税金

相続した実家を売る期限は3年ではない ― 空き家の3,000万円特別控除

総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%でどちらも過去最高でした。このうち「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万6千戸あります。

相続した実家を売ったときに使える控除が、3,000万円の特別控除(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例)です。よく「相続してから3年以内に売れば使える」と説明されます。

しかし条文には、期限がもう一つ書かれています。

相続又は遺贈…による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人…が、平成二十八年四月一日から令和九年十二月三十一日までの間に、次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限る…)をした場合

制度そのものが令和9年12月31日で終わります。この記事を書いている2026年8月30日に相続が開始したとすると、3年ルールだけを見れば2029年12月31日までですが、実際の締切は2027年12月31日、残りは488日です。

結論

実家を相続したあとにできることは、時間が経つほど減っていきます。 期限は一つではなく複数あり、いちばん早く来るものが実際の締切になります。「相続から3年」だけを覚えていると、間に合わない側に回ります。

そしていま起きているのは、制度そのものの期限が3年ルールより先に来る状態です。 相続が最近であるほど、使える期間は3年より短くなります。遅く相続した人ほど、判断を急がされるという、直感に反する形になっています。

期限だけの問題でもありません。 相続したあとに実家をどう扱うか ― 貸すか、誰かが住むか、空けたままにするか ― という選択が、そのまま特例を使えるかどうかを決めます。片づけるつもりで貸したことが、控除を失う原因になります。

相続税の特例と譲渡所得の特例は、求める行動が逆を向くことがあります。 一方は保有し続けることを求め、もう一方は期限内に手放すことを求めます。両方を同時に満たそうとすると、時間の余裕がなくなります。

さらに、控除の枠はきょうだいの人数で動きます。 人数が増えれば枠も増える、という単純な関係ではありません。

本記事は売るべきか持ち続けるべきかを断定しません。制度の要件と期限、そして金額の差を計算するところまでを扱います。実際の判断には、物件の状況と家族の事情を踏まえた個別の検討が要ります。

計算の前提

記事の中で3つの設例を使います。いずれも説明のために作った架空の数字です。

設例1設例2設例3
目的特例の有無で税額がどう変わるか相続人の人数で控除枠がどう動くか取得費加算とどちらが有利か
売却代金3,000万円8,000万円5,000万円
取得費不明(概算取得費=収入金額の5%)同左同左
譲渡費用200万円400万円1人あたり150万円
相続人子1人子1〜5人(均等に共有)子2人(均等に共有)
相続税かからない前提に置かない課税価格1億円・実家の評価額4,000万円

共通の前提は次のとおりです。

項目条件
家屋昭和56年5月31日以前に建築、区分所有建物登記なし、被相続人が一人で居住
所有期間長期譲渡所得(相続の場合は被相続人の取得の日から数える)
税率所得税15%・住民税5%・復興特別所得税は所得税額の2.1%
端数処理100円未満切捨てなどの端数処理は考慮していない
相続税債務控除・生前贈与加算・小規模宅地等の特例はなし
計算は Python のスクリプト(scripts/calc-jikka-sozoku-akiya.py)で行い、出力をそのまま転記しています。

① 期限は3つある

第35条3項には、譲渡の期限が2つ書かれています。 さらに相続税側にもう1つあります。

#期限内容
1制度の適用期間平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡
23年ルール相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
3相続税の申告期限死亡の日の翌日から10か月(小規模宅地等の特例を使うなら、ここまで保有が要る)

1と2は「どちらも満たす」必要があります。 つまり早いほうが締切です。

相続開始3年ルールの期限制度の期限実際の締切3年より短くなる日数
2023年2026年12月31日2027年12月31日2026年12月31日
2024年2027年12月31日2027年12月31日2027年12月31日
2025年2028年12月31日2027年12月31日2027年12月31日366日
2026年2029年12月31日2027年12月31日2027年12月31日731日
2027年2030年12月31日2027年12月31日2027年12月31日1,096日

令和7年(2025年)以降に相続が開始した人は、3年を使い切れません。 2026年に相続が開始した人が使えるのは、3年ではなく最長で2027年12月31日まで。この記事の執筆日(2026年8月30日)に相続が開始したなら488日です。

延長されるかどうかは、まだ分からない

財務省の令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)の全文を検索しましたが、この特例に関する記載はありません。 延長も、縮小も、書かれていません。

したがって現時点では、令和9年12月31日で終わる前提で予定を立てるしかありません。 延長されるとしても、それが分かるのは令和9年度以降の大綱です。「たぶん延長されるだろう」で待つと、間に合わなくなる可能性があります。

取得費加算の期限は、これより遅い

相続税を納めた人が使える取得費加算の特例(第39条)には、別の期限があります。

その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。

2026年8月30日に相続が開始した場合、相続税の申告期限は2027年6月30日、取得費加算の期限は2030年6月30日です。空き家の特例のほうが912日早く締め切られます。 ただし後述のとおり、この2つは併用できません。

② 3,000万円が効くかどうかで、いくら違うか

設例1(売却代金3,000万円・相続人1人)で計算します。

親が古くから住んでいた家は、購入時の契約書が残っていないことがよくあります。 その場合は概算取得費を使います。

売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。

金額
収入金額30,000,000円
概算取得費(収入金額の5%)1,500,000円
譲渡費用2,000,000円
譲渡所得26,500,000円

取得費が5%しかないため、売却代金のほとんどが譲渡所得になります。

所得税復興特別所得税住民税合計
特例を使えない3,975,000円83,475円1,325,000円5,383,475円
特例を使える0円0円0円0円

差は5,383,475円です。

控除額は3,000万円が上限ですが、譲渡所得の金額が限度です。この設例では譲渡所得26,500,000円がそのまま控除額になります。国税庁のチェックシートも「譲渡所得金額が3,000万円(取得した相続人が3人以上の場合は2,000万円)に満たない場合の特別控除額は、その譲渡所得金額が限度となります」としています。

相続税がかからない家庭でも、この差は生じます。 この特例は相続税ではなく所得税(譲渡所得)の特例だからです。

③ 控除枠は、きょうだいの人数で動く

第35条4項に、人数による読み替えが書かれています。

前項の場合において、当該相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人の数が三人以上であるときにおける第一項の規定の適用については、同項第一号中「三千万円(」とあるのは「二千万円(…

3人以上になると、1人あたりの枠が3,000万円から2,000万円に下がります。 令和6年1月1日以後に行う譲渡が対象です。

設例2(売却代金8,000万円)で、人数を1人から5人まで動かして計算します。

相続人1人の譲渡所得1人の控除額1人の課税所得1人の税額全体の税額
1人72,000,000円30,000,000円42,000,000円8,532,300円8,532,300円
2人36,000,000円30,000,000円6,000,000円1,218,900円2,437,800円
3人24,000,000円20,000,000円4,000,000円812,600円2,437,800円
4人18,000,000円18,000,000円0円0円0円
5人14,400,000円14,400,000円0円0円0円

2人と3人で、全体の税額が同じ(2,437,800円)になりました。

72,000,0001人72,000,0002人72,000,0003人72,000,0004人72,000,0005人
1人2人3人4人5人
特別控除で消える部分30,000,00060,000,00060,000,00072,000,00072,000,000
課税される部分42,000,00012,000,00012,000,00000
合計72,000,00072,000,00072,000,00072,000,00072,000,000

5本とも高さは同じ7,200万円です。分けても譲渡所得の合計は変わりません。変わっているのは色の境目だけで、2人と3人はまったく同じ位置にあります。1人あたりの枠が3,000万円から2,000万円に下がるため、頭数が1人増えても世帯全体の枠は6,000万円のまま増えないからです。

売却代金8,000万円・概算取得費400万円・譲渡費用400万円のとき、譲渡所得7,200万円のうち特別控除で消える部分と、課税される部分。相続人の数だけを動かしている。

控除枠の合計を並べると、2人と3人だけが同じになります。

相続人1人あたりの枠枠の合計
1人3,000万円3,000万円
2人3,000万円6,000万円
3人2,000万円6,000万円
4人2,000万円8,000万円
5人2,000万円1億円

きょうだいが2人から3人に増えても、世帯全体で使える枠は増えません。 3,000万円 × 2人 も、2,000万円 × 3人 も、同じ6,000万円だからです。4人以上になってはじめて枠が増え始めます。

分離課税の税率は比例税率なので、特例が使えない場合の税額は人数に関係なく一定です。 設例2では、誰が何人で相続しても14,626,800円になります。人数で変わるのは控除枠だけです。

なお、1億円以下という要件は人ごとではありません。 他の相続人が売った分も、複数年に分けて売った分も合算して判定します。

そしてこの特例は、一人の相続人が同じ実家について二度は使えません。

(6)同一の被相続人から相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。

この制限がかかるのは人ごとです。 条文は「当該相続人が既に当該相続又は遺贈に係る当該被相続人居住用家屋又は当該被相続人居住用家屋の敷地等の対象譲渡についてこの項の規定の適用を受けている場合を除き」(第35条3項)と書いており、国税庁のチェックシートも「**あなた(売却した方)**は、……この特例を受けるのは初めてですか。」と、売った人ごとに問うています。きょうだいの誰かが使うと他の人が使えなくなる、という意味ではありません。 上の表で2人・3人がそれぞれ控除を受けられるのは、そのためです。

同じ人が先に一部だけ売って控除を使ってしまうと、残りを売るときには使えません。 分けて売る場合は、どの譲渡で使うかを決めてから動く必要があります。

この特例を受ける人は、家屋または敷地を取得した他の相続人に対して、売却をした旨・売却をした日その他参考となるべき事項を通知しなければならないことになっています(第35条8項)。1億円の判定を全員分合算するための仕組みです。

④ 「どうするか」を決めた時点で、使えるかどうかが決まる

この特例でいちばん外れやすいのは、期限ではなく用途の要件です。

イ 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと

相続してから売るまでのあいだに、次のことをすると外れます。

したこと結果
人に貸した(賃貸・民泊など)使えない
相続人やその家族が住んだ使えない
取り壊したあと、月極駐車場にした使えない(更地を貸すことが「貸付けの用」に当たる)
空き家のまま維持した使える
取り壊して更地のまま売った使える
家屋を取り壊して敷地だけを売る場合、敷地には2つの要件が別々にかかります。 条文は「ロ 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。」「ハ 当該取壊し、除却又は滅失の時から当該譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。」(第35条3項2号)と分けて書いています。月極駐車場が外れるのはハではなくロです。 建物も構築物も無い青空駐車場でもハには触れませんが、貸している以上ロに反します。

「とりあえず貸して維持費を賄おう」という判断が、控除を失わせます。 実家を相続した直後は、片づけと登記と相続税の申告に追われて、売るかどうかを決める前に時間が過ぎます。その間に何をしたかが、後から効いてきます。

家屋が古くて耐震基準を満たさない場合

昭和56年5月31日以前に建築されたことが要件なので、対象になる家屋はそもそも旧耐震です。従来は、売主が耐震改修をするか、取り壊して更地にしてから売る必要がありました。

令和6年1月1日以後の譲渡からは、3つ目の方法が使えます。

(ロ) 譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、一定の耐震基準を満たすこととなったこと。

(ハ) 譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、被相続人居住用家屋の全部の取壊し等を行ったこと

買主が引き渡しを受けたあとに耐震改修または取壊しをしても、翌年2月15日までに終われば適用できます。 売主が先に工事費を負担しなくてよくなったという意味で、実務上の影響は大きい変更です。

ただし証明書類の期限が細かく決まっています。耐震基準適合証明書は、工事完了日から確定申告書の提出の日までの間に証明のための調査が終了したものに限られます。

⑤ 小規模宅地等の特例とは、時間の向きが逆になる

相続税側にも実家の特例があります。 特定居住用宅地等に当たれば、330平方メートルまでの部分について評価額が**80%**減額されます。

しかし、配偶者でも同居親族でもない子が使うには、6つの要件をすべて満たす必要があります。

(1) 居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと。 (2) 被相続人に配偶者がいないこと。 (3) 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。 (4) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと。 (5) 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。 (6) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。

(4)と(5)で、持ち家のある子は外れます。 住宅ローンを組んで自分の家を買った人は、この時点で対象になりません。

そして(6)は、相続税の申告期限まで売るなという要件です。 申告期限は死亡の日の翌日から10か月です。

求めていること
小規模宅地等の特例(相続税)申告期限(10か月)まで持ち続ける
空き家の特例(所得税)令和9年12月31日までに売る

片方は持てと言い、もう片方は売れと言います。 2026年に相続が開始した場合、この2つを両立させようとすると、10か月が過ぎてから2027年12月31日までの間に売却を完了させることになります。買主を探し、条件を詰め、決済まで済ませる期間としては短いことが多くなります。

両方の税目にまたがるため、どちらを優先すべきかは相続税の見込み額と譲渡所得の見込み額の両方を出さないと決まりません。そもそも相続税がかからない家庭であれば、小規模宅地等の特例を気にする必要はありません。

⑥ 取得費加算とは、どちらか一方しか選べない

第35条3項は、対象になる譲渡から「第三十九条の規定の適用を受けるもの」を除いています。 国税庁のチェックシートにも明記されています。

※3 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39)との併用はできません。

取得費加算は、納めた相続税の一部を取得費に足す仕組みです。 国税庁の算式はこうです。

その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の相続税評価額÷(その者の取得財産の価額+その者の相続時精算課税適用財産の価額+その者の純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額)

まず確認すべきは、そもそも選択肢があるかどうかです。 取得費加算には「その財産を取得した人に相続税が課税されていること」という要件があります。相続税がかからなかった人には、この選択肢が存在しません。

設例3で、両方が選べる場合を計算します。

項目金額
課税価格の合計額100,000,000円(実家40,000,000円+預貯金60,000,000円)
基礎控除42,000,000円(3,000万円+600万円×2人)
課税遺産総額58,000,000円
法定相続分に応ずる取得金額29,000,000円(1人あたり)
相続税の速算表の当てはめ1,000万円超から3,000万円以下 → 税率15%・控除額50万円
1人あたりの税額3,850,000円
相続税の総額7,700,000円

実家を50,000,000円で売却し、2人が均等に取得したとします。

空き家の特例取得費加算
1人の譲渡所得22,250,000円22,250,000円
控除・加算特別控除 22,250,000円取得費加算 1,540,000円
課税譲渡所得0円20,710,000円
所得税0円3,106,500円
復興特別所得税0円65,236円
住民税0円1,035,500円
1人の税額0円4,207,236円

差は1人あたり4,207,236円、2人で8,414,472円です。

取得費加算の額は 3,850,000円 × 20,000,000円 ÷ 50,000,000円 = 1,540,000円 と計算しました。相続財産に占める実家の割合が小さいほど、加算額も小さくなります。 この設例では実家が課税価格の40%なので、相続税額の40%しか取得費に足せません。逆に、相続財産のほとんどが実家という家庭では加算額が大きくなり、結論が変わることがあります。

⑦ 併用できるものもある

使えなくなるものばかりではありません。 国税庁のチェックシートは、併用できるものを明示しています。

※1 マイホームを譲渡した場合の3,000万円特別控除(措法35①)又はマイホームの買換え等に係る特例措置(措法36の2、措法36の5、措法41の5、措法41の5の2)のいずれかとの併用が可能です。

※2 所得税及び復興特別所得税の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除との併用が可能です。

住宅ローン控除を受けている最中でも、この特例は使えます。 自宅を売る場合の3,000万円特別控除(第35条1項)は住宅ローン控除と併用できませんが、空き家の特例はこれとは別扱いです。

併用できることは、住宅ローン控除の側の条文からも読めます。 第41条24項と25項は、住宅ローン控除を使えなくする譲渡の特例を並べていますが、そこでの書き方が次のようになっています。

第三十一条の三第一項、第三十五条第一項(同条第三項の規定により適用する場合を除く。次項において同じ。)、第三十六条の二、第三十六条の五若しくは第三十七条の五の規定の適用を受ける場合

括弧書きが空き家の特例(第35条3項により適用する場合)を外しています。 そして「次項において同じ」とあるので、入居した年の翌年以後3年以内の譲渡を扱う25項でも同じです。自宅を売る場合の特例は前後どちらでも住宅ローン控除を止めますが、空き家の特例はどちらでも止めません。

ただし同じ年に自宅と実家の両方を売った場合は、上限が合算されます。

※2 同一年中に、空き家とマイホームの売却があった場合の特別控除額は合計で3,000万円が限度となります(措通35-7)。

それぞれ3,000万円で合計6,000万円、にはなりません。

なお、この特例の適用を受けるには確定申告が必要で、添付書類のひとつに、家屋の所在地の市区町村長から交付を受ける**「被相続人居住用家屋等確認書」**があります。税務署ではなく市区町村に申請するもので、交付に日数がかかります。締切の直前に売買を成立させると、書類が間に合わないことがあります。

あなたの数字で確かめる手順

① 締切の日を確定させる

Aの日 = 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日
Bの日 = 2027年12月31日(令和9年12月31日)
締切  = AとBのうち早いほう

2025年以降に相続が開始しているなら、締切はBの日です。

② 入口の要件を先に確認する

確認すること調べ方・注意
家屋と敷地の両方を相続で取得したか遺産分割協議書・登記事項証明書。どちらか一方だけを取得した人は使えない
昭和56年5月31日以前に建築されたか建物の登記事項証明書
区分所有建物登記がされていないか同上(二世帯住宅で区分登記していると外れる)
相続開始の直前に被相続人が住んでいて、ほかに住んでいた人がいなかったか住民票など。老人ホームに入っていた場合は下の注を読む
売却代金が1億円以下他の相続人が売った分・複数年に分けて売った分も合算して判定する
売却先が特別の関係がある人でないか親子・夫婦、生計を一にする親族、売った後にその家で同居する親族、内縁関係にある人、同族会社などへの売却は使えない

このどれか一つでも欠けると、以下は検討する必要がありません。

被相続人が老人ホーム等に入っていて、亡くなった時点で実家が空いていた場合でも、あきらめる必要はありません。 国税庁は「要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(以下「従前居住用家屋」といいます。)は被相続人居住用家屋に該当します」としています。要件はコード3307に別に定められており、ここで扱う3つの要件とは別体系です。空き家になった経緯として最も多い形なので、必ず確認してください。

③ 譲渡所得を概算する

譲渡所得 = 売却見込額 −(取得費 + 譲渡費用)
取得費が不明なら → 売却見込額 × 5%

この額が特別控除の枠(3,000万円、相続人が3人以上なら2,000万円)を下回るなら、税額はゼロになります。

④ 相続税を納めているかどうかで、比較の相手が変わる

検討すること
相続税がかからない空き家の特例だけ。取得費加算は選べない
相続税を納めた空き家の特例と取得費加算を計算して比べる。併用はできない

⑤ 売る前に、貸したり住んだりしていないかを確認する

すでに貸してしまっている場合、この特例は使えません。 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住のどれにも使っていないことが要件です。

まとめ

  • 相続した実家を売って使える控除は最高3,000万円。相続人の数が3人以上なら2,000万円(令和6年1月1日以後の譲渡)
  • 期限は2つあり、早いほうが締切。3年ルールに加えて、制度自体が令和9年12月31日で終わる
  • 2025年以降に相続が開始した人は、3年を使い切れない。 2026年8月30日に相続が開始したなら残りは488日
  • 令和8年度税制改正の大綱にこの特例の記載はない。 延長を前提に予定を立てない
  • 設例1(売却代金3,000万円・譲渡費用200万円)では、譲渡所得26,500,000円に対して特例の有無で5,383,475円の差
  • 取得費が不明なら概算取得費は収入金額の5%。 古い実家ほど売却代金のほとんどが譲渡所得になる
  • 入口の要件は家屋の3つだけではない。 家屋と敷地の両方を相続で取得していること、売却代金が1億円以下であること(他の相続人が売った分・複数年に分けて売った分も合算して判定)、特別の関係がある人への売却でないことも要件
  • 被相続人が老人ホーム等に入っていて、相続時に実家が空いていた場合も対象になりうる(従前居住用家屋)。要件は別体系(国税庁コード3307)だが、空き家になった経緯として最も多い形なので、ここで諦めない
  • 控除枠は人数に比例しない。 きょうだい2人(3,000万円×2)も3人(2,000万円×3)も合計6,000万円で同じ。設例2では全体の税額がどちらも2,437,800円
  • 相続してから売るまでに貸す・住むと使えない。 取り壊した後に駐車場にしても外れる
  • 令和6年1月1日以後は、買主が翌年2月15日までに耐震改修または取壊しをする方法も使える
  • 小規模宅地等の特例(330平方メートルまで80%減額)は、申告期限まで保有することを求める。 持ち家のある子はそもそも要件(4)(5)で外れることが多い
  • 取得費加算(第39条)とは併用できない。 相続税を納めていなければ、そもそも選択肢がない。設例3では空き家の特例が1人あたり4,207,236円有利
  • 住宅ローン控除とは併用できる。 ただし同じ年に自宅と実家を売ると、特別控除額の合計は3,000万円が限度

この特例は、要件の数が多いわりに期限が短い制度です。 相続が起きてから調べ始めると間に合わないことがあります。本記事の手順は、その確認を早く始めるためのものです。

よくある質問

相続した実家を売るときの3,000万円特別控除は、いつまでに売れば使えますか?

2つの期限があり、早いほうが実際の締切になります。1つは「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」、もう1つは制度そのものの適用期間で「平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間」の譲渡に限られます。租税特別措置法第35条3項に両方が書かれています。したがって令和7年(2025年)以降に相続が開始した人は、3年をフルには使えません。たとえば2026年8月30日に相続が開始した場合、3年ルールだけを見れば2029年12月31日までですが、制度の期限が先に来るため実際の締切は2027年12月31日です。残りは488日しかありません。令和8年度税制改正の大綱にはこの特例を延長する記載がないため、現時点では延長を前提に予定を立てないでください。

3,000万円の控除は、相続人が何人いても1人3,000万円ずつ使えるのですか?

いいえ。租税特別措置法第35条4項で、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は、1人あたり2,000万円に下がります。令和6年1月1日以後に行う譲渡が対象です。控除は譲渡所得の申告をする人ごとに適用しますが、1人あたりの枠が減るため、きょうだい2人で1人3,000万円ずつ(合計6,000万円)と、きょうだい3人で1人2,000万円ずつ(合計6,000万円)は、世帯全体で見ると同じ額になります。4人以上になると合計8,000万円、5人で1億円と増えていきます。なお実際に控除できるのは、その人の譲渡所得の金額が限度です。

親は亡くなる前に老人ホームに入っていました。実家はそのとき空き家でしたが、それでも使えますか?

使える場合があります。この特例は本来「相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋」を対象にしていますが、国税庁は「要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(以下「従前居住用家屋」といいます。)は被相続人居住用家屋に該当します」としています。「特定事由」とは、介護保険法の要介護認定もしくは要支援認定を受けていた被相続人が養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅などに入居・入所していたこと、または障害支援区分の認定を受けていた被相続人が障害者支援施設などに入所・入居していたことをいいます。そのうえで、実家が居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで引き続き被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと、その間に事業の用・貸付けの用・被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと、老人ホーム等に入所した時から相続の開始の直前までの間に被相続人が主として居住の用に供していたと認められる家屋がその老人ホーム等であること、が要件になります。要件はコード3307に別に定められているので、必ずそちらで確認してください。なお「相続の開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと」という要件は、この場合、老人ホーム等に移る直前の時点で判定します。

実家を人に貸してから売っても、この特例は使えますか?

使えません。租税特別措置法第35条3項は、家屋についても敷地についても「当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」を要件にしています。相続してから売るまでのあいだに、賃貸に出す、駐車場にする、相続人が住む、といったことをすると、その時点で要件を満たさなくなります。空室のまま維持したうえで売却する必要があるということです。家屋を取り壊して敷地だけを売る場合は、敷地に2つの要件が別々にかかります。相続の時から譲渡の時まで事業の用・貸付けの用・居住の用に供されていないこと(第35条3項2号ロ)と、取壊しの時から譲渡の時まで建物または構築物の敷地の用に供されていないこと(同号ハ)です。更地にして一時的に月極駐車場にすると、建物も構築物も建っていないのでハには触れませんが、貸している以上ロに反するため外れます。

家屋が古くて耐震基準を満たしていません。取り壊さないと使えませんか?

取り壊す方法のほかに、令和6年1月1日以後の譲渡から使える方法があります。国税庁は、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、一定の耐震基準を満たすこととなった場合、または家屋の全部の取壊し等を行った場合も対象になるとしています。つまり売買契約の後、買主が耐震改修または取壊しを行っても、翌年2月15日までに完了すれば適用できます。売主が先にお金を出して工事をする必要がなくなったという意味で、実務上は大きな変更です。ただし証明書類が必要で、耐震基準適合証明書は工事完了日から確定申告書の提出の日までの間に調査が終了したものに限られます。

小規模宅地等の特例と、この空き家の特例はどちらも使えますか?

税目が違うので別々に判定しますが、実際には両立しにくい組み合わせです。小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等・330平方メートルまで80%減額)を配偶者以外の別居の親族が使う場合、国税庁が示す要件には「その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること」が含まれます。相続税の申告期限は死亡の日の翌日から10か月なので、その間は売れません。さらに、その親族の要件には「相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと」「相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと」があります。自分名義の家に住んでいる人は、この時点で対象外です。持ち家を買った子が親の実家を相続するケースでは、小規模宅地等の特例は使えず、譲渡所得の特例だけが残ることが多くなります。

取得費加算の特例とはどちらが有利ですか?

両方は使えません。租税特別措置法第35条3項が「第三十九条の規定の適用を受けるもの」を対象から除いており、国税庁のチェックシートも「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39)との併用はできません」と明記しています。どちらが有利かは金額次第ですが、判断の出発点は2つあります。1つは、取得費加算はその財産を取得した人に相続税が課税されていることが要件なので、相続税がかからなかった人にはそもそも選択肢がないこと。もう1つは、加算される額が「その者の相続税額×譲渡した財産の相続税評価額÷その者の取得財産の価額等」で決まるため、相続財産に占める実家の割合が小さいほど加算額も小さくなることです。本文の設例では空き家特例のほうが1人あたり4,207,236円有利になりました。

住宅ローン控除を受けている最中でも、この特例を使えますか?

使えます。国税庁のチェックシートは「所得税及び復興特別所得税の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除との併用が可能です」としています。自宅を売る場合の3,000万円特別控除(措法35条1項)のほうは住宅ローン控除と併用できず、しかも排除される期間は前後の両方にあります。入居した年とその前年・前々年に適用を受けている場合(措法41条24項)だけでなく、入居した年の翌年以後3年以内に自宅などを売って適用を受けた場合(同条25項)も、住宅ローン控除が使えなくなります。空き家の特例はこれとは別扱いで、この2つの条文はどちらも対象を「第三十五条第一項(同条第三項の規定により適用する場合を除く。)」と書き、空き家の特例(同条3項により適用する場合)を明文で外しています。自分の家のローン控除を受けながら、親から相続した実家を売って3,000万円の控除を受けることができます。ただし同じ年に自宅と実家の両方を売った場合は、特別控除額の合計が3,000万円までに制限されます。

相続税がかからない家庭には関係のない話ですか?

関係あります。この特例は相続税ではなく所得税(譲渡所得)の特例なので、相続税がかからない家庭でも売却益が出れば所得税と住民税がかかります。取得した時期が古くて購入代金の資料が残っていない実家は、収入金額の5%を概算取得費とするしかないことが多く、その場合は売却代金のほとんどが譲渡所得になります。本文の設例では、売却代金3,000万円・譲渡費用200万円で譲渡所得が2,650万円になり、特例が使えるかどうかで5,383,475円の差が出ました。相続税の心配がない家庭ほど、この特例を知らないまま期限を過ぎる危険があります。

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