副業の話でよく出てくるのが「20万円以下なら申告しなくていい」という言い方です。
これは半分だけ正しい説明です。
| 20万円という線引き | |
|---|---|
| 所得税 | ある(所得税法121条) |
| 住民税 | ない |
所得税の話を、税金全体の話として聞いてしまうところに落とし穴があります。
結論
この基準は、所得税の確定申告書を出さなくてよい場合を定めたものです。 その所得を非課税にする規定ではありません。この違いが、いくつもの誤解の出発点になっています。
住民税には、この基準がありません。 市区町村への申告を免除される範囲は別の条文で定められていて、そこには金額の線引きがないからです。したがって、所得税の申告が不要な人ほど、住民税の申告が必要になります。
そして「申告しなくてよい」は「税金がかからない」でもありません。 他の理由で確定申告をするなら、その所得も申告することになります。医療費控除やふるさと納税のために申告する人は、ここで結果が変わります。
さらに、判定に使うのは収入ではありません。 ここも取り違えやすいところです。
計算の前提
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 本業 | 給与1か所・年末調整済み・年収2,000万円以下 |
| 副業 | 雑所得(給与ではないもの) |
| 住民税 | 所得割の標準税率10% |
| 復興特別所得税 | 所得税額の2.1% |
① 所得税の「20万円」はどう定められているか
所得税法121条の見出しは「確定所得申告を要しない場合」です。
その年において給与所得を有する居住者で、その年中に支払を受けるべき……給与等の金額が二千万円以下であるものは、次の各号のいずれかに該当する場合には、前条第一項の規定にかかわらず、その年分の課税総所得金額及び課税山林所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。
一 一の給与等の支払者から給与等の支払を受け、かつ、当該給与等の全部について……所得税の徴収をされた又はされるべき場合において、その年分の利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額……が二十万円以下であるとき。
「申告書を提出することを要しない」と書いてあります。 「課税しない」でも「所得に算入しない」でもありません。提出義務の免除です。
この読み方の違いが、後で効いてきます。
② 住民税には20万円がない
根拠は地方税法317条の2第1項です。 まず原則として、申告書の提出を義務づけています。
第二百九十四条第一項第一号に掲げる者は、三月十五日までに、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申告書を賦課期日現在における住所所在地の市町村長に提出しなければならない。
そのうえで、ただし書で免除される人を定めています。
ただし、……給与支払報告書……を提出する義務がある者から一月一日現在において……給与……の支払を受けている者で前年中において給与所得以外の所得……を有しなかつたもの……については、この限りでない。
免除の条件は「給与所得以外の所得を有しなかったこと」です。 金額は書かれていません。
したがって副業の所得があれば、それが1万円でも19万円でも、このただし書には当てはまりません。
| 所得税 | 住民税 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 所得税法121条 | 地方税法317条の2第1項ただし書 |
| 免除の条件 | 給与所得等以外の所得が20万円以下 | 給与所得以外の所得がない |
| 副業の所得が15万円のとき | 申告不要 | 申告が必要 |
③ 確定申告をすると、20万円以下でも所得税がかかる
ここが最も影響の大きい点です。
所得税法121条は提出義務の免除なので、確定申告書を提出するのであれば、その免除は関係がなくなります。 申告書に書くべき内容は120条1項1号に定められています。
一 その年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額並びに……雑損控除その他の控除の額並びに課税総所得金額……
「総所得金額」なので、副業の雑所得もここに入ります。
つまり、医療費控除やふるさと納税のワンストップ特例が使えない場合などで確定申告をすると、20万円以下の副業所得にも所得税がかかります。
| 所得税の税率 | 副業の所得20万円にかかる所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 5% | 10,209円 | 20,000円 | 30,209円 |
| 10% | 20,419円 | 20,000円 | 40,419円 |
| 20% | 40,839円 | 20,000円 | 60,839円 |
| 23% | 46,965円 | 20,000円 | 66,965円 |
医療費控除で還付を受けようとした結果、副業の所得に所得税がかかって差引では損になる、ということが起こり得ます。
| 確定申告をしない | 確定申告をする | |
|---|---|---|
| 住民税(申告の有無にかかわらずかかる) | 20,000 | 20,000 |
| 所得税(確定申告をすると発生する) | 0 | 20,419 |
| 合計 | 20,000 | 40,419 |
下の色(住民税)は2本とも同じ高さです。住民税は申告の有無にかかわらずかかるためです。変わるのは上の色だけで、確定申告をすると副業の所得に所得税が発生します。医療費控除で戻る額がこれを上回るかどうかを、申告の前に計算してください。
④ 判定するのは「収入」ではなく「所得」
条文が挙げているのは「雑所得の金額」です。 収入ではありません。
所得 = 収入 − 必要経費
| 副業の収入 | 必要経費 | 所得 | 所得税の申告 |
|---|---|---|---|
| 500,000円 | 320,000円 | 180,000円 | 不要 |
| 500,000円 | 280,000円 | 220,000円 | 必要 |
| 300,000円 | 50,000円 | 250,000円 | 必要 |
同じ収入50万円でも、必要経費で結論が変わります。
必要経費として認められるのは、その収入を得るために直接必要だった支出に限られます。⑤ 副業がアルバイト(給与)なら、判定の条文が変わる
所得税法121条1項1号は「一の給与等の支払者から給与等の支払を受け」ている場合の規定です。 副業がアルバイトなら給与を2か所から受けることになるので、2号が適用されます。
二 二以上の給与等の支払者から給与等の支払を受け…… イ ……従たる給与等の支払者から支払を受けるその年分の給与所得に係る給与等の金額とその年分の給与所得及び退職所得以外の所得金額との合計額が二十万円以下であるとき。
「給与等の金額」=必要経費を引く前の収入金額です。 副業がアルバイトの場合、給与所得控除を引いた後の金額ではなく、支払われた額そのもので判定することになります。
| 副業の形 | 判定に使う金額 |
|---|---|
| 業務委託・フリマ・配達など(雑所得) | 収入 − 必要経費 |
| アルバイト・パート(給与所得) | 支払われた給与の額そのもの |
同じ「20万円」でも、中身が違います。
⑥ 副業が何所得になるか
国税庁は、給与所得者の副収入について次のようなものを一般に雑所得としています。
| # | 例 |
|---|---|
| 1 | ネットオークション・フリマアプリなどを利用した個人取引による所得 |
| 2 | 暗号資産の売却等による所得 |
| 3 | 民泊による所得 |
| 4 | NFTを組成して第三者に譲渡したことによる所得 |
ただし例外があります。
(注)生活の用に供している資産(古着や家財など)の売却による所得は非課税(この所得については確定申告が不要)で、損失は生じてないものとみなされます。
着なくなった服を売った分は、そもそも所得に入りません。 20万円の判定にも入りません。
あなたの数字で確かめる手順
① 副業の「所得」を出す
所得 = 収入 − 必要経費
副業がアルバイト(給与)なら、支払われた額そのものを使います。
② 所得税の申告が要るかを判定する
| 判定 | 所得税の確定申告 |
|---|---|
| 20万円を超える | 必要 |
| 20万円以下 | 不要(ただし③④へ) |
③ 他に確定申告をする理由がないか確認する
医療費控除・住宅ローン控除の初年度・ふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)・株の損益通算など、確定申告をする理由があるなら、副業の所得も申告に含めます。
このとき、還付される額と、副業の所得にかかる所得税を両方計算して比べてください。
④ 所得税の申告をしないなら、住民税の申告をする
②で「不要」となり、③でも申告しないと決めた人は、住民税の申告が残ります。
逆に確定申告をするなら、住民税の申告は要りません。 確定申告のデータが市区町村へ回るためです。
確定申告をする → 住民税の申告は不要
確定申告をしない → 住民税の申告が必要
⑤ 住民税の影響が税額だけではないことを確認する
住民税の課税所得は、保育料・国民健康保険料・各種の助成の判定にも使われます。 副業の所得が反映されると、これらが変わることがあります。税額だけを見て判断しないでください。
まとめ
- 「20万円以下なら申告不要」は所得税だけの話。所得税法121条は「申告書を提出することを要しない」という提出義務の免除であって、非課税にする規定ではない
- 住民税には20万円という線引きがない。 地方税法317条の2第1項ただし書の免除条件は「給与所得以外の所得を有しなかったこと」で、金額は書かれていない
- したがって所得税の申告が不要な人ほど、住民税の申告が必要になる
- 確定申告をすると、20万円以下の副業所得にも所得税がかかる。 所得税の税率10%なら20万円につき20,419円。医療費控除の還付と差引で損になることもある
- 判定に使うのは収入ではなく所得(収入 − 必要経費)。収入50万円でも、必要経費32万円なら所得18万円で申告不要
- 副業がアルバイト(給与)なら、支払われた額そのもので判定する(所得税法121条1項2号)
- 着なくなった服や家財を売った分はそもそも非課税で、20万円の判定にも入らない
- 住民税は保育料や国民健康保険料の判定にも使われる。影響は税額だけではない
「20万円以下だから何もしなくていい」で終わらせると、住民税の側が残ります。 ご自身の副業の所得を出したうえで、③と④まで確認してください。