医療費控除など)
- 住宅ローンを夫婦で分けていない(1人に控除可能額が集中する)
逆に、次の場合は影響を受けにくくなります。
- 所得税の税率が20%以上の帯にいる
- 年末残高が控除限度額よりかなり小さい
- 控除期間13年が終わっている
⑥ 減税額だけで決められないこと
iDeCoの掛金は、その年の減税だけを目的とした支出ではありません。 厚生労働省の資料は税制上の扱いを次のように整理しています。
| 時点 | 扱い |
|---|---|
| 拠出時 | 加入者が拠出した掛金:全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除) |
| 運用時 | 運用益:運用中は非課税 / 積立金:特別法人税課税(現在、課税は停止されています) |
| 給付時 | 年金として受給:公的年金等控除 / 一時金として受給:退職所得控除 |
同時に、引き出せない期間があります。 老齢給付金は「原則60歳に到達した場合に受給することができる」とされ、60歳時点で通算加入者等期間が10年に満たない場合は支給開始年齢が段階的に先延ばしになります。
そして期間の長さが違います。 住宅ローン控除は13年で終わりますが、掛金の拠出はそのあとも続けられます。目減りするのは13年のあいだだけです。
本記事は、掛金をいくらにすべきかを判断するものではありません。上の表は制度上の扱いを並べたものであり、運用の成果を約束するものではありません。あなたの数字で確かめる手順
① 控除可能額を出す
控除可能額 = 年末残高等証明書の残高 × 0.7%(100円未満切捨て)
ただし控除限度額(居住年と住宅の区分で決まる)が上限
② 所得税で引ききれているかを見る
源泉徴収票の「源泉徴収税額」を見ます。
| 源泉徴収税額 | 意味 |
|---|---|
| 0円ではない | 所得税に余力がある。iDeCoを増やしても目減りしにくい |
| 0円 | 所得税は使い切っている。残りは住民税の上限との勝負 |
③ 住民税から引ける上限を出す
住民税の上限 = 所得税の課税総所得金額等 × 5%(最高97,500円)
課税総所得金額等は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を引いた額です。
④ 足りているかを確かめる
使える枠 = 所得税額 + 住民税の上限
控除可能額 − 使える枠 = 切り捨てになる額
⑤ 掛金を増やした場合を計算し直す
掛金を増やすと、②の所得税額と③の課税総所得金額等の両方が下がります。 下がった後の数字で④をやり直せば、増えた掛金のうちどれだけが実際の節税として残るかが出ます。
まとめ
- 2026年12月1日から、第2号加入者のiDeCoの拠出限度額が月6.2万円に一本化される。企業年金のない会社員は月2.3万円からの増額。第1号加入者はiDeCoと国民年金基金の共通枠が月7.5万円、第3号加入者は月2.3万円のまま
- iDeCoの掛金は所得控除(全額)、住宅ローン控除は税額控除。順番があり、iDeCoは住宅ローン控除が引かれる相手そのものを小さくする
- 住宅ローン控除で受け取れるのは所得税額 + 住民税からの控除まで。住民税側は、課税総所得金額等の5%(最高97,500円)が上限
- この上限の計算にもiDeCoが効く。 課税総所得金額等が195万円に届かない世帯では、所得税額と住民税の上限が同時に下がる
- 前提の世帯(認定住宅・令和8年入居・年末残高3,357万円・共働き・子2人)で年74.4万円を拠出した場合、1年あたりの減税額は年収400万円・500万円で111,600円 → 37,200円(3分の1)、年収600万円で135,100円 → 67,800円、年収700万円以上では目減りしない
- 年収400万円・500万円で3分の1になるのは、所得税分の37,200円がまるごと消え、住民税分の74,400円も上限の低下で半分になるため。名目15%の所得控除が実質5%になる
- 13年の合計では、年収500万円の世帯で受け取れる住宅ローン控除が2,283,400円 → 1,333,800円(949,600円減)
- 使い切れなかった住宅ローン控除は翌年に繰り越せない。 切り捨てになる
- 判定の基準は年収ではなく、控除可能額が所得税額と住民税の上限の合計を超えているかどうか
- 目減りするのは控除期間13年のあいだだけ。運用益の非課税や受取時の控除、60歳まで引き出せないことは別の軸で考える必要がある
掛金を増やす前に、源泉徴収票の源泉徴収税額を一度見てください。 そこが0円なら、増やした分の効き方はこの記事の計算に近くなります。