セルフメディケーション税制の適用期限は、もともと令和8年12月31日でした。今年の年末です。
ところが2026年3月31日に成立した令和8年度税制改正で、この制度は延長・拡充されました。
| 改正後 | |
|---|---|
| スイッチOTC医薬品の一部 | 適用期限を撤廃 |
| それ以外の対象医薬品 | 令和13年12月31日まで5年延長 |
| 対象となる医薬品の範囲 | 拡大(令和9年分以後の所得税から) |
終わるどころか、一部は期限そのものが無くなりました。
そうなると、この制度と付き合う期間は長くなります。そこで、選び方をきちんと整理しておきます。
結論
医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか使えません。 しかも申告した後に、有利なほうへ変更することもできません。選ぶ時点で決着させる必要があります。
よく見かける「医療費がいくらを超えたか」という境目の示し方は、正確ではありません。 2つの制度は差し引く金額が違うだけで、どちらも同じ支出を対象にできるからです。式を並べて整理すると、境目は医療費の合計ではなく、その内訳のほうで決まります。
そしてセルフメディケーション税制には、医療費控除にはない条件があります。 申告する本人が健康診断や予防接種を受けていることです。控除額の大小の前に、そもそも使えるかどうかが決まります。
令和8年度税制改正の内容は、**令和8年3月31日に成立・公布された「所得税法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第12号)**に基づきます。ただし対象品目の具体的な追加・除外は、今後の厚生労働省告示で定められます。計算の前提
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 対象 | 申告する本人が、自分または生計を一にする家族のために実際に支払った医療費 |
| 総所得金額等 | 200万円以上(足切りが10万円になる区分) |
| 保険金等による補填 | なし |
| 市販薬 | セルフメディケーション税制の対象品目であり、かつ治療のために購入したもの |
| 「一定の取組」 | 申告する本人が行っている(要件を満たしている) |
2つの制度の違いは「差し引く金額」だけ
| 医療費控除 | セルフメディケーション税制 | |
|---|---|---|
| 対象 | 医療費全般 | 対象品目の市販薬だけ |
| 差し引く金額 | 10万円 | 12,000円 |
| 控除額の上限 | 200万円 | 88,000円 |
| 追加の条件 | なし | 本人が健診・予防接種を受けていること |
| 併用 | できない(選択適用) | 同左 |
セルフメディケーション税制の対象になる市販薬は、通常の医療費控除の対象にもなります。 治療のために買ったものであれば、国税庁が挙げる「医薬品の購入の対価」に当たるためです。
つまり同じ支出を、どちらの計算に入れることもできます。 違うのは、そこから差し引く金額です。
境目を式で出す
医療費の合計をM、そのうち対象品目の市販薬をSとします。
医療費控除額 = M − 100,000 (最高200万円)
セルフメディの控除額 = S − 12,000 (最高88,000円)
※ どちらも計算結果がマイナスになる場合、控除額は0円です
上限と下限まで書くと、こうなります。
医療費控除額 = min( 2,000,000, max(0, M − 100,000) )
セルフメディの控除額 = min( 88,000, max(0, S − 12,000) )
セルフメディケーション税制のほうが大きくなる条件は、こうなります。(どちらも0円にならない範囲で)
min(S, 100,000) − 12,000 > M − 100,000
⟺ M − min(S, 100,000) < 88,000
この式がそのまま判定になります。 ただし読み方には条件が付きます。
市販薬が10万円以下の場合
min(S, 100,000) は S そのものなので、左辺は M − S = 市販薬以外の医療費になります。
市販薬の購入額が10万円以下なら、市販薬以外の医療費が88,000円未満のとき、セルフメディケーション税制のほうが大きい。
「医療費が10万円を超えたか」ではありません。 10万円と12,000円の差である88,000円が境目です。
市販薬が10万円を超える場合は、この読み替えができない
左辺は M − 100,000 になり、「市販薬以外の医療費」ではなくなります。 セルフメディケーション税制の上限88,000円が効いてしまうためです。
極端な例で確かめます。
| 金額 | |
|---|---|
| 医療費の合計 | 200,000円 |
| うち対象品目の市販薬 | 200,000円(全額) |
| 市販薬以外の医療費 | 0円 |
「市販薬以外の医療費が0円<88,000円だからセルフメディケーション税制」とはなりません。
医療費控除 200,000 − 100,000 = 100,000円
セルフメディケーション 上限の 88,000円
通常の医療費控除のほうが大きくなります。
したがって簡易判定が使えるのは、市販薬の購入額が10万円以下のときだけです。 10万円を超える場合は、次のとおり2つの式を直接計算してください。
具体例で確かめる
| 医療費の合計 | うち市販薬 | 医療費控除 | セルフメディ | 大きいのは |
|---|---|---|---|---|
| 60,000円 | 40,000円 | 0円 | 28,000円 | セルフメディ |
| 95,000円 | 60,000円 | 0円 | 48,000円 | セルフメディ |
| 120,000円 | 20,000円 | 20,000円 | 8,000円 | 医療費控除 |
| 120,000円 | 100,000円 | 20,000円 | 88,000円 | セルフメディ |
| 150,000円 | 80,000円 | 50,000円 | 68,000円 | セルフメディ |
| 188,000円 | 100,000円 | 88,000円 | 88,000円 | 同額 |
| 250,000円 | 60,000円 | 150,000円 | 48,000円 | 医療費控除 |
| 400,000円 | 30,000円 | 300,000円 | 18,000円 | 医療費控除 |
3行目と4行目を見比べてください。 医療費の合計はどちらも120,000円で同じです。それでも結論が逆になります。 市販薬の割合が違うためです。
「医療費がいくらか」だけでは決まりません。
この表はすべて市販薬の購入額が10万円以下のケースです。10万円を超える場合は、上で見たとおり簡易判定が使えません。| ① 市販薬2万円 | ② 市販薬8万円 | ③ 市販薬10万円 | |
|---|---|---|---|
| 市販薬以外の医療費 | 100,000 | 40,000 | 20,000 |
| 対象品目の市販薬 | 20,000 | 80,000 | 100,000 |
| 合計 | 120,000 | 120,000 | 120,000 |
3本とも高さが同じ=医療費の合計は120,000円で変わりません。市販薬がいずれも10万円以下なので、見るのは下の色(市販薬以外の医療費)です。ここが88,000円を下回るとセルフメディケーション税制のほうが大きくなります。①は100,000円なので医療費控除、②の40,000円と③の20,000円ではセルフメディケーション税制が勝ちます。
上限88,000円は、医療費でいうといくらか
セルフメディケーション税制の控除額には88,000円の上限があります。 これを医療費控除に置き換えると、こうなります。
医療費控除額が88,000円になる医療費 = 88,000 + 100,000 = 188,000円
市販薬を10万円買って上限まで使い切っても、医療費の合計が188,000円を超えれば、通常の医療費控除のほうが大きくなります。
セルフメディケーション税制が効くのは、医療費の合計が188,000円までの範囲です。 それを超えると、必ず通常の医療費控除が上回ります。
控除額と、実際に軽くなる税額は違う
所得控除は、税額から直接引かれるものではありません。 課税所得を減らすものなので、**軽くなる税額は「控除額 × 税率」**です。
| 所得税の税率 | 所得税+住民税 | 上限88,000円を使い切った場合 |
|---|---|---|
| 5% | 15% | 13,200円 |
| 10% | 20% | 17,600円 |
| 20% | 30% | 26,400円 |
同じ88,000円の控除でも、税率によって手取りへの効き方が2倍変わります。
総所得金額等が200万円未満なら、境目が動く
医療費控除で差し引く10万円は、総所得金額等が200万円以上の場合の金額です。
(2)10万円 (注)その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5パーセントの金額
| 総所得金額等 | 差し引く金額 | 医療費30万円のときの控除額 |
|---|---|---|
| 100万円 | 50,000円 | 250,000円 |
| 150万円 | 75,000円 | 225,000円 |
| 190万円 | 95,000円 | 205,000円 |
| 200万円 | 100,000円 | 200,000円 |
パートで働いている方、育児休業で収入が下がった年などは、この区分に当たることがあります。 「10万円を超えなければ使えない」という説明は、この場合には当てはまりません。
そもそも使えるか(セルフメディケーション税制の要件)
申告する本人が、その年に次のいずれかを行っていることが必要です。
| # | 一定の取組 |
|---|---|
| 1 | 保険者(健康保険組合、市区町村国保等)が実施する健康診査(人間ドック、各種健(検)診等) |
| 2 | 市区町村が健康増進事業として行う健康診査 |
| 3 | 予防接種(定期予防接種、インフルエンザワクチンの予防接種) |
| 4 | 勤務先で実施する定期健康診断(事業主健診) |
| 5 | 特定健康診査(いわゆるメタボ健診)、特定保健指導 |
| 6 | 市町村が健康増進事業として実施するがん検診 |
申告される方が「一定の取組」を行っていることが要件とされているため、申告される方が取組を行っていない場合は、控除を受けることはできません。
家族が健診を受けていても、申告する本人が受けていなければ使えません。
なお共働きの場合、「税率が高いほうで申告する」と自由に選べるわけではありません。 医療費控除はその医療費を実際に支払った人が受けるものだからです。妻の医療費を夫が実際に負担したのであれば夫の控除対象になりますが、名義を選ぶという性質のものではありません。
なお、健診や人間ドックの費用そのものは、セルフメディケーション税制の控除の対象にはなりません。
令和8年度税制改正で変わったこと
この改正は、令和8年3月31日に成立・公布された「所得税法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第12号)によるものです。 財務省の「令和8年度税制改正の解説」に内容が説明されています。
① 適用期限
本特例の適用期限について次のとおり見直され、対象となるスイッチOTC医薬品の一部……については適用期限を撤廃し、それ以外の医薬品については、その適用期限を令和13年12月31日まで5年延長することとされました(措法41の17①各号)。
| 適用期限 | |
|---|---|
| スイッチOTC医薬品の一部 | なし(撤廃) |
| それ以外の対象医薬品 | 令和13年12月31日(改正前:令和8年12月31日) |
② 対象となる医薬品の範囲
| 内容 | |
|---|---|
| 加わるもの | 消化器官用薬/一定の生薬(キキョウ等)を含む鎮咳去痰薬/一定の体外診断用医薬品(いわゆる検査薬)/薬局製造販売医薬品 |
| 外れるもの | 痩身または美容目的で使用される可能性がある医薬品 |
ただし具体的な品目は、まだ決まっていません。
「薬局製造販売医薬品」とは、薬局の薬剤師がその薬局の設備で製造し、その薬局で直接販売する医薬品のことです。製薬会社が製造する市販薬とは別のものです。なお、上記の追加される具体的な医薬品並びに除外される具体的な医薬品及び経過措置は、今後、厚生労働省告示……の改正により定められる予定です。
③ いつから適用されるか
上記2の改正は、令和9年分以後の所得税について適用し、令和8年分以前の所得税については従前どおりとされています(改正法附則46)。
2026年分(令和8年分)の確定申告は、これまでどおりです。 変わるのは2027年分(令和9年分)からです。
④ 別に廃止されたものもある
令和3年度税制改正で対象から除外された医薬品を、経過措置として引き続き対象としていた取扱いは、令和7年12月31日で廃止されました。
つまり今回の改正は「延長・拡充だけ」ではありません。 対象から外れるものもあります。購入時の領収書やパッケージの表示で、その時点の対象品目を確認してください。
あなたの数字で確かめる手順
① 使えるかを先に確認する
セルフメディケーション税制を検討するなら、まず申告する本人が健診・予防接種を受けたかを確認してください。 受けていなければ、控除額の比較をする意味がありません。
② 領収書を2つの山に分ける
S = 対象品目の市販薬の購入費
M = 医療費の合計(Sを含む)
M − S が「市販薬以外の医療費」です。
③ 88,000円と比べる
| 判定 | 選ぶもの |
|---|---|
| M − min(S, 100,000) < 88,000円 | セルフメディケーション税制 |
| M − min(S, 100,000) > 88,000円 | 医療費控除 |
総所得金額等が200万円未満なら、88,000円ではなく「総所得金額等の5% − 12,000円」が境目になります。
④ 保険金等がある場合は、対応する医療費から引く
「補填される金額」を、医療費の総額から一律に引くのではありません。 国税庁はこう書いています。
保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。
つまり、その保険金が何に対して支払われたかで、引く先が決まります。
たとえば病院代140,000円・対象品目の市販薬60,000円で、病院代に対して保険金100,000円が出た場合はこうなります。
| 計算 | |
|---|---|
| 医療費控除 | (140,000 − 100,000)+ 60,000 − 100,000 = 0円 |
| セルフメディケーション税制 | 60,000 − 0 − 12,000 = 48,000円 |
市販薬60,000円から保険金100,000円を引くのではありません。 病院代を補填する保険金なので、市販薬の側からは引かないためです。
⑤ 両方の控除額を実際に計算する
境目の判定は目安です。 最後は2つの式に数字を入れて、大きいほうを選んでください。
医療費控除額
= min( 2,000,000,
max(0, (各医療費 − その医療費を補填する保険金等)の合計
− 100,000(または総所得金額等の5%)) )
セルフメディの控除額
= min( 88,000,
max(0, S − Sを補填する保険金等 − 12,000) )
⑥ 申告の前に決める
選んだ後は、更正の請求や修正申告で変更できません。 提出する前に、両方を計算して確かめてください。
まとめ
- 医療費控除とセルフメディケーション税制は選択適用。併用できず、申告後の変更もできない
- 境目は「医療費が10万円を超えたか」ではない。市販薬の購入額が10万円以下なら、市販薬以外の医療費が88,000円未満かで決まる(10万円と12,000円の差)
- 市販薬が10万円を超える場合、この簡易判定は使えない。 上限88,000円が効くため、2つの式を直接計算する
- 医療費の合計が同じ120,000円でも、市販薬が2万円なら医療費控除、8万円ならセルフメディケーション税制が大きくなる
- セルフメディケーション税制の控除額の上限88,000円は、医療費でいうと188,000円に相当する。それを超えると必ず医療費控除が上回る
- 総所得金額等が200万円未満なら差し引くのは10万円ではなく総所得金額等の5%。境目もその分下がる
- 申告する本人が健診・予防接種を受けていることが要件。 家族が受けていても使えない
- 軽くなる税額は「控除額 × 税率」。上限88,000円を使い切っても、税率次第で13,200円〜26,400円
- 保険金等はその給付の目的となった医療費からだけ差し引く。医療費の総額から一律に引くのではない
- 控除額はマイナスにならない(0円が下限)。上限は医療費控除200万円・セルフメディケーション税制88,000円
- 令和8年3月31日に成立した令和8年度税制改正で、スイッチOTC医薬品の一部は適用期限を撤廃、それ以外は令和13年12月31日まで5年延長。適用は令和9年分以後の所得税から
- 対象範囲も見直され、消化器官用薬・検査薬・薬局製造販売医薬品などが加わる一方、痩身・美容目的のものは除外される。具体的な品目は今後の厚生労働省告示で定まる
この2つは、支出が同じでも結論が変わります。 領収書を分けて、2つの式に入れるところまでやってみてください。